「街頭インタビュー」はどこへ消えた? 総選挙のテレビ報道に"異変"

街頭インタビューはニュース番組でも使われますが、ワイドショーなど情報番組で多用されます。特に「テレビ番組の週刊誌」的な存在であるワイドショーにおいては、どんなネタであっても「庶民の声」を拾い、「実感」を共有することでそのテーマに関する感じ方や考え方について視聴者同士が「そうだよね」とうなづき合うことができるのです。
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時事通信社

●テレビの番組制作では「街頭インタビュー」はとても大事です。

街頭インタビューはニュース番組でも使われますが、ワイドショーなど情報番組で多用されます。

特に「テレビ番組の週刊誌」的な存在であるワイドショーにおいては、どんなネタであっても「庶民の声」を拾い、「実感」を共有することでそのテーマに関する感じ方や考え方について視聴者同士が「そうだよね」とうなづき合うことができるのです。

テレビでは、この街頭インタビューを「街の声」と言います。

●「街の人たちはどう思っているのでしょうか。声を拾ってみました」

そんなキャスターのコメントで街頭インタビューのVTRが流されます。

何かといえば「街の声」を拾ってきて流すのは、テレビ番組の習い性です。

芸能人が結婚しました。タレントの誰それが誰それとつきあっていることが判明しました。俳優のあの人が亡くなりました。あなたの感想は?今年もっとも印象に残った流行語は?好きな食べ物は何ですか?行きたい観光地はどこ?好感度の高いタレントは?あなたが取り組んでいるダイエット法は?将来、首相になってほしい政治家は?

・・・・などなど、テレビの街頭インタビューの質問はきりがありません。

このようにテレビにおいて「街頭インタビュー」は、一般庶民が何を感じ、どう考えているのか。その「声」や「実感」を伝えてくれる大切なツールになっているのです。

さて、ワイドショーだけでなく、ニュースの報道においても「街頭インタビュー」は大事です。

たとえば、東京の中心、銀座や大手町で拾い集める街頭インタビューと、札幌や福岡、福岡で集めるものでは微妙に異なります。街頭インタビューには「地域性」が反映されるからです。さらに東北の被災地でも違います。同じ被災地でも住む場所を原発事故で奪われてしまった福島と、宮城や岩手でも違います。あるいは、米軍基地の問題をかかえる沖縄も感じ方や考え方が東京の人間とは微妙に違ってきます。

ニュースにおいて、そうした「ニュアンス」や「空気感」を伝えるという大事な役割を持っているのが街頭インタビューなのです。

さて、前置きはここまでです。

●2014年の総選挙でのテレビ番組の報道(ニュース番組やワイドショーなど)について、検証してみました。

テレビ報道のOBとして、そして現在は研究者として、どのようなテレビ報道がなされたのかを検証することは私のひとつの役割です。

安倍首相が衆議院を解散して総選挙に踏み切ると明言した前日の11月17日(月)から11月21日(金)の解散の日、さらに12月2日(火)の総選挙の公示日。それから14日(日)の投票日の前日である13日(土)まで、どんなテレビ報道が行われたか、内容を検証してみることにしました。対象にした番組は、この間のNHKや民放各局の主な報道番組(ニュース番組、ドキュメンタリー番組、討論番組など)や主な情報番組(主にワイドショー)です。過去に番組内で選挙について企画や特集したことがある番組を中心にしました。1か月近い期間だったので検証した番組の放送時間はのべ710時間近くもに上りました。

忘れてはならないことは、この間にテレビ局にとっては相当にインパクトのある出来事があったことです。

●解散前日の11月20日に自民党から在京テレビ局各社に、選挙報道の公正中立を求める異例の「要望書」が出ていました。

そのなかでは

「街頭インタビュー、資料映像等で一方的な意見に偏る。あるいは特定の政治的な立ち場が強調されることのないよう、公正中立、公平を期していただきたい」

と書かれてありました。

今回の自民党の要望書は、一見もっともな要望のように見えるのですが、街頭インタビューや資料映像の使い方にまで神経をとがらせていてすごく細かいのが特徴です。

細かすぎて、しかも、ひとつの街頭インタビューの放送がどんなものであれば「公正中立、公平」になるかということについてすごく難しい判断を迫られます。たとえば、何が今回の総選挙で争点だと思うかという質問をした場合、沖縄で街頭インタビューすれば米軍基地の問題が争点だと言う人が多いでしょうし、福島での街頭インタビューなら、原発事故の収拾をして早く故郷に帰してほしいと言う人が多いでしょう。でも、東京のサラリーマンが多い場所なら「景気をもっと良くしてほしい」と言うかもしれません。同じ東京でも比較的リッチな人が多い地域と生活が苦しい人が多い地域では返ってくる回答も違ってきます。

