「ゴミを出さないスーパー」京都に誕生。モーションセンサーで“量り売り“する最新テクノロジーで全国拡大を目指す

京都市上京区にオープンした「斗々屋(ととや)京都本店」の特徴とは?關つぐみ店長は「ごみ問題に取り組むためには個人の裁量だけに任せるのは限界がある」と話します。
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店長の關つぐみさんと堀真理子さん (マスクは撮影時にとってもらった)
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包装材などのごみを出さずに、容器を持ち込み、量り売りですべての食品や日用品を購入できる日本初のゼロ・ウェイスト・スーパー「斗々屋(ととや)」が京都市上京区にオープンした。生鮮食品や惣菜、調味料、乾物、お菓子、アルコール飲料、洗剤など約700品目を販売する。日々の買い物を通して、必要なものを必要なだけ、再利用できるものは再利用するという「地球1個分の暮らし」を根付かせ、持続可能な未来のための消費や生活のあり方を全国に広げていくことを目指す。店舗にはレストランを併設し、販売する食材を使い切り、食品ロスをなくす工夫も凝らしている。国内最新鋭の量り売り機械システムを導入し、利便性の高い新しい時代の量り売りを追求しながら、限りある資源を循環利用するライフスタイルを広めていく取り組みを取材した。(サステナブル・ブランド ジャパン=小松遥香)

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鴨川からほど近い、並木通りに面して「斗々屋京都本店」はある。木を基調とした自然光がよく入る店内には、関西を中心に栽培にこだわりを持つ農家が育てた多種多様な野菜や果物が並び、生産者の写真が栽培にかける思いと共に紹介されている。

奥に進むと、ドライハーブやハーブティー、米粉、セモリナ粉、塩、砂糖、生アーモンド、大豆、うどん、そば、パスタ、米、ひじき、梅干し、昆布、椎茸、ナムルのもと、大豆ミート、チョコレート、オリーブオイル、酢、ワイン、ヨーグルト、粉石鹸、重曹など国内外から集められた食材や日用品が揃う。それぞれの商品には調理方法や使用方法がていねいに書かれている。

冷蔵ショーケースには豚肉や豆腐、揚げ、味噌、うどんの生麺などのほかに、塩切干し大根の炊いたん、夏野菜のラタトゥイユ、お稲荷さん、ピエモンテ大豆のおから、琵琶湖産コイの南蛮漬けなど、季節感と地域性、多様性に富んだ惣菜が並ぶ。

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預かり金方式のリターナブル容器も揃えており、次回来店時に持参すると預かり金が返金される
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 預かり金方式のリターナブル容器も揃えており、次回来店時に持参すると預かり金が返金される

商品はすべて「オーガニック」「フェアトレード」「ゼロウェイスト」を基準に選んでいる。オーガニックについては「農薬・化学肥料・除草剤を使わず、自然の循環のなかで無理のない栽培を行うこと」と定め、健全な土壌を次の世代につなげていくことを大切にする。

オーガニック認証を受けた商品にはマークが表示されているが、認証品だけを販売しているわけではない。認証を受けていない場合にも生産者に話を聞いて認証に準ずる商品を選んでいる。また生産者にもプラスチックなどの使い捨て包装材を使わずに新聞紙で梱包して発送してもらうようお願いしているという。

“メニューのない”ゼロ・ウェイスト・レストラン

古材を活用し、木材をはじめ分解・再利用できる素材を選んで設計された店舗の奥には、“メニューのない”ゼロ・ウェイスト・レストランがある。食品ロスを出さないように、その日、店内にある野菜や肉、魚などの生鮮食品、日配品を使って、おすすめの料理をコース料理などで提供する。そこで使い切れない食材は密閉瓶を使い、新たに保存食を作って販売する。

厨房で出るごみも最小限に留めるよう努めている。野菜や果物の皮、ヘタなどは出汁として活用し、ラップなどの代わりに密封性のあるシリコンバッグを使う。使い捨ての割り箸や手拭きも提供しない。

レストランは昼間はカフェとして飲み物を提供し、惣菜をイートインして食べることもできる。こうして食品や資源のロスをゼロにしていこうというのが斗々屋が挑戦し、提案するゼロ・ウェイスト・スーパーの形だ。 

