ナチスをだました男、メーヘレンが描いた"フェルメールの贋作"全11点【画像集】

当時の美術界では、メーヘレンの写実的な絵は全く評価されなかった。そこで彼はフェルメールを初めとした過去の人気画家の作風を真似して贋作を作り、評論家を騙して高値で売りつけていたという。この記事では、メーヘレンがフェルメールの名義で描いた全11点の絵をスライドショーで紹介しよう。
|
Open Image Modal
han-van-meegeren

オランダが誇る17世紀の画家、フェルメールの作品を敵国ナチス・ドイツに売ったとして1945年、オランダ人の男が国家反逆罪の疑いで逮捕された。その名前は、ハン・ファン・メーヘレン。戦時中にフェルメールの作品として「姦通の女」をナチス高官のヘルマン・ゲーリングに売却していた。

しかし、メーヘレンは「あれは自分の描いた贋作だ」と主張。法廷で実際にフェルメールのタッチを真似した「寺院で教えを受ける幼いキリスト」を描いたことで、裁判所も認めざるを得なかった。「ナチスをだました男」として一躍英雄となったメーヘレン。詐欺罪だけの、たった1年の実刑判決で済んだが、収監中に心臓麻痺で死んだ。

当時の美術界では、メーヘレンの写実的な絵は全く評価されなかった。そこで彼はフェルメールを初めとした過去の人気画家の作風を真似して贋作を作り、評論家を騙して高値で売りつけていたという。この記事では、メーヘレンがフェルメールの名義で描いた全11点の絵をスライドショーで紹介しよう。

メーヘレンの描いた「フェルメール作品」
(01 of11)
Open Image Modal
ヴァージナルの前の女と紳士(1932年)\n\nメーヘレンが手がけた初の「フェルメールの贋作」。フェルメールの「合奏」や「恋文」などに出てくるモチーフを流用している。ハーグの画廊に4万ギルダー(約340万円)で売却された。 (credit:Han van Meegeren)
(02 of11)
Open Image Modal
02.楽譜を読む女(1936年?)\n\nフェルメールの「青衣の女」の構図をそっくり真似た習作。「青衣の女」が立っているのに対して座っている。未売却。 (credit:Han van Meegeren)
(03 of11)
Open Image Modal
03.音楽を演奏する女(1936年?)\n\nフェルメールの「リュートを調弦する女」と「音楽の稽古」を会わせた習作。未売却。 (credit:Han van Meegeren)
(04 of11)
Open Image Modal
04.エマオの食事(1937年)\n\nフェルメール初期の宗教画を題材にして、後期の光線を重視したが画風にすることで「フェルメール中期」の未発見の作品として喧伝された。オランダのボイマンス美術館が54万ギルダー(約4500万円)で購入。専門家が騙された教訓として、現在も常設展示されている。 (credit:Han van Meegeren)
(05 of11)
Open Image Modal
05.最後の晩餐(1)(1938年?)\n\n「最後の晩餐(2)」の習作。メーヘレンが死亡した2年後の1949年に自宅から発見された。\n (credit:Han van Meegeren)
(06 of11)
Open Image Modal
06.キリスト頭部(1940年)\n\n「最後の晩餐(2)」のイエス・キリストの頭部を先に描いたもの。47.5万ギルダーで売却された。\n (credit:Han van Meegeren)
(07 of11)
Open Image Modal
07.最後の晩餐(2)(1941年)\n\n160万ギルダーで売却された。 (credit:Han van Meegeren)
(08 of11)
Open Image Modal
08.ヤコブを祝福するイサク(1941年)\n\n125万ギルダーで売却。 (credit:Han van Meegeren)
(09 of11)
Open Image Modal
09.姦通の女(1942年)\n\n165万ギルダーで売却。ナチス・ドイツの高官、ヘルマン・ゲーリングのコレクションとなった。 (credit:Han van Meegeren)
(10 of11)
Open Image Modal
10.キリストの足を洗う(1943年)\n\n美術の専門家委員会が「国宝級の作品」としたことで、オランダ政府が130万ギルダーで購入。 (credit:Han van Meegeren)
(11 of11)
Open Image Modal
11.寺院で教えを受ける幼いキリスト(1946年)\n\n「姦通の女」をナチスに売却した容疑で逮捕されたメーヘレンが「自分がフェルメールの贋作を描いた」と証明するために、法廷で描いた作品。3000ギルダーで売却。 (credit:Han van Meegeren)

