津波避難タワーと住民防災意識の変化

南海トラフ地震の最悪ケースが到来した場合、高知県土佐清水市と黒潮町には、全国最大の34mの津波が押し寄せるとされている。
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高知県沿岸部の津波避難タワーで自治体担当者のお話を伺う機会を得た。

■南海トラフ地震と高知の津波避難タワー

南海トラフ地震の最悪ケースが到来した場合、高知県土佐清水市と黒潮町には、全国最大の34mの津波が押し寄せるとされている。県内の自治体の中には、海岸線への津波最短到達時間が5分未満という自治体もある。(対策を講じなければ)全国の想定死者数は約32万3000人となり、高知県内の想定死者数も4万2000人に及ぶ。

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命を守る対策のひとつに「津波避難タワー」の建設がある。県内に115基が建設されることになり、2016年度内にほぼ完成する。2016年1月20日、高知県危機管理部の方々と、高知龍馬空港を擁する同県南国市危機管理課のご案内により、完成した津波避難タワーのひとつである「大湊小南タワー」を訪れた。

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■14基の津波避難タワーが完成した南国市、住民の意識に大きな変化

高知県南国市の沿岸部では、東西約8キロメートルにわたって、5分程度の短時間で避難が可能となる高台がほとんどない。南国市危機管理課によれば、東日本大震災のときに津波襲来を知らせる広報車両を聞いても、高台へ逃げる住民は多くなかったという。また、東日本大震災後に、政府が南海トラフ地震発生時には、南国市に16mの津波が押し寄せるとの試算結果を発表したときも、「あきらめ」のムードがなかったとは言えないとのことだ。

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2013年から2014年3月末までに、南国市内には14基の津波避難タワーが完成した。津波避難タワーは、半径300mの住民が逃げ込むことを想定している。鉄筋コンクリートで、階段だけでなくスロープもついている。備蓄倉庫やヘリコプターのホバリングスペースもある。これまで逃げるところがなく、避難訓練しようにも避難先がなかった地域に、安全な避難場所ができたことになる。

これが大きな意識の変化を生んだ。

津波避難タワーの巨大さは、周囲の家屋と比較して群を抜いている。周囲は農耕地である。普段の生活で、どうやっても津波避難タワーが視界に入る。あきらめていた津波からの避難が、目の前の津波避難タワーによって実現可能なものとなった。地域に大きな「安心」が生まれた。そして、その安心をより確実にするために、避難訓練が活発になった。

津波避難タワーを使おう、実際に上ってみよう、という意識ができたという。津波避難タワーの管理主体は当然自治体だが、今や、日ごろのタワーの使い途やタワーを使った避難訓練は、当該地域の自主防災組織が主導している。夜間訓練を独自に実施する自主防災組織も出ている。

■「ひらかれた」津波避難タワー

今回訪れた「大湊小南タワー」は、高知龍馬空港のすぐ西側にある。その名の通り、北側には小学校がある。南隣は保育園だ。まさに子供たちの命を守る砦としての役割を果たしている。津波避難タワーを訪れて気が付いたのは、入り口の階段が完全にオープンだったことだ。扉はなく、鎖による仕切りすらない。

誰でも、いつでも、津波避難タワーを上り下りできるようになっている。他の自治体では平常時は「蹴破り扉」が設置されている場合もあるが、南国市にはそれが一切ない。地域で平常時から津波避難タワーを活用し、親しんでもらうため、常にオープンとする方針としたそうだ。地域の祭事や花火鑑賞などにも津波避難タワーが活用されているという。

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■多機能な津波避難タワーと防災ツアーの可能性

南国市にある高知工業高等専門学校電気情報工学科の研究室により、14基の津波避難タワーには、スマートフォンのアプリ「つながっタワー」を起動させる「ビーコン」装置が設置されている。

自動起動することで、津波避難タワーに到達したことを簡単に知らせることができる。災害直後の安否確認に役立つものと期待されている。津波避難タワーどうしの通信も可能である。2015年度末にはこの安否確認システムが整備されるという。ちなみに、「大湊小南タワー」からは、8基の他の津波避難タワーを目視できる。

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さらに興味深い話としては、ビーコンの活用で、津波避難タワーを巡った足跡をスタンプラリーのごとく記録し、同じく南国市内にある他の観光資源と合わせて防災ツアーを組むことも検討の余地があるという。南国市は、第二次世界大戦中の海軍練習機飛行場があったところだ。そのためか、激しい爆撃を受けた地域でもある。

農耕地の中には、かつて飛行機を格納し爆撃から守っていたコンクリート製の巨大な「掩体(えんたい)」の遺構が7つ残っている。これらは、決して忘れてはならない戦争遺構だったのだ。まったく新しい防災建築物である「津波避難タワー」と忘れえぬ戦争遺構により、地域の「今」と同時に、「歴史」を知るツアーが実現するのであれば、たいへん興味深い。

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今回は行政の担当者の方々による説明で津波避難タワーについて考える機会をいただいた。今後も関係者から学び、地域資源を活かした防災意識向上の取り組みの可能性について考えていこうと思う。

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ご協力:高知県南国市危機管理課、高知県危機管理部南海トラフ地震対策課