大村智さん、どんな人? 定時制高校の教師から微生物研究に【ノーベル医学生理学賞】

定時制高校の教師から研究者に転身した、異色の経歴の持ち主でもある。
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Hans Forssberg (R), member of the Nobel Assembly, addresses a press conference of the Nobel Committee to announce the winners of the 2015 Nobel Medicine Prize on October 5, 2015 at the Karolinska Institutet in Stockholm, Sweden. Irish-born William Campbell, Satoshi Omura of Japan and China's Youyou Tu (their portraits are displayed (L-R) on the screen in background) are the laureates of the Nobel Prize in Physiology or Medicine 2015. AFP PHOTO / JONATHAN NACKSTRAND (Photo credit should read JONATHAN NACKSTRAND/AFP/Getty Images)
JONATHAN NACKSTRAND via Getty Images

2015年度のノーベル医学生理学賞を受賞した北里大特別栄誉教授の大村智さん(80)は、熱帯で寄生虫が引き起こす「河川盲目症」や「リンパ管フィラリア症」の特効薬となる抗生物質「エバーメクチン」の開発が評価された。定時制高校の教師から研究者に転身した、異色の経歴の持ち主でもある。

大村さんは山梨県出身。山梨大学を卒業し、東京都立墨田工業高校定時制の教師として5年間勤めた。

(山梨)県内の教師募集がなく、3カ所受けた中で一番難しい東京だけ受かった。今思うと暗記ではなく考えさせる問題だったおかげ。1年目はほわんと過ごした。貧しい中、生徒が一生懸命勉強しているのをみて、俺もやらねばと思った。

教師としての力不足が自分で分かり、当時の東京教育大の聴講生になり、東京理科大の大学院に進み、研究者の道を歩んだ。教師と研究の両立のため、効率的に仕事することが身についた。(朝日新聞2014年4月9日付朝刊・山梨版より)

29歳で北里研究所に入り、36歳でアメリカに留学したが、帰国前に「戻っても研究費はない」と言われたため、アメリカで製薬会社を回って共同研究を打診した。帰国前、アメリカの製薬会社メルクから、1年で2500万円の破格の研究費提供を受け、動物薬の研究に打ち込んだ。

北里研究所に復帰後は、研究員とポリ袋やスプーンを持ち歩いて、各地の土を集め、培養して有望な菌を探し出す、地道な作業を続けた。1974年、静岡県伊東市の川奈ゴルフ場の近くの土から採取したカビに似た放線菌が、試験管の中でこれまでにない色や性質を示していた。

米国留学から戻り、米製薬大手メルクと3年契約で共同研究を始めて1年が過ぎたが、まだ成果は出ていなかった。有望な菌の一つとして、メルクに送った。

しばらくして返事が来た。忘れもしない。「菌がつくる物質は寄生虫を退治する効果が高い」。マウスに飲ませると、感染していた寄生虫が激減したというのだ。

当時、家畜の薬は人の薬を転用することが多く、効果はあまり期待できなかった。家畜の栄養を奪う寄生虫を退治できれば、食肉や羊毛の増産につながる。

化学物質の分子構造を決定し、「エバーメクチン」と名付けた。とくに牛や馬、羊などの腸管に寄生する線虫類に効いた。線虫の神経に働き、まひを起こして死滅させることがわかった。(朝日新聞2013年6月24日付朝刊より)

より効果を高めた「イベルメクチン」は1981年にメルクから発売された。もともとは家畜用の抗寄生虫薬として売り出されたが、アフリカや中南米でブヨに嚙まれて失明する「河川盲目症」にも効果があるとわかった。メルクは人間用の「メクチザン」として1987年に無償提供を始め、1995年には世界保健機関(WHO)の制圧プログラムが始まった。年間4万人を失明から救っているという。

その後、北里研究所長を経て、北里大特別栄誉教授。文化功労者(2012年)に選ばれたほか、医学の世界的な功労者に贈られるガードナー賞(2014年)、朝日賞(2014年度)など数々の賞を受賞している。

2012年にノーベル医学生理学賞を受賞した京都大学 iPS細胞研究所の山中伸弥教授は、NHKニュースのインタビューで、大村さんの研究が世界に与えたインパクト、意義について、以下のように述べた。

「人類の歴史、医学の中で感染症との戦いはものすごく大切なものです。今年もエボラ出血熱などの感染症の流行がありましたが、その中で大村先生は、一つの病気ではなくて、いろんな感染症、寄生虫に対する薬を何十と次々に作られました。本当に凄いお仕事だなあ、と思いました。

私たちがやっているような、細胞のわからないことをこれから明らかにして治療法をつくろうという研究とは全然レベルが違いまして、いろんな感染症で苦しんでおられる方の命を億単位で救われたものすごい業績ですので、私たちも大村先生を見習って、これから、同じように何億人とはなかなかいかないでしょうが、それでもたくさんの方のお役に立ちたいと、そういう思いを改めて強くしました」

