理由なき打ち切り~なぜ自主避難者への住宅支援を打ち切るのか!

福島県が、自主避難者に対する住宅の無償提供を2017年3月末で打ち切る方針を固めたと報じられた。当事者には激しい動揺と深い失望が広がっており、その事態の深刻さを物語っている。
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吉田千亜

■福島県による2年後の打ち切り

福島第一原発事故はそれ自体極めて不条理な事件だったが、その後に打ち出される関連政策は、どれもこれも理不尽で非人道的なものばかりだ。

このたび、福島県が、自主避難者に対する住宅の無償提供を2017年3月末で打ち切る方針を固めたと報じられた(朝日新聞2015年5月17日)。まだ正式な決定は公にされていないものの、当事者には激しい動揺と深い失望が広がっており、その事態の深刻さを物語っている。

2015年5月20日、衆議院第一議員会館で市民集会が開かれ、当事者らが思いを語った。いわき市から埼玉県に母子避難した河井加緒理さん(33)は「住宅支援は自主避難者に対する唯一の支援。今回報道された打ち切りの件で、国や福島県に見捨てられたような気になった。絶望感がとても強まった。」と感情を抑えながらも、苦悩を絞り出すように話した。

なぜ、自主避難者たちは、事故から4年間もの間、不条理な現実に辛酸をなめ続け、今また、こうした冷たい仕打ちを受けなければならないのだろうか。

■みなし仮設による住宅支援の限界

実は、我が国には、原発事故の自主避難者に対する基本的な住宅支援の法制度は存在しない。このことは、意外に思われるかも知れないが、事実である。平成24年に避難の権利の保障を宣言した「原発事故子ども・被災者支援法」が創設されたにもかかわらず、避難者に対する法整備を国がサボタージュしている真相は、こういうところからも端的に読み取れる。

では現場ではどうしているかというと、「災害救助法」という法律を使って、仮設住宅提供の制度をそのまま当てはめて場当たり的対応をしているのである。災害救助法は、自然災害に対する応急対応の仕組みであり、想定しているのは簡素なプレハブ造り。だから、もともとの制度設計として、せいぜい2~3年、長くても5年程度のスパンしか予定していないのである。そういうごく短い間尺のシステムを、数十年いや数百年に及んで恐怖を与え続ける長期の放射能被害に"そのまま"使用することが、そもそも乱暴ではなかろうか。だいいち、多くの避難者が入居しているのは公営住宅または賃貸住宅を利用した「みなし仮設」なのだから、耐用期間の短いプレハブの期限に合わせる必要すらない。

現状を振り返ると、当初、2年間の期限だったものが、3度の延長を繰り返して現在に至っている。毎年、節目が近くなると、延長できるかどうかで避難者たちは不安な日々を強いられてきた。先の市民集会で、福島県から東京都に避難した男性は、「1年、1年ずつ延長する仕組みでは、先を見通すことができないので、ただ不安が募るばかり。」と訴えた。住宅は、あらゆる生活の基盤であるから、足元がグラグラした不安定な状態では仕事も就学も決められず、人生を描くこともできない。

この国の施策は、第1に制度がない点で、第2に制度の使い方がおかしい点で、第3にそのしわ寄せを当事者に集中させている点で、間違っている。

そして、少なくとも3万6000人以上(推計)いる自主避難者に対して、このタイミングで住宅支援を打ち切ろうとする考えは、あまりに拙速であり、あまりに非人道的である。

■現実の状況に背く方針

福島県では、県内及び県外の避難者を対象に「福島県避難者意向調査」を実施し、その結果を公表している。

こうした大規模な公的調査は、昨年に続き2回目なので、25年度の25年度を比べながら1年間の軌跡を辿ることによって、問題の所在は自ずと明らかとなる。

注目すべきポイントは5つある。

(1) まず最も注目すべき点は、昨年度に比べ、「応急仮設住宅の入居期間の延長」を求める声が8.3%も増加したことである。

端的に、「打ち切り」ではなく、「延長」を求める声が高まっているということである。客観的に見れば、まだまだ仮設から退去できる環境が整っておらず、それにもかかわらず退去を余儀なくされている現実の切迫感が、こうした声の背後にあることを示している。

(2) 一方で、現在の住まいの推移を見ると、「仮設」の世帯が11.1%減り、「持ち家(一戸建)」の世帯が9.9%増えた。

つまり、家を建てることのできる力のある人はこの1年の間に新たな生活基盤を設けたのである。逆に言えば、今も仮設暮らしをしている人々は、そうした経済力が乏しく、だからこそ切実に延長を求めているのである。避難者の層が二分化されていることも示しているが、切り捨ては許されない。仮に住居の打ち切りを強行しても、行く先がないとすれば路頭に迷うほかない。先の集会で避難者の女性が話した「このままだと路上生活を考えてしまう」という言葉が胸に突き刺さる。

