トランプ大統領はなぜ"フェイクニュース"を連呼するのか?

"フェイクニュース"の連呼とは裏腹に、アイゼンハワー政権以降で最低の人気と言われるトランプ政権への支持率は、政権発足からの1カ月でどんどんと低落している。

トランプ大統領による、メディアへの"フェイクニュース"の連呼が止まらない。

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16日に行われた約77分に及ぶ就任後初の単独記者会見でも、スタッフのロシアとの接触疑惑など、政権に批判的な報道に対し、7回にわたって繰り返し"フェイクニュース"と呼んでいた。

さらにその週末にかけても、ツイッターで「主流(フェイクニュース)メディアを信じるな」と呼びかけている。

ただ"フェイクニュース"の連呼とは裏腹に、アイゼンハワー政権以降で最低の人気と言われるトランプ政権への支持率は、政権発足からの1カ月でどんどんと低落している。

そもそも"フェイクニュース"が注目を集めたのは、米大統領選を標的に、主にトランプ氏を支持する内容の虚偽の情報が、ニュースの体裁をとってネットに氾濫したことだ。

トランプ氏はそれを逆手にとり、本来の意味をずらして、自らに批判的なメディアや情報をひとくくりに、"フェイクニュース"と呼び続けている。

このような言葉の塗り替えは、民主主義への危険にもつながる、との専門家の指摘も出始めている。

●「全部フェイクニュースだ」

16日木曜日の午後1時前、ホワイトハウスで始まったトランプ大統領の記者会見。

労働長官にアレキサンダー・アコスタ氏の起用を発表したり、「政権はよく整備された機械のように機能している」などとホワイトハウス内の混乱を否定した後、前国家安全保障担当補佐官、マイケル・フリン氏について、「あなたが更迭したんですか」との最初の質問を受け、こう述べている。

問題なのは、この会見室にいるあなた方(メディア)を含め、情報を外部の人々が受け取った方法だ。なぜなら、これは機密情報であり、それが違法に受け渡しされたからだ。それが本当の問題だ。メディアはロシアについて何でも好きなことをしゃべることができる。ただ、それはすべてフェイクニュースだ。民主党の敗北を埋め合わせようと、メディアが仕組んだことだ。この件に関与しているとされた数人とも合ったが、彼らはこの件について何も知らない。ロシアに行かなかったし、決してロシアに電話をしたことも、受けたこともない。これはすべてフェイクニュース。すべてフェイクニュースだ。

まず3回。

ここでは、駐米ロシア大使と対ロ制裁解除を協議したとして更迭されたフリン氏の件だけではなく、選挙期間中、選対本部のスタッフらが繰り返しロシアの情報機関幹部と連絡をとっていた、と報じた会見2日前のニューヨーク・タイムズの記事のことも含まれている。

ただ、「機密情報が違法に受け渡された」としながら、報道は"フェイクニュース"というのは矛盾ではないかとの疑問がわく。それに対する返答はこうだ。

漏洩は間違いなくリアルに起きた事だ。ニュースはフェイクだ。なぜなら、非常に多くのニュースがフェイクなのだから。

さらに、2回。

ロシアの件はフェイクニュースだ。ロシア...これはメディアがつくりだしたフェイクニュースだ。

「フェイクニュースを攻撃し、我々の放送局を攻撃されていることについてお聞きしたいのですが...」との質問には、こう答えている。

だが私は、フェイクニュースという言い方を変えるつもりだ。ベリー(とんでもない)フェイクニュースだ(笑い)。

ただ、カナダ最大の日刊紙トロント・スターのファクトチェックによると、トランプ大統領の発言からは、この記者会見だけで17カ所、就任以来の合計では80カ所の間違いが見つかっている、という。

