クリントン氏の私用メール問題、有権者の投票行動にどれだけ影響するか

コミー長官の決断がニュースを独占すれば、流れが変わる可能性がある。

アメリカ連邦捜査局(FBI)のジェームズ・コミー長官が10月28日、アメリカ大統領選の民主党候補ヒラリー・クリントン氏の私用メール問題に関する捜査を再開すると表明したことで、多くの有権者は困惑している。

コミー長官が異例の判断を下して大統領選に介入した。投票日まではあと1週間ほどしか残されていない。新たに発覚したメールは、民主党大統領候補ヒラリー・クリントン氏が関与しているかは不明だ。しかし、有権者は実質的に、FBIのこの報告で投票行動を決めようとしている。

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ヒラリー・クリントン氏は28日にFBIの長官が送った書簡により、窮地に立たされた。/ MELINA MARA/THE WASHINGTON POST VIA GETTY IMAGES

コミー長官は28日、当局の職員らに対して捜査再開を報告する書簡を「慎重に」取り扱わないといけないと語った。コミー長官が送った短い書簡には今回発見されたメールが重要かどうかはまだ分からないと記されている。つまり大統領選を混乱に陥れたこのニュースは、結局捜査には何の影響もない可能性がある。上院民主党のハリー・リード院内総務はコミー長官に捜査の情報開示を求めている。FBIが共和党候補ドナルド・トランプ氏の陣営とロシア政府の密接な関係を追及するかは分からないが、コミー長官は要求を受け入れようとしない。

投票日が11月8日に迫り、世界はコミー長官の発言を待ち望んでいる。しかし今のところコミー長官が選挙前に何か発言する様子はない。

その間も有権者は、FBIと司法省の匿名の情報源を基に作られたニュース記事で判断するしかない。情報源にはさまざまな思惑が隠されている。司法省にはクリントン氏を支持する複数の職員がいて、コミー長官の判断は不適切で司法省の規範から逸脱していると考えている。一方でFBIにはコミー長官を擁護する人たちがいて、独立性を維持する捜査官としてのコミー長官の評判を落とすまいとしている。さらに当局にはクリントン氏を起訴するか、さらに捜査を進めるべきだと考えている捜査官たちがいる。

期日前投票では、今回の問題はほとんど影響がなくクリントン氏がトランプ氏を大幅にリードしたが、コミー長官の決断がニュースを独占すれば、流れが変わる可能性がある。近年で最も長く、激しく対立している大統領選の中で、誰に投票するかをまだ決めかねている有権者は、FBIの捜査過程の微妙な違いについて詳しく調べたりしないだろう。そのため「クリントン氏が連邦政府から調査を受けている」という基本情報だけが頭に残ることになる。

任期10年のFBI長官から非難され窮地に立つクリントン氏からすれば、コミー長官の行動はクリントン氏の選挙で失敗させようとする政治的な行動にしか見えないだろう。

コミー氏の経歴を見れば、彼がクリントン氏を落とそうとする熱烈な共和党員であることがよく分かる。コミー長官は成人してからほぼずっと共和党に登録している。ジョージ・W・ブッシュ政権時代には司法省のナンバー2だった。また2008年の大統領選ではジョン・マケイン氏、2012年の大統領選ではミット・ロムニー氏の陣営に寄付していた。2016年7月にFBIがクリントン氏を訴追しない方針を発表したとき、コミー氏は保守派を失望させたが、一方で公然とクリントン氏を「極めて軽率」と批判する異常な手段に打って出た。しかし自分より下の立場の人間が同じことをすれば、懲戒処分の対象になると示唆している。

さらにコミー長官は、捜査当局が選挙期間中にクリントン氏を調査した内部文書からメールを発見したと語った。

ここまで投票日が間近に迫った中、議会に詳細を公表しようというコミー長官の判断は前例がない。この動きはトランプ氏を勝たせるためというよりも、捜査当局(と自分自身)の名誉を守るための行動に見える。しかしこの公表で当局もコミー長官も逆に評判が下がってしまったかもしれない。民主党員らがFBIの行動を政治的だと非難しているからだ。

コミー長官に対する批判は擁護の声より少ないが、中には批判に回った人もいる。両政党の元検事と司法省当局者約100人が、投票のわずか数日前に捜査中の情報公開を決めたコミー長官を非難する公開書簡署名した。

書簡の中で「私たちの多くはコミー長官と仕事をしたことがあります。みんな彼を尊敬しています。しかし大統領選のわずか11日前に、捜査中の事件の証拠を公表するという前代未聞の判断をしたことについては、驚きと困惑を隠せません」と記された。

クリントン氏を支持するエリック・ホルダー元司法長官はワシントン・ポストに、コミー氏を尊敬しており「高潔で信頼のおける人」だと評しつつ、彼はミスを犯したと述べた。

「今回、彼は深刻な影響を及ぼすかもしれない重大なミスを犯しました。彼、または当局幹部には、選挙前に自らが作った疑惑を晴らす責任があります。ミスを正せるかどうかは長官次第です。候補者や陣営のためではなく、我々の司法システムを守り、アメリカ国民に尽くすために」

コミー長官がもし選挙前にFBIが掴んでいる情報を公開しなかったら、間違いなく共和党員たちから批判されただろう。コミー長官の公表によって混乱が起きているにもかかわらず、情報が公開された方がクリントン氏にとっては最終的にプラスになると考える人もいる。彼らはクリントン陣営にはたいしたダメージがないと思っている。

「もしクリントン氏が勝てば、コミー長官の選挙前の捜査が物議を醸しても、結果的に禊を済ませる形になり、彼女は選挙に汚点を残したという非難から逃れられる。というもの、FBIが(今回の捜査再開のきっかけとなった)アンソニー・ウェイナー元上院議員のメールを投票日前に公開していないからだ」と、ハーバード・ロースクール教授のジャック・ゴールドスミス氏とジャーナリストのベンジャミン・ウィット氏はブログサイト「ローフェア」に投稿した。「もしクリントン氏が大統領になれば、ウェイナー氏のメールが彼女にとって不利になるものかどうかにかかわらず、今窮地に立たされていることに感謝するべきだ。そして後でより深いダメージを受けなくても済む」

ハフポストUS版より翻訳・加筆しました。

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ヒラリー・クリントン(1950-2016)
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At Yale. (credit:William J. Clinton Presidential Library and Museum)
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