東北地方に医学部新設は必要? 安倍首相が検討指示

被災地の医療を支える人材を育成するために、東北地方に医学部を新設される可能性が出てきた。安倍晋三首相が10月4日、下村博文文部科学相に、新設を検討するように指示したことを、朝日新聞デジタルが報じている。医師の過剰供給で質が低下しないよう、1979年の琉球大学を最後に医学部は新規開設が認められていないが、約30年ぶりに新しく医学部が生まれるかもしれない。
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時事通信社

被災地の医療を支える人材を育成するために、東北地方に医学部を新設される可能性が出てきた。安倍晋三首相が10月4日、下村博文文部科学相に、新設を検討するように指示したことを、朝日新聞デジタルが報じている。医師の過剰供給で質が低下しないよう、1979年の琉球大学を最後に医学部は新規開設が認められていないが、30数年ぶりに新しく医学部が生まれるかもしれない。

安倍晋三首相は4日、復興支援策として東北地方への医学部新設を検討するよう、下村博文文部科学相に指示した。村井嘉浩・宮城県知事が首相官邸を訪れ、「被災地医療を支える人材養成のために必要だ」と要請したことに応えた。

(朝日新聞デジタル「東北に医学部新設「検討を」 安倍首相、文科相に指示」より。 2013/10/04 20:45)

MSN産経ニュースは、10月8日に開かれた村井知事記者会見の様子や、すでに宮城県内で2つのグループが医学部開設に向けて準備を進めている状況を報じた。

村井知事は「34年間、医学部の新設が認められていない固い壁を破るのが私の仕事」と実現に強い意欲を示した。医学部の新設に向けては、仙台厚生病院が平成23年に東北福祉大と連携する構想を発表、東北薬科大(仙台市)も11日に新設構想を発表する。

(「医学部の東北新設 村井知事、強い意欲 宮城」より。 2013/10/08 02:11)

実は、東北地方の医学部は全国的に見ても人口当たりの設置数が少ない。東京大学医科学研究所の上昌広(かみ・まさひろ) 特任教授は「人口915万人の東北地方に医学部は6つしかない」として以下のように、ハフィントンポストに寄稿した

近代日本の礎が完成したのは、明治から戦前にかけてだ。高等教育機関の誘致には、当時の政府内の権力関係、つまり新政府対旧幕府という対立構造が影響したことは想像に難くない。

(上昌広「福島の教育過疎」 2013/05/10 17:15)

NHK大河ドラマ「八重の桜」で描かれたような幕末の官軍と旧幕府軍の戦いが、今も東北の医療体制に深く闇を落としている可能性を指摘している。

もともと医療教育機関が足りていなかった地域に、医学部を新設するのだから何も問題がなさそうだが、大きな障害がある。実は「医学部新設」というキーワード自体が日本では長らくタブーになっていたからだ。約16万人の医師が加入する全国最大の医師団体「日本医師会」が、医学部新設に強く反対しているのが、その原因だ。同会の中川俊男副会長は、3月7日の会見で次のように述べている。

まず,二〇〇八年に政府が医師数増加の方針を打ち出し,医師養成数の増加が図られてきた結果,医師の絶対数確保には一定の目途が付きつつあり,今後は,医師の地域偏在,診療科偏在の解消が急務との考えを示した.その上で,医学部新設には,教育確保のため,医療現場から一大学につき約三百人の教員(医師)を引き揚げざるを得ず,「地域医療の崩壊を加速する」と指摘した.

(日医ニュース第1238号(平成25年4月5日)「医学部新設と東日本大震災被災地の医療復興について」より。 2013/04/05)

弁護士の猪野亨(いの・とおる)氏は、日本医師会の主張に賛意を示している。

問題なのは、その養成課程に教える人材を取られてしまうということです。

一線級の医師がそれに取られてしまうことになれば、現状の医師「不足」(というよりも偏在なのですが。)に拍車を掛けることになります。

それが私立大学(東北福祉大学が名乗りを上げているようです。)だとすると、もしかすると他の国立大学を定年退官した研究者をかき集めてくるのかもしれません。

この構図は、法科大学院でも問題になりました。特に下位低迷校の私立大学がこのような教員集めの仕方を行い、教える内容の水準を問題とされました。

それが一線級の医師であっても、実はそのような一線級の医師は数が多いわけではなく、本当にその一線級の医師に養成を委ねるのであれば、取り合いになるのか、その一線級の医師がパンクするかです。

医学部の定員を増やしたり、医学部を新設すれば医師が大量生産できるという発想が間違いです。

(猪野亨弁護士ブログ「東北地方の医師不足に医学部新設でうまくいく?」より。 2013/10/05 18:26)

一方で、 現場の医師からは反論も出ている。ビジネスジャーナルでは「某大学病院の勤務医」の発言として以下のように伝えている。

「医師会というと、なんだか医師全員の団体のように思われがちですが、実はほぼ開業医の業界団体なのです。土日休診で、地域のお年寄り相手にガッツリ稼ぐという殿様商売をしている連中の発言力があるので、商売敵を増やしたくない。そんなに余っているというなら、救急医療の現場に行ってみろと言いたい。医学部新設の話が出るのは遅すぎた」

(ビジネスジャーナル「医学部新設に猛反対する医師会に、医療現場から怒りの声…医師会、大学、自民党の攻防」2013.06.11)

【※】このように東北地方への医学部新設をめぐっては、賛成と反対、両方の立場の意見が出ていますが、皆さんはどのように考えますか。コメント欄にご意見をお寄せください。

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