●"フェイクニュース"の拡散力

会見の後も、トランプ大統領は場所をツイッターに移し、"フェイクニュース"の連呼を続ける。会見翌日の午後5時前

フェイクニュース・メディア(落ち目の@nytimes, @NBCNews, @ABC, @CBS, @CNN)は私の敵ではない、米国の人民の敵だ。

主流(フェイクニュース)メディアを信じるな。ホワイトハウスはとてもうまくいっている。私は(前政権から)混乱を引き継ぎ、それを修復している最中だ。

口を開けば"フェイクニュース"と言っているような印象もあるが、トランプ氏が本格的この言葉を使い始めたのは、年明けからだ。

トランプ大統領のツイッター投稿をデータベース化している「トランプ・ツイッター・アーカイブ」によると、削除分も含めて、"フェイクニュース"という言葉をツイートしたのは18日までで27件。

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"フェイクニュース"を使った最初の投稿昨年12月10日、テレビでの足がかりとなった人気番組「アプレンティス」に大統領就任後もエグゼクティブ・プロデューサーとしてのクレジットは残す、とのCNNの報道についてだった。

これはバラエティが最初に報じ、関係者も認めていた内容のニュースだった。

私が大統領在任期間中もアプレンティスの仕事をする(パートタイムにしろ)という@CNNの報道はバカげているし間違いだ―フェイクニュース!

この前日、ニューヨーク・タイムズワシントン・ポストが、米情報機関の話として、「ロシア政府がトランプ氏当選のためサイバー攻撃」とのニュースを報じていた。

米国政府によるこの認定は、昨年末の対ロシア制裁や、年明けのロシアの米大統領選妨害に関する報告書公表につながる疑惑だった。

トランプ氏としては、何が耳目を集める別の話題が欲しいタイミングでもあった。

この前後のトランプ氏のツイートに対するリツイート(共有)は1万件程度。だが、この"フェイクニュース"ツイートは2万5000件、と倍以上の反響を得ている。

この言葉に拡散力がある、と気付いたのかもしれない。

●本格的に使うのは年明けから

そして、トランプ氏が"フェイクニュース"を本格的に使い始めるのは年明けの1月10日だ。

フェイクニュース―完全な政治的魔女狩りだ!

このツイートへのリツイートは3万件。

当選後、始めての記者会見前日のこの日、CNNがトランプ氏に関する「不名誉な情報」を含む元英情報機関の諜報員による調査メモの存在を、そしてと米バズフィードがその全文を、報じた。"フェイクニュース"ツイートは、それを受けたものだった。

トランプ氏は、この1時間の会見でも"フェイクニュース"と7回にわたって連呼。最前列に座ったCNNのホワイトハウス担当記者に向かって「あなたたちはフェイクニュースだ」と面罵し、質問を受け付けようとはしなかった。

会見前後の"フェイクニュース"の文言を含むツイートはいずれも3万件前後リツートされている。

そして1月中にはこれらを含む11件、2月には18日まででそれを上回る15件の"フェイクニュース"ツイートを連発している。

●関心のピークは1月の会見

トランプ大統領がメディアに対する"フェイクニュース"の連呼に力を入れに従い、すこしずつだが関心が高まっているようにも見える。

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検索キーワードへの関心の増減が見られるグーグルトレンドで、米国内のこの半年ほどの"フェイクニュース"の推移を見てみる。

すると、トランプ氏当選後の11月半ばと、首都ワシントンでフェイクニュースの陰謀論「ピザゲート」を巡って発砲事件が起きた12月初めに、それぞれ山がある。

これらは、トランプ氏当選を後押しした、との文脈でフェイスブックなどでの"フェイクニュース"の氾濫が指摘されていた時期だ。

そして、この半年を通して最も関心を集めたのは年明け1月11日の記者会見前後。CNN記者を"フェイクニュース"と面罵した映像が、話題を呼んだことも要因となっているようだ。

ただ、その後も、少しずつ関心は高まっており、2月16日の記者会見後は、昨年の2つの山を超える伸びを見せた。

●「否定的な世論調査はすべてフェイクニュース」

世論調査に対しても"フェイクニュース"と呼ぶのには、それだけの理由がある。

調査会社「ギャラップ」のデータによると、新政権発足当初のトランプ氏の支持率は、共和党支持層では90%と高いものの、全体では45%と、アイゼンハワー政権以降で最低。不支持率も45%で最も悪い。

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トランプ大統領が歴代の大統領に比べて、かなり特異なポジションにいるということは、支持率と不支持率を散布図に落としてみるとよくわかる。