ちなみに、こちらはフェルメールの「本物」とされている全37点の絵。メーヘレンの絵と比較してみると興味深い。

フェルメール全作品
(01 of37)
Open Image Modal
真珠の耳飾りの少女(青いターバンの少女) (credit:Wikimedia)
(02 of37)
Open Image Modal
「合奏」\n\nアメリカのボストンにあるイザベラ・スチュワート・ガードナー美術館に展示されていたが、1990年に強盗に盗まれた。フェルメールの作品では唯一、現在も行方不明となっている。\n (credit:Wikimedia)
(03 of37)
Open Image Modal
「天文学者」\n\nフェルメールには珍しく男性を描いた作品。モデルになったのは、同郷の科学者レーウェンフィックや哲学者スピノザという説もあるがはっきりしていない。2015年に日本に初来日する。 (credit:Wikimedia)
(04 of37)
Open Image Modal
デルフトの眺望 (credit:Wikimedia)
(05 of37)
Open Image Modal
小路 (credit:Wikimedia)
(06 of37)
Open Image Modal
婦人と召使 (credit:Wikimedia)
(07 of37)
Open Image Modal
牛乳を注ぐ女 (credit:Wikimedia)
(08 of37)
Open Image Modal
青衣の女 (credit:Wikimedia)
(09 of37)
Open Image Modal
少女 (credit:Wikimedia)
(10 of37)
Open Image Modal
レースを編む女 (credit:Wikimedia)
(11 of37)
Open Image Modal
手紙を書く女 (credit:Wikimedia)
(12 of37)
Open Image Modal
ギターを弾く女 (credit:Wikimedia)
(13 of37)
Open Image Modal
真珠の首飾りの女 (credit:Wikimedia)
(14 of37)
Open Image Modal
地理学者 (credit:Wikimedia)
(15 of37)
Open Image Modal
恋文 (credit:Wikimedia)
(16 of37)
Open Image Modal
手紙を書く婦人と召使 (credit:Wikimedia)
(17 of37)
Open Image Modal
絵画芸術 (credit:Wikimedia)
(18 of37)
Open Image Modal
音楽の稽古 (credit:Wikimedia)
(19 of37)
Open Image Modal
水差しを持つ女 (credit:Wikimedia)
(20 of37)
Open Image Modal
天秤を持つ女 (credit:Wikimedia)
(21 of37)
Open Image Modal
士官と笑う娘 (credit:Wikimedia)
(22 of37)
Open Image Modal
紳士とワインを飲む女 (credit:Wikimedia)
(23 of37)
Open Image Modal
ワイングラスを持つ娘 (credit:Wikimedia)
(24 of37)
Open Image Modal
中断された音楽の稽古 (credit:Wikimedia)
(25 of37)
Open Image Modal
窓辺で手紙を読む女 (credit:Wikimedia)
(26 of37)
Open Image Modal
ヴァージナルの前に立つ女 (credit:Wikimedia)
(27 of37)
Open Image Modal
リュートを調弦する女 (credit:Wikimedia)
(28 of37)
Open Image Modal
眠る女 (credit:Wikimedia)
(29 of37)
Open Image Modal
信仰の寓意 (credit:Wikimedia)
(30 of37)
Open Image Modal
ヴァージナルの前に座る女 (credit:Wikimedia)
(31 of37)
Open Image Modal
マルタとマリアの家のキリスト (credit:Wikimedia)
(32 of37)
Open Image Modal
取り持ち女 (credit:Wikimedia)
(33 of37)
Open Image Modal
赤い帽子の女\n\n【真作かどうか未確定】他の作品に比べて例外的にサイズが小さく、カンヴァスでなく板に描かれていることから、フェルメールの真作であるかどうか疑問視する意見もある。 (credit:Wikimedia)
(34 of37)
Open Image Modal
ヴァージナルの前に座る若い女\n\n【真作かどうか未確定】文献で初めて紹介されたのは1904年だが、長年模作または贋作と見なされていた。専門家による鑑定の結果、キャンバスと絵具が17世紀のものであることが明らかとなり、2004年以降はフェルメールの真作と見なされることも増えてきている。 (credit:Wikimedia)
(35 of37)
Open Image Modal
フルートを持つ女\n\n【真作かどうか未確定】この作品は保存状態が悪い上に出来映えも他のフェルメール作品に比べて劣ると評価され、フェルメールの真作とは見なさない研究者が多い。 (credit:Wikimedia)
(36 of37)
Open Image Modal
聖プラクセディス\n\n【真作かどうか未確定】フェルメールの真作であるかどうかについては意見が分かれる。真作とすればもっとも初期の作。 (credit:Wikimedia)
(37 of37)
Open Image Modal
ディアナとニンフたち\n\n【真作かどうか未確定】現存するフェルメール作品のうち、神話の登場人物を題材にした唯一のもの。多くの研究者がフェルメールの真作とするが、疑問を呈する研究者もいる。 (credit:Wikimedia)

1月11日の21時から、メーヘレンの生涯を追った特別番組「滝川クリステルのオランダ美術紀行 もう一人のフェルメール 20世紀最大の贋作事件を追う!」が、BS朝日で放送予定だ。メーヘレンの数奇な人生に関心を持った方は見てみるといいかもしれない。

【参考図書】

「フェルメールになれなかった男 20世紀最大の贋作事件」(著:フランク ウイン、翻訳:小林頼子、池田 みゆき ちくま文庫)

「フェルメールへの招待」(朝日新聞出版)

「フェルメール 16人の視点で語る最新案内」(美術出版社)

「謎解きフェルメール」(小林頼子、朽木ゆり子 新潮社)

ハフィントンポスト日本版はFacebook ページでも情報発信しています