それをひっくるめて、「公正中立、公平」な放送とは何かを示すことはとても難しいですし、つきつめれば正解だというものは簡単には見いだせません。世の中の人はどこかに「公正中立、公平」な報道、「客観的」な報道がある、というように考えている人が多いのですが、実際にはテレビ報道にはいろいろな段階で「恣意性」が入り込みます。

たとえば、世の中で95%が賛成していて5%の人が反対している問題がある場合、「公平」に扱うとはどういうことを意味するのか考えるとその難しさが分かります。この問題に賛成する人、反対する人の半々で扱うのが「公平」七日。それとも95%だけ賛成の声を放送し5%だけ反対の声を入れるのが正解なのか。放送という作業のなかでそれは可能なのかなど、次々と疑問がわいてきます。

●「街頭インタビューは一歩間違えば、自民党が抗議してくるかもしれない。それならいっそのこと街頭インタビューそのものを放送するのはやめてしまおう」

そんなふうに考えるテレビ局や番組担当者が出てきてもおかしくありません。

そこで街頭インタビューがどのタイミングで放送されたかをについても調べてみました。

そこでわかったことがあります。

2012年の総選挙の時には「選挙報道」にかなり熱心だったテレビ朝日やTBS、フジテレビなどの

●「情報番組」(ワイドショー)が軒並み、2014年の総選挙については時間を割いていないことです。

具体的な番組名では、テレビ朝日「ワイド!スクランブル」「モーニングバード!」、TBS「ひるおび!」、日本テレビ「スッキリ!!」、フジテレビ「とくダネ!」がこれに当てはまります。

●これらの番組は、今回、街頭インタビューの放送についても消極的でした。

自民党がテレビ各局に要望書を出す11月20日の前までは街頭インタビューを放送していたこれらの情報番組が、

要望書をもらって以降はほとんど街頭インタビューを流していません。

特に衆議院が解散された11月21日は「今回の解散についてどう思うか?」「総選挙での争点は何だと思うか?」を一般市民に聞く絶好の機会でしたが、

ほぼすべての情報番組が一律に街頭インタビューを実施しなかったのはかなり不自然なことです。

テレビ朝日とTBSの2つの放送局に関して言えば、「Nスタ」や「スーパーJチャンネル」などのニュース番組(「報道番組」)では、被災地を含めた地域で取材した街頭インタビューを21日以降もかなり意欲的に放送しています。

●ところが同じテレビ局でも「情報番組」になると一変して、放送していません。

また、日本テレビも情報番組「スッキリ!!」はふだん街頭インタビューを目玉のひとつにしている番組ですが、11月21日以降、選挙に関係する街頭インタビューを放送していません。日本テレビが放送した番組では「街頭インタビュー」が見つかったのはわずかに「情報ライブ ミヤネ屋」と「ウェークアップ!ぷらす」でしたが、2つとも大阪の読売テレビが制作する番組で、日本テレビが制作する番組ではありません。TBSやテレビ朝日、フジテレビなどのニュース番組は今回あまり多いとは言えないものの多かれ少なかれ街頭インタビューを流していました。

しかし、「NEWS ZERO」や「news every.」「真相報道バンキシャ!」など、

●日本テレビのニュース番組、報道番組のなかで街頭インタビューを見つけることはできませんでした。

ひょっとするとその他のニュースでやっていたのかもしれませんが、主要な番組の中で街頭インタビューを全く使わないとすればかなり不自然な印象です。

自民党の要望書によるものなのかどうかはわかりませんが、どの局に限らず、全般的に街頭インタビューの放送の頻度は少なかったと言えます。

●しかし、これでは選挙に関心を持ってもらうという本来の選挙報道の役割をテレビ局が放棄した、とも言えます。

先に述べたように、街頭インタビューは地域をこえて、あるいは、職業や世代をこえて、いろいろな問題意識や立ち場、境遇を国民が互いに理解しあうためのツールです。たとえば、同じ有権者にもさまざまな立ち場の人たちがいます。土石流被災者、噴火の被災者、震災被災者、沖縄、都会、地方、男性、女性、大企業と中小企業など・・・。それらの人たちの境遇や問題意識をきちんと伝えてこそ、どういう国づくりをしていくべきなのかを考えて一票を投じることにつながります。そうした有権者の「実感」を共有するという重要な役割を果たせるのが「街頭インタビュー」なのです。

●大きな役割をもつ「街頭インタビュー」をテレビ局が封印したのでは?

今回は、人間的なぬくもりや感情、そして面白みが伝えようとすることをテレビ局が自ら放棄したようにも感じます。

●総選挙の投票率が史上最低に終わってしまった背景に、こうしたテレビ報道の問題が見えてきました。

今回の総選挙でのテレビ報道に関する"異変"は他にもまだたくさん見つかっています。

その点については「続き」を書かせていただきます。