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しかも、政権発足1カ月(17日付)で、支持率は40%へと低下、不支持率は55%への上昇し、その差は15ポイントにも拡大。

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歴代最低支持率を更新してしまっているのだ。

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●メディアを憎んで欲しい理由

マイアミ・ヘラルドのコラムニスト、フリーダ・ギティスさんは、今月16日のトランプ大統領の記者会見を受けて、「トランプ氏がメディアを憎んで欲しい理由」と題したCNNへの寄稿で、オーウェルの「1984年」を引き合いに、こう述べている。

敵をつくりだすことのメリットはよく知られている。(トランプ時代を迎えて突然のベストセラーになった)オーウェルのディストピア小説"1984年"でも、毎日の義務化された儀式として群衆は"2分間憎悪"に従事している。その間、その時々の敵国に対して、熱狂的な怒りをかき立てるのだ。独裁者、政治指導者、専制君主は他国に対する憎悪を最大限にかき立てる、という手法を実践してきた。

そして、こう指摘する。

彼の望みは、彼だけの"真実もどき"をつくりだすこと、彼が常に勝利できる現実をつくりだすことだ。取り上げるに値する世論調査は、彼の偉業を示すものだけだ。コメントとは称賛のみ、否定的なものはすべて偽物、制御不能のメディアによる仕業、というわけだ。

ニューヨーカーのワシントン担当、ライアン・リッツァさんも、やはり「トランプ氏が敵を必要な理由」と題した記事で、マイケル・フリン氏の更迭など政権の混乱から目を背けさせるために、"敵"の存在が必要、とのホワイトハウスの事情を指摘する。

これらの混乱が進行する中で、ホワイトハウス内部で起きていた大論争は、トランプ氏の"敵"をどう設定するか、という点だった。しかし木曜日(16日)の記者会見で、トランプ氏はメディアへの戦争を宣言する(あるいは再燃させる)ことにによって、決着をつけたようだ。これは、トランプ政権の首席戦略官、スティーブン・バノン氏が"野党"と呼んだお気に入りのターゲットだ。ただ、トランプ氏の側近すべてがこのアプローチに同意しているわけではない。「スティーブン・バノンがそう言ったからといって、メディアが敵になるのかね?」。ホワイトハウスの高官は、先週、私にこう言った。「彼はメディアと接することがないからそう言えるんだ」。ホワイトハウスの他のスタッフは「その余波をすべてかぶることになるんだよ」。

●"フェイクニュース"の定義、トランプ氏の定義

"フェイクニュース"という言葉には、定義がある。

オーストラリアの伝統的な英語辞書「マッコーリー辞典」は2016年の言葉として"フェイクニュース"を選出。その定義はこうなっている。

政治目的や、ウェブサイトへのアクセスを増やすために、サイトから配信される偽情報やデマ。ソーシャルメディアによって拡散される間違った情報。

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トランプ大統領の使い方は、そこからはるかに離れ、「自身に批判的なあらゆる情報」とでも定義する必要が出てくる。

NPRのダニエル・カーツレベンさんは、「"フェイクニュース"によって、トランプ氏はオルタナティブ・ファクトをオルタナティブ・ランゲージへの変えていく」と題した記事で、こう指摘する。

たとえわずかでも、言葉をつくり変えることができる力があるということは、恐るべき権力を持つことを意味する。党派を超えた言語学の専門家たちによれば、フェイクニュースという言葉の意味の差し替えは、民主主義に対する、真の脅威となり得るのだ。

そして、カリフォルニア大学バークレー校名誉教授で認知言語学の第一人者、ジョージ・レイコフさんのこんな言葉を紹介している。

リアルなニュースをフェイクと呼ぶことは、真実を隠し、民主主義におけて真実が果たす機能を毀損することになるのだ。

ニュースピーク(新語法)という新たな言語によって、あらゆる事実を覆い隠したのが、ビッグブラザーが支配する「1984年」の世界だった。

レイコフさんの指摘は、そんな世界を指し示しているようだ。

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(2017年2月19日「新聞紙学的」より転載)