消費増税の懸念材料は中国と円高【争点:アベノミクス】

来年度からの消費増税実施の前提となる国内経済の状況について、政策当局ではいくつかの懸念材料の影響は限定的と判断、増税実施の環境が整いつつあるとみている…
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A man looks at menu items displayed outside a Japanese restaurant in Tokyo, Japan, on Monday, June 25, 2012. Japanese lawmakers will vote on a consumption tax increase on June 26. Photographer: Haruyoshi Yamaguchi/Bloomberg via Getty Images
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来年度からの消費増税実施の前提となる国内経済の状況について、政策当局ではいくつかの懸念材料の影響は限定的と判断、増税実施の環境が整いつつあるとみている。

各種統計で国内景気が好調なことは確認でき、神経をとがらせてきた海外経済についても、中国経済の低成長がそれほど大きなリスクにならないと分析している。

一方、中国金融市場の混乱が一段と拡大して日本経済に波及するリスクや、円高リスクが現実化する懸念はまだ完全に払拭(ふっしょく)されておらず、消費増税後の経済状況への目配りと合わせ、政府は慎重に判断していくとみられる。

<出遅れていた設備投資や所得も改善を確認>

消費増税への前提となる経済情勢について、政策当局が懸念していた材料は主に3つあった。資産効果だけでなく雇用者所得の伸びを伴った消費の持続性が実現できるのか、出遅れていた設備投資が年後半から伸びてくるのか、という2つの国内リスク。そして中国経済の不透明感や、急速な円高進行が起こらないか、といった対外的な懸念が存在した。

このうち、国内経済の懸念はほぼ払拭されつつある。1日発表された日銀短観について、政府内では設備投資も中小企業製造業を中心にしっかりと上方修正され、その点が明確に確認できたとの声も聞かれる。金融市場の乱高下や金利上昇の影響もほとんど見られず、「金利上昇はむしろ設備投資にとって前倒し効果も期待できる」(政策当局幹部)といった見方もある。

家計部門でも、今年に入り実質所得が増加傾向を続けている。毎月勤労統計などで把握できる1人当たりの賃金は伸びていないが、失業率の低下による雇用拡大で、マクロベースでの所得を押し上げていると分析。政府としては「物価は上昇しても賃金引き上げが追いつかないとの批判は当たらない」(経済官庁幹部)との立場だ。

実際、5月後半の株価下落以降も消費は堅調だ。自動車販売が5、6月と2カ月連続で前年割れとなり、資産効果はく落の影響が気になるが、それ以外は、百貨店の高額品販売や日用品の販売も勢いがあり、6月は前年比増加となった。

民間エコノミストの間でも「消費増税について景気面からみれば、今回の時期を逃せば次のチャンスはなかなかないだろう」(SMBC日興證券・債券ストラテジスト・岩下真理氏)という声が出ており、「4─6月も3%を超える高成長になる」(バークレイズ証券)という予測もある。

菅義偉官房長官は「4─6月GDPをみて判断する」と述べている。もっともGDPはあくまで過去の数字であることから「先行き見通しも含めて総合的に判断する」(内閣府幹部)ことになりそうだ。

<中国低成長と円高進行が不安材料>

リスクはむしろ海外動向にある。ここにきて政策当局のシナリオが狂ったのは、中国の経済停滞だ。シャドーバンキング問題への中国当局の対応をみていると、あえて低成長路線を採用する可能性が強まり、中国景気の緩やかな回復をメーンシナリオにしてきた政府・日銀にとって、下振れリスクとなりそうだ。

特に中国の金融市場が一段と混乱し、金融機関の破たんにつながることになれば、経済全体に予期せぬリスクをもたらす可能性があり、警戒が必要となる。

ただ、政府内では中国経済が現状程度の巡航速度で成長するなら、日本経済にとって悪化を招く要因とはならず、さほどリスクにならないとの見方もある。

またま急速な円高進行が再来するリスクもまだ払拭できない。ここまでの企業収益の回復は円高修正が奏功した面が大きく、円高進行が株価下落をもたらし、マインドを冷やせば、元も子もない。

だが、100円台まで円安にもどったドル/円は、日銀短観における想定為替レート91円台と比較してものりしりが大きい。政策当局も、想定レートは相当慎重な見立てとみており、現状程度の為替相場が継続すれば、収益拡大余地が大きいと判断している。想定の範囲内の円高進行なら、大きなリスクにはならず、多少の景気足踏み感が出る程度にとどまると予想している。

<反対派も景気好転で容認へ、政府は慎重判断>

もちろん、実施後の消費が反動減となることは回避できない。それでも高成長が見込まれる今年度を逃して増税の決断が難しくなることは自明だ。

自民党内で消費増税に反対してきた議員の一人である山本幸三・衆議院議員は「先延ばしすれば政治的に大きな課題を抱えることとなり混乱を招きかねない」と指摘。「世界の投資家は日本の財政赤字に注目している」(6月24日ロイターセミナーにて)として、市場からの信頼を崩すわけにはいかないという認識を示した。

企業からの要望が強い法人税の実効税率引き下げに安倍政権が首を立てに振らないわけも、「消費増税を実施する以上は、法人減税に消費者が納得するわけがない」(経済官庁幹部)という配慮も透けて見える。

安倍晋三首相は3日の党首討論で、消費増税について「経済が腰折れしては元も子もない」としながらも、「(デフレ脱却の)最初で最後のチャンスかもしれない。私は、このチャンスを逃したくない。そのなかで、(消費税引き上げは)慎重に判断したい。同時に国の信認も考えながら、最終決断したい」と語った。景気面での環境に加えて、デフレ脱却の重要性と財政信認も含めて、総合的に判断していく考えを示している。

(ロイターニュース 中川 泉 編集:石田 仁志)

[東京 3日 ロイター]