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 最新テクノロジーで、さっと買い物して、さっと帰れるように

量り売りと聞くと、アナログで一手間かかる印象があるかもしれない。しかし斗々屋では、「現在の生活に根付くような利便性の高い量り売りを提供したい」との思いから、国内最先端の量り売り販売の機械システムを導入する。このシステムは①店内の販売を制御するコンピューター②電子はかり③モーションセンサーなどで構成しており、来店者がスムーズにストレスなく買い物ができるようになっている。

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モーションセンサーの付いた瓶
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店に入ると、お客さんはまず持参した容器を入り口付近にある専用の電子はかりに乗せる。すると、重量が記録されたシール形式のタグが発行され、それを容器の底面に貼る。これで容器の重さが店内のシステムに登録されたことになり、食材を入れた同じ容器を店内の電子はかりに乗せると風袋が自動的に引かれて計量される。タグには防水シールを重ねて貼ることができ、次回来店する際にシールのついた同じ容器を持って行けば、同じ作業を繰り返さずに買い物ができる。

店内の壁にかけられたディスペンサーや瓶などすべての容器のレバーや蓋には、500円玉サイズのモーションセンサーが付いている。このモーションセンサーがレバーの上下や蓋の開閉を感知し、近くの電子はかりに商品情報を伝達。食材の入った容器を電子はかりに乗せると、直前に感知した商品名がスクリーンに表示される仕組みになっている。商品名を選択すると、値段や購入日を表示したラベルが発行され、容器や袋にラベルを貼ってレジに持っていくと会計ができる。

700品目の商品名から文字を選び一つの商品を検索するよりもはるかに楽で、店側にとってもセルフサービスゆえに生じてしまう価格の付け間違いや損失を防ぐことができる。

こうした最先端の量り売り販売・購入体験を支えるのは、技術面で全面的に協力する寺岡精工(東京・大田)だ。電子はかり国内大手の同社が、すでに量り売り販売が進む欧州市場向けに開発・販売してきたセルフ量り売りシステムのノウハウを結集し、「量り売りを楽しい買い物体験にする」をモットーに、独自のシステムを斗々屋向けに設計した。

ここにしかないショッピングカート

斗々屋では、見たことのないユニークなショッピングカートが使われている。これも寺岡精工が手がけたものだ。オリジナルのカートは、量り売りをしながら買い物をするのに最適なデザインで、容器を置ける台が付いている。これに専用の丸型天板を乗せると、立食用のテーブルに早変わりする。夕方、レストランが開店するとそれをテーブルにして食事をしたり、ワインを楽しむこともできる。

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2019年から、東京のモデルショップで量り売り販売の実証実験

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ゼロ・ウェイスト・スーパーを運営する斗々屋(京都市)は2019年9月、東京・代々木に量り売りのモデルショップ「nue by Totoya (ニュ・バイ・トトヤ)」を開店した。モデルショップという実証実験の場で、日本に適した量り売りのビジネスモデルや仕組みづくりを手探りで検証してきた。フランス語で「裸の」という意味を持つ単語「nue」を店名に掲げ、当初は輸入食材を中心に30品目ほどの小さな規模で日曜日のみ営業をしていた。

食材の美味しさとごみを出さない買い物、シンプルでセンスのいい店づくりが時代にもマッチし、モデルショップは次第に支持を集めていった。茶葉や味噌、酢など国産の食材も増やし、2020年9月に東京・国分寺市にゼロ・ウェイスト・ショップ「nue by Totoya 国分寺」を開店。いまでは月曜と毎月18日を除き、毎日営業している。

さらに、全国各地の小売店や飲食店が量り売り販売を導入できるようにオンライン講座も開講する。斗々屋で扱う商品などをゼロ・ウェイストの理念の下、量り売りで販売する小売業者・店舗は全国に約40軒、同様の卸先は18軒、オンライン講座の受講者は120人に上るという。

斗々屋代表の梅田温子さんは大阪出身で、19歳の時にフランスに渡り料理人として働いた後、2005年から日本のレストラン向けに有機食材の輸入卸を手がけてきた。ゼロ・ウェイスト・スーパーの始まりは、使い捨てプラスチック禁止の取り組みが先行するフランスでごみをほとんど出さない暮らしをしていた梅田さんが、日本に輸出する食材に使い捨てられる包装材を使い続けていることに矛盾を感じたことだった。