日本人のノーベル賞受賞者
湯川秀樹さん(1949年・物理学賞)(01 of17)
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中間子の存在の予想で受賞。\n\n自宅の庭でくつろぐ湯川秀樹京大名誉教授とスミ夫人(京都市左京区の自宅、撮影日:1977年01月22日) (credit:時事通信社)
朝永振一郎さん(1965年・物理学賞)(02 of17)
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量子電気力学分野での基礎的研究でノーベル物理学賞授賞。受賞式後、記者会見で金メダルを見せる(右から)朝永振一郎博士、領子夫人、藤岡由夫埼玉大学長(東京・港区のスウェーデン大使館、撮影日:1965年12月10日) (credit:時事通信社)
川端康成さん(1968年・文学賞)(03 of17)
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『伊豆の踊子』『雪国』など、日本人の心情の本質を描いた繊細な表現による叙述の卓越さが認められ、受賞。\n\nノーベル賞受賞の喜びに顔をほころばす川端康成氏(神奈川・鎌倉市の自宅、撮影日:1968年10月17日) (credit:時事通信社)
江崎玲於奈さん(1973年・物理学賞)(04 of17)
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半導体におけるトンネル効果の実験的発見\n\n1973年ノーベル物理学賞受賞 (駐日スウェーデン大使館で行われたノーベル賞受賞祝賀会に出席。東京・六本木のスウェーデン大使館、撮影日:2008年11月26日) (credit:時事通信社)
佐藤栄作元首相(1974年・平和賞)(05 of17)
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非核三原則の提唱で受賞。\n\n三木武夫首相(右)にノーベル平和賞のメダルと賞状を披露する佐藤栄作元首相(東京・首相官邸、撮影日:1974年12月27日) (credit:時事通信社)
福井謙一さん(1981年・化学賞)(06 of17)
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化学反応過程の理論的研究\n\nノーベル化学賞受賞の喜びを語る福井謙一京大教授(左)と友栄夫人(京都市左京区の自宅で、撮影日:1981年10月19日) (credit:時事通信社)
利根川進さん(1987年・医学・生理学賞)(07 of17)
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多様な抗体を生成する遺伝的原理の解明\n\nノーベル医学・生理学賞の受賞が決まり、マサチューセッツ工科大学での祝賀会で真由美夫人(右)と乾杯する利根川進教授(アメリカ、撮影日:1987年10月12日) (credit:時事通信社)
大江健三郎さん(1994年・文学賞)(08 of17)
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『個人的な体験』『万延元年のフットボール』など、詩的な言語を用いて現実と神話の混交する世界を創造し、窮地にある現代人の姿を、見る者を当惑させるような絵図に描いた功績。\n\n1994年度ノーベル文学賞受賞 (駐日スウェーデン大使館で行われたノーベル賞受賞祝賀会に出席。東京・六本木のスウェーデン大使館、撮影日:2008年11月26日) (credit:時事通信社)
白川英樹さん(2000年・化学賞)(09 of17)
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導電性高分子の発見と発展\n\n講演する白川英樹博士・筑波大名誉教授(東京都世田谷区の東京都市大学、撮影日:2013年12月18日) (credit:時事通信社)
野依良治さん(2001年・化学賞)(10 of17)
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キラル触媒による不斉反応の研究で、2001年に化学賞を受賞。\n\n分子模型を前に、研究について記念講演を行うノーベル化学賞受賞の野依良治名古屋大学大学院教授(名古屋市西区のウェスティンナゴヤキャッスル、撮影日:2001年12月26日) (credit:時事通信社)
田中耕一さん(2002年・化学賞)(11 of17)
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生体高分子の同定および構造解析のための手法の開発\n\n島津製作所フェロー 2002年ノーベル化学賞受賞者 (京都市中京区の島津製作所本社、撮影日:2010年10月06日) (credit:時事通信社)
小柴昌俊さん(2002年・物理学賞)(12 of17)
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天体物理学、特に宇宙ニュートリノの検出に対するパイオニア的貢献で受賞。\n\n講演会で参加者の質問に答えるノーベル物理学賞受賞の小柴昌俊東京大学名誉教授(東京・文京区の東大、撮影日:2007年02月17日) (credit:時事通信社)
益川敏英さん(2008年・物理学賞)(13 of17)
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小林・益川理論とCP対称性の破れの起源の発見による素粒子物理学への貢献\n\nヒッグス粒子とみられる新粒子発見の発表を受け、感想を語るノーベル物理学賞受賞者の益川敏英さん(名古屋市千種区の名古屋大、撮影日:2012年07月04日) (credit:時事通信社)
小林誠さん(2008年・物理学賞)(14 of17)
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小林・益川理論とCP対称性の破れの起源の発見による素粒子物理学への貢献\n\nヒッグス粒子提唱者のノーベル物理学賞決定を受け、記者会見する高エネルギー加速器研究機構の小林誠特別栄誉教授(茨城県つくば市の同機構、撮影日:2013年10月08日) (credit:時事通信社)
下村脩さん(2008年・化学賞)(15 of17)
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緑色蛍光タンパク質 (GFP) の発見と生命科学への貢献。\n\nノーベル賞授賞式への出発前に、妻明美さん(左)と言葉を交わす化学賞の下村脩・元米ウッズホール海洋生物学研究所上席研究員(スウェーデン・ストックホルム市内のホテル、撮影日:2008年12月10日) (credit:時事通信社)
鈴木章さんと根岸英一さん(2010年・化学賞)(16 of17)
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クロスカップリングの開発。\n\n北海道大学触媒化学研究センターの特別招聘(しょうへい)教授の称号記を授与され、握手するノーベル化学賞を受賞した同大学名誉教授の鈴木章さん(左)と米パデュー大学特別教授の根岸英一さん(北海道札幌市、撮影日:2010年12月23日) (credit:時事通信社)
山中伸弥さん(2012年・医学・生理学賞)(17 of17)
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iPS細胞の作製\n\n京都大学教授、医学者 2012年度ノーベル医学・生理学賞受賞 2012年度文化勲章受章 (春の園遊会で。東京・元赤坂の赤坂御苑、撮影日:2013年04月18日) (credit:時事通信社)