対北朝鮮政策を見直し、今後に備えよ 今こそ問われる、日本の「能動的外交」

戦後70年が経ち、大きな曲がり角に来ている平和国家・日本――。なかでも、日本を取り巻く東アジアの変化は大きい。
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日本を取り巻く東アジアの急激な変化

戦後70年が経ち、大きな曲がり角に来ている平和国家・日本――。

なかでも、日本を取り巻く東アジアの変化は大きい。GDPが世界2位となり、強引な海洋進出で隣国と問題を引き起こしている中国が大きな懸念となっている。又、今年8月後半になってからは、北朝鮮と韓国が一触即発の状態になり、日本のすぐそばに存在する危険を想起させた。

長年、対北朝鮮政策に携わってきた筆者は、常々、朝鮮半島での色々なシナリオに備えるべきだと提起してきた。

8月10日に上梓した『日本外交の挑戦』(角川新書)で取り上げたが、日米安全保障条約を再考するうえでも、日韓関係の将来を構想するうえでも、朝鮮半島での南北対立の行方は極めて重要なポイントである。

北朝鮮の体制は必ずしも安定したものではない。北朝鮮の権力に直結した枢要な人事が頻繁に交代し、未だに軍と党の関係が安定していないということや、経済の情勢等を勘案すれば現在の体制の困難は増すのだろう。地雷問題に端を発し、北朝鮮が準戦時状態の布告をするなど一触即発の状態となった南北関係はようやく一定の合意を見たが、今後、同様の事態が繰り返される可能性は高い。

このような北朝鮮の不安定な情勢に対して当面必要であるのは、日米韓の危機管理計画の共有である。

1994年の第一次核危機においては北朝鮮が核不拡散条約からの一方的脱退を宣言し、国連安保理で北朝鮮制裁が議論されるなど緊張が走った。

しかし当時、日本には危機管理のために必要な法制は存在していなかった。その後、日米防衛協力ガイドライン、周辺事態法、有事法制が整備されたほか、今後自衛隊の活動強化を可能にする法制や日本の存立を危うくする事態において集団的自衛権の行使を容認する法制が整備されていくことになる。このような法整備によって、日本は平時において集団的自衛権の行使を前提とした危機管理計画を策定することが出来ることになる。これは、北朝鮮の冒険主義的軍事挑発を防ぐうえでも重要な手立てとなる。韓国とは、一時合意寸前まで至って凍結された情報の交換や物資役務の相互提供などの協定の締結を進めるべきだろう。

その上で朝鮮半島にソフトなシナリオを実現する手立てが講じられなければならない。北朝鮮核問題の解決のため2007年3月の第六回から中断している米中日露南北朝鮮の6者協議の再開を図るべきであろうが、北朝鮮がこれまで国際社会を欺き続けたことで北朝鮮に対する信頼はない。従って直ちに6者協議を再開する見通しにはない。ただ、だからと言って北朝鮮を放置することは北朝鮮にさらなる核兵器開発の時間を与えるのみであり、得策ではありえない。当面必要であるのは日、米、韓が二国間で北朝鮮との対話を続け何らかの糸口を見出す努力なのであろう

そして、もし、北朝鮮情勢が極度に混乱していくような場合、幾つかの重要なポイントがある。

第一には、北朝鮮のコントロールが失われたときに、周りの国が軍事介入することは避けなければならないことである。

第二に、北朝鮮の有する核兵器や核物質は拡散していかないように直ちに管理される必要がある。

第三に、韓国の自由民主主義体制が支配する朝鮮半島の統一が前提であり、朝鮮半島の住民が決めることではあるが、日本としては米韓相互防衛条約が継続され、米軍が一定程度駐留することが好ましい。

第四に、統一朝鮮が安定的な国づくりを行えるよう国際協力を軌道にのせなければならない。

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日本外交の挑戦』(角川新書)

環境変化の中で問われる日本の対外関係

前記した不安定な朝鮮半島問題に加え、『日本外交の挑戦』で筆者が訴えたかったことは次のことである。

米国の一極体制と言われた時代から、今や無極の時代と言われるほど世界のパワーバランスは変化した。

今、日本は転機にあり、歴史の歯車は動き出そうとしている。激動する国際環境の変化の中で、日本は安全保障体制をどう構築し、過去の歴史問題にどう向き合うのか。また、日米安全保障・沖縄基地問題、対北朝鮮政策、北方領土問題といった戦後長きにわたり存在し続けている問題をどうするのか。

戦後70年の歴史で日本が培ってきた、平和主義は基本的には正しい道筋であったと思う。しかし、大きな国際環境の変化の中で今後の対外関係をどう進展させていけばよいのだろうか。

私は外交官として36年間外務省で勤務し、日本の外交が受け身に過ぎ、戦略性を欠いているのではないかと厳しい思いを持ち続け、私なりに課題に取り組んだ。しかし、2005年に外務省を退官してこの10年間に外から見えたものも多かった。

なぜ、日本の外交は受け身で能動性に欠けていたのか。

日本外交が歴史的な制約を受けてきたことは否めないが、外交能力にも欠けているものがあったことも認めなければならない。

これからの日本外交が取るべき針路

これからの日本外交を考えるにあたって、日本のアイデンティティをどこに求めていけばいいのか。重要になるのは5つの視点である。

①過去の歴史を直視

②過去70年間築き上げた平和国家としての姿勢を重視

③十全の防衛体制と国際安全保障への積極的参画

④民主主義的価値の重視

⑤能動的・戦略的な外交

そして、これからの日本が外交の絵図を描くにあたって、7つのポイントを紹介しておきたい。

①日米安保関係の将来図と沖縄基地の削減

②中国との向き合い方

③日韓関係の位置づけ

④対北朝鮮政策を見直し、朝鮮半島の統一に備える

⑤北方領土問題の解決には新思考が必要

⑥ASEANは日本の東アジア戦略の核

⑦豪州とインドとは、東アジア地域のバランスをとる上でも協力を拡大

さらに重要なのは、緻密な戦略に基づく能動的外交を実現していくために外交体制や国内の外交基盤を強化することである。

プロフェッショナリズムに基づく官僚と政治家の適切な関係をどう構築するか。国際社会で競争力のある政治家や外交官をどう育てるか。メディアが独立性を持ち、健全な世論空間をどう作るか。財界を含む民間有識者やシンクタンクの役割とは何か。対外発信における政府と民間の適切な役割分担とは何か。

東京でオリンピックが開催される2020年には、今の趨勢なままであれば日本を取り巻く国際環境は、さらに大きく変わっていよう。

この地域で最大の民主主義先進国である日本が正しい戦略を持って今から能動的外交を進めていかない限り、未来は明るくならない。日本に残された時間は長くはない。