『厳しい指導』は必要なのか 子供に教える元プロ野球選手は、「厳しくして」と望む親の声に悩んだ

「子供たちには楽しんでもらいたいしうまくなってもらいたい」
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子供に指導する河野友軌さん
Rui Hirao

かつてプロ野球・横浜(現DeNA)ベイスターズでプレーしていた河野友軌さんは現在、埼玉県さいたま市岩槻区のバッティングセンター「アーデルバッティングドーム」に勤務している。

(取材・文:平尾類・インプレッション社、編集:濵田理央)

この会社ではバッティングドームだけでなく、子供から大人を対象にした野球塾の運営もしている。バッティングマシンだけでなく、キャッチボールや守備ができる練習施設、投球練習が可能なブルペンも完備。野球塾で指導するスタッフは河野さんを含め、全員が元プロ経験者だ。いずれも元オリックスの高見沢考史社長、福留宏紀塾長、相川良太さん、川崎泰央さん、本柳和也さんが指導している。

「もっと厳しく」と言われたことも

2008年いっぱいで現役引退した河野さんは、高見沢社長の誘いで09年から勤務し、今年で10年目。小・中学生たちに野球を教えることについて聞くと、意外な言葉が返ってきた。

「本当に難しいですね。色々悩んだ時期もあって。子供を預けているご両親に『もっと厳しくしてください』と言われたこともあった。厳しい指導を望んでいる方もいます。習い事の一環で捉えると理解できます。野球を通じて礼儀、物事に取り組む姿勢を学びたいと思っている。僕は一歩下がっちゃう性格なのでそこが最初はなかなか難しかった」

現役時代から押しの強い選手ではなかった。法大から02年ドラフト8位で横浜に入団し、ミート力と長打力を備えた打撃で2軍では2年連続打率3割を打つなどアピールしたが、1軍に上がると少ないチャンスを生かせない日々が続いた。「周りの目が気になっちゃって。この打席で打たなかったら2軍に落ちると追い詰められて。打っても気が抜けないから喜べない。芯の強さがなかったです」と振り返る。

対照的なのが同期入団の村田修一や後輩の内川聖一だったという。結果が出なくても自分のスタイルを貫き、先輩の前でも物怖じしない。「もちろん修や内川は技術も凄かった。でもそれ以上に精神力ですね。グラウンドに入ったら自分のスタイルを貫いていた。こういう選手が1軍で活躍するんだなって」と敬意を口にする。

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子供に指導する河野友軌さん
Rui Hirao

「教えたいことを教えればいいと思っていた」

穏やかで人を押しのけるタイプではない。そんな性格に引退後も悩んだ。野球塾では高見沢社長、福留塾長の指導法に驚かされたという。

「社長も塾長も厳しいんですよ。もちろん暴言とかスパルタではなくて、子供と真正面から向き合い、上級生がふてくされた態度を取ったり、下級生が失礼な態度を取ったりすると、時には厳しく注意する。でも子供たちからは慕われている。信頼関係を築いて強い絆で結ばれているんです」

河野さんは野球塾で指導してからしばらくは子供たちをなかなか叱れなかった。それを見ていた父母からは「もっと厳しくしてください」と指摘を受けた。

子供たちを教える資格があるのだろうか。悩んでいると次第に余裕がなくなっていった。ピリピリした雰囲気になり、自分らしさを失ったことも。子供がやりたいこと、親が子供に期待すること、河野さんが子供に伝えたいこと。3つが重なればスムーズにいくが現実はそううまくいかない。

指導する上で余裕が出てきたのはここ数年だという。

「最初はこちらが教えたいことを教えればいいと思った。でもそうではなく、子供や親御さんにも理解してもらいながらやらなければいけない。時には子供に厳しく指導することもあるし、反対する親御さんを納得させた上で子供のやりたい練習をサポートする。少し指導の引き出しができたような感じがします」と柔和な表情で言葉を並べた。

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河野友軌さん
Rui Hirao

「厳しい指導」は必要?

近年は、スポーツ指導者の子供への暴力や暴言が社会問題になっている。一方で、子供のためを思えば、言わなければならない時もある。時には、厳しくたしなめるべきなのか。厳しさはどこまで必要なのか。

線引きは簡単ではないことが、「子供を指導することは難しい」という河野さんの言葉に表れている。

「村田はこう打ってたぞ、内川はこういう打ち方をしていたぞって時々拝借させてもらってます。子供たちには楽しんでもらいたいしうまくなってもらいたい。そこの原点は忘れたくないですね」

指導した子供たちがプロ野球でプレーすることを、河野さんは夢見ている。