(3) では、自宅を再建できた人々は問題が解消されているかというと違うようだ。「現在の生活で不安なこと・困っていること」について、「住まい」を挙げた人は13.0%下がったものの、「健康」や「食生活」に関する不安はほとんど解消されていない。また、「心身の不調の内容」について問うたところ、「よく眠れない」、「疲れやすくなった」といった回答は逆に増えている。

住居が一部で確保されても、放射線被害における生活課題の改善の努力は、まだまだ足らない。原発被害に特化した総合的な施策の必要性が浮かび上がってくる。

(4) そして、「被災当時の居住地と同じ市町村に戻る条件」について尋ねた項目では、区域外避難者の回答で「災害・復興公営住宅への入居」を挙げる人数が16.4%も下がった。

この結果は、昨年中は「災害・復興公営住宅」への入居を期待していた自主避難者が、入居要件が厳しく入居が難しいことなどが明らかとなり、また、昨秋発表された公営住宅の優先入居の特例も非常に限定的かつ非現実的で期待に背いた内容だったことから、失望してしまった人が増えたものと思われる。施策の非現実性や支援メニューの貧困が、故郷への帰還を諦めさせるトリガーになっているようだ。施策のまずさが際立つ。

(5) 今回の避難者に対する住宅支援の打ち切りは、県外に出た自主避難者に対して福島県への帰還を促したいという自治体の思惑や、帰還政策を積極的に推し進める政府の方針に沿うものだ。調査結果がそれを端的に示している。

「福島県外避難世帯の今後の生活予定」を尋ねたところ、福島県に戻りたいという回答をしたのは25.8%に過ぎなかった。つまり、「帰りたい」のではなく「帰らせたい」のであり、調査結果から読み取れるのは、避難者の意向ではなく政府・自治体の意向を根拠にして支援の打ち切りに踏み切ったということである。

■期間延長と新たな施策と

やらなければならないことははっきりしている。

まず、福島県は2年後の打ち切りの方向をあらためて、直ちに止めることである。少なくとも、新たな受け皿となる新制度が確立されない限り、あるいは、退去者の将来の安定した居住先・生活環境の確保ができるようになるまでの間は、打ち切ってはならない。

これを強行することは、憲法で保障された居住移転の自由を奪うことにほかならない。

日本弁護士連合会は、2014年7月17日、「原発事故避難者への仮設住宅等の供与に関する新たな立法措置等を求める意見書」を発表し、自然災害の対応制度を流用するのではなく、以下の6つの項目を盛り込んだ総合的支援立法を新たに行うことを提言した。

  1. 「人命最優先の原則」、「柔軟性の原則」、「生活再建継承の原則」、「救助費国庫負担の原則」、「自治体基本責務の原則」、「被災者中心の原則」の6原則を盛り込む
  2. 避難者に対する住宅供与期間を相当長期化させ、避難者の意向や生活実態に応じて更新する
  3. 避難者の意向や生活実態に応じて、機動的かつ弾力的に転居を認める
  4. 避難者の意向や生活実態に応じて、避難、帰還、帰還後の再避難を柔軟に認める
  5. 国の直轄事業として避難者に対する住宅供与等を行い、自治体には避難先の地域特性に合わせた独自の上乗せ支援を認める
  6. 有償の住宅への移転又は切替えのあっせんを積極的に行わない

しかるに、この提言から1年の月日が過ぎて、この趣旨に真っ向から逆らうような動きが出ているのはとても残念だ。

平成27年5月14日の参議院経済産業委員会では、原発事故の避難者に対する救助法の必要性について、宮沢経済産業大臣が「(災害救助法を所管する)内閣府の方から言うとなかなか腰は重いようでありますが、災害救助法以外の考え方というものもありうる」などと答弁した。誰が考えても答えは同じところに行き着くのだ。どうか一歩でも進めて、具体化に結びつけたい。

緊急署名「原発避難者の住宅支援を打ち切らないで! 子を守るために避難した母たちのいのち綱を切らないで!」も始まっている。5月20日時点で集まった約4000筆が内閣府に手渡された。これに先立つに5月13日には全国からの4万4978筆の署名が内閣府に届けられている。

あらためて一人ひとりに心を寄せる支援が、私たち一人ひとりに求められている。