ごみを出さない量り売りのスーパーを構想したのは4年前の2017年。梅田さんは同年に量り売り事業「斗々屋」を立ち上げた。2019年12月の取材の際、梅田さんは「手間をかけて栽培する有機農家にとっても、量り売りは梱包の手間が省けていい。それに、地球環境や未来を考えて有機栽培された食材が使い捨てプラスチックに入れられて売られるのは矛盾している。でも容器を持ち込み、食材を『量り売り』で買うという考えはまだ残念ながら広まっていない。まずは、なぜ量り売りが必要かを知ってもらう勉強会から始めたい」と明るく、そして威勢よく語っていた。

ゼロ・ウェイスト・スーパーを全国に

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モデルショップの開店から2年足らずのうちにゼロ・ウェイスト・スーパーを開くまでに至った背景には、梅田さんの強い意志と、志を同じくする従業員、その思いに共感して協力してくれるパートナー企業や生産者の存在も大きい。

京都本店の店長、堀真理子さんはドイツで再生可能エネルギー関連の会社で働いた後、自ら日本で量り売りの店を立ち上げようと帰国した。起業に向けて下調べをするなかで斗々屋の存在を知り、モデルショップの運営に携わるようになった。これからについて「生産者と消費者をつなぐハブとしての役割も果たしていきたい。情報の発信はもちろん、教育と交流の場づくりに力を注ぎたい」と語る。

もう一人の店長、關つぐみさんはJICAの海外協力隊としてドミニカ共和国に渡り、ごみ問題などの環境教育に従事していた経験を持つ。コロナ禍で緊急帰国したことがきっかけで斗々屋に入社した。協力隊での経験から、「ごみ問題に取り組むためには個人の裁量だけに任せるのは限界があり、消費者が日常的にゼロ・ウェイストの選択肢を得られる仕組みづくりが必要。斗々屋の仕組みを全国に広めていくことが目標」と言う。

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「斗々屋とは車の両輪」――。そう話すのは寺岡精工の寺岡和治会長だ。寺岡会長は2020年初め、社員から「nue by Totoya」を取り上げた紙面を教えてもらい、自ら飛び込みで代々木のモデルショップを訪ねた。およそ90年前、秤事業で創業した同社にとって量り売りが国内で普及することは念願でもあった。

その日のことを、寺岡会長は「秤のプロを自認するわれわれよりも熱く、まるで宣教師のように量り売りの社会的な意義を語りながら普及に取り組む若者たちに感銘を受けた」と語る。それ以来、最新のテクノロジーで量り売りを「再発明」するという同社のミッションを共有するパートナーとして、2社は共に歩みを進めてきた。スーパーのオープン直前から当日にかけても、店には同社のさまざまな部署の社員が駆け付け、運営をサポートする姿があった。

野菜やハーブなどを卸す京都・京北の余野ファームは「コンセプトに共感した。継続的に人にも環境にも優しい、という取り組みにこうして参加できることが嬉しい。買い物をするということもそれに参加することになる」と、生産者として斗々屋の取り組みに参画することを楽しみに感じているようだ。

梅田さんは店内を見渡し、「2017年に思い描いた計画が実現した」と話す。アルバイトを除いて社員数は5人に増えた。ただ一つ実現できていないことがある。畑づくりだ。幸いにも許可が得られ、これから同じ建物の屋上で畑をつくっていく。

「『ファーム・トゥ・テーブル(農場から食卓へ)』という役割だけでなく、畑は生ごみを堆肥化し、循環させていくためにも必要。いまは余野ファームさんにお願いをしているけれど、今後は屋上でも取り組んでいきたい」

斗々屋の周辺には飲食店や書店など小さくていい店が揃う。生ゴミの堆肥化については近くの飲食店も興味を持ってくれているそうで、地域コミュニティのなかでも仲間を集めながら、環境や地域、社会、経済の循環に取り組んでいこうと考えている。

梅田さんは「京都本店を軌道に乗せ、数年のうちにフランチャイズ化していきたい」とすでに新たな目標に向かって進み始めている。

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