なぜ捜査機関は虐待を止められなかったのか。目黒の結愛ちゃん事件、父親が2度不起訴になった理由

2017年度は過去最高の虐待相談件数。全国210の児相で13万3778件にのぼった。
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2018年3月に亡くなるまで、船戸結愛ちゃんがくらしていたアパート=東京都目黒区
HUFFPOST JAPAN/錦光山 雅子

2018年3月に東京都目黒区の船戸結愛ちゃん(5歳)が亡くなってから、9月2日で半年が経つ。両親は結愛ちゃんを虐待し、衰弱させて放置したうえ死亡させたとして、保護責任者遺棄致死罪で起訴された。

父親の雄大被告は2017年に2度も、結愛ちゃんに対する傷害容疑で書類送検されていた。しかし、結果はいずれも不起訴。裁判には至らず、手続が終了していた。

なぜ、そうなったのか。当時の事情をよく知る関係者たちに取材した。

不起訴の理由

父親は2017年の2月と5月、傷害容疑で香川県警から高松地検へ書類送検されている。だが、いずれも不起訴だった。

捜査関係者によると、1回目の不起訴の理由は「起訴猶予」、2回目は「嫌疑不十分」だったという。

「起訴猶予」は、「起訴するだけの証拠はあるが、起訴するまでもない(刑事裁判にしなくてもいい)」と、検察が判断したという意味だ。検察は「犯人の性格、年齢や境遇、犯罪の軽重や情状、犯罪後の情況によって、訴追を必要としない」ときには、起訴しないことができる。

一方、「嫌疑不十分」は、疑いはあるものの、起訴をするだけの材料(証拠)が揃っていないという判断だ。

起訴猶予とされた1回目のケースでは、雄大被告は児童相談所に「手を上げた」と認め、反省したと伝えていた。

このケースを担当した香川県警幹部は「捜査内容に不備は無かったと思われる。適切に処理していた案件という印象だった」と振り返る。

ただ、検察が不起訴と判断した点について、別の幹部は次のように話した。

「検察側からは、父親の暴力について『起訴価値がないのではないか』と言われた。検察がこの事件を『相手』にしなかったという印象で、温度差を感じていた。不起訴になり、現場は悔しかったと思う」

一方で、2回目のケースは、父親が暴力を振るったこと自体を一切、認めなかった。結局、証拠が集まらず「嫌疑不十分」で不起訴になった。

一般的に、子どもの虐待事案は、特有の難しさがあるという。子どもの虐待事案を扱った経験のある検事はこう話す。

「虐待を受けた子どもの話を聞こうとしても、『覚えていない』と言ったり、親をかばうように話したりすることもある。その場合、事実がどうであれ、両親が口裏を合わせてしまうと、なかなか証拠があがらない、という事態に陥る」

起訴するかどうかの判断は、子どもの供述だけによるものではないが、協力が得られない場合には証拠集めの難易度は増す。

「先進的」だったはずの高松の検察庁の取り組み

一方で、結愛ちゃんの家族が住んでいた香川県は、高松高等検察庁が音頭をとり、2014年から全国に先駆けた虐待対策の取り組みを始めていたことで知られる。

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「高松モデル」と呼ばれたこの取り組みの特徴は、起訴前に、児相や警察、医療機関、そして学校などの関係機関が集まる「カンファレンス」を開き、検察の刑事処分の決定に反映させるというもの。

それぞれの立場から意見を言い合い、情報を共有することで、「子どものためにより良い判断」を下すねらいがある。

しかし、同地検に勤務していた検事は「こうした取り組みがあって、虐待が疑わしい事案でも、直接的な証拠がなければ、起訴は難しい」と話す。「子どもの虐待事件は、そもそも証拠を集めにくい」(同検事)ため、情報共有を進めても、そこに起訴に十分な情報が集まっているとは限らないからだ。

転居を知らなかった警察

結愛ちゃんの転居については、児相から警察への連絡がなかったことがわかっている。

香川県警の幹部は「(不起訴も)法的には問題ないのかもしれないが、結果がこうなってしまっては...児童相談所から転居の連絡もなく、連携が少しうまくいかなかった点があったのかもしれない」と悔しさをにじませた。

ただ、刑事罰で虐待が収まるという簡単な構造ではない。刑事罰を受けたのちに、家族が再統合して虐待が再発する可能性もある。

もし初回のケースが傷害罪で起訴、有罪となって、何らかの処分が下っていたとしても、それで結愛ちゃんの死が防げたとは限らない。

増加する虐待相談件数。半数は捜査機関からの通告

2017年度中に全国210カ所の児童相談所が受けた相談件数は、 13万3778件となり、過去最多だった。厚生労働省が8月30日、発表した。

年々増え続ける虐待相談件数。2017年度は、前年度に比べて1万1203件(9.1%)増え、27年連続の増加となった。増加の要因は、警察による児相への通告が増えたことにある。2017年度、警察など捜査機関からの通告は6万6055件で、全体の約半数にあたる。

全国で77人が虐待で亡くなっている

同日、厚労省は2016年度に全国で起きた虐待死についても発表した。

全国で亡くなった子どもたちは、67件で77人だった。

虐待死のうち、身体的な虐待は27人、十分な食事を与えないなどのネグレクトは19人。無理心中は18件、28人いた。

また、2016年4~6月の3カ月の間に、児童相談所が受理した重大事例は14人。いずれも、命の危険に関わる傷を受けていたり、衰弱死の危険性があったりする事案だった。

うち5例はけがをする前に児童相談所で関与しており、4例は市町村の関与があった。このほか、2018年6月1日時点で、全国で所在が確認できていない児童が28人いる。

今回、結愛ちゃんを最後に担当した品川児相の林直樹所長は、次のように話している。

「児童相談所は、子どもを守る最前線ではあるが、すべてが児相だけでできることではない」

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両親からの虐待を受けていた船戸結愛ちゃん。2018年3月初旬、5歳児とは思えないほどの体形にやせ細り、亡くなった。
母親・優里被告のFacebookより

年間で死亡した子どもは結愛ちゃん1人だけではない。1週間に1人以上が、虐待で亡くなっている。この数は、社会に対しての覚悟を問いかけている。