「花子とアン」のもう一つの楽しみ方 『赤毛のアン』の魅力再発見

NHK朝ドラ「花子とアン」。いよいよ放送開始から1ヶ月が経過し視聴率24%超の日もあり、絶好調です。
|

NHK朝ドラ「花子とアン」。いよいよ放送開始から1ヶ月が経過し視聴率24%超の日もあり、絶好調です。

何といっても、女学生の空間に鋭い亀裂を走らせる葉山蓮子がいい。

演じている仲間由紀恵の存在感が際立つ。

暗い表情を崩さず、ぴりぴりした緊張を作り出す蓮子。

強い意志を持った風変わりな人物を、絶妙に演じきる仲間由紀恵に一票入れたい。

蓮子という存在が放つ、違和感。どこか居心地の悪さを抱え、孤独感を漂わす。葛藤を感じさせる。

考えてみると、小説『赤毛のアン』のテーマもそこに重なりあう。

捨てられた赤毛の孤児・アンが、見も知らぬ土地で、最初は拒絶されつつ、生きる場所と人との関係を少しずつ獲得していくストーリー。

朝ドラ「花子とアン」と『赤毛のアン』は、興味深いハーモニーを奏で始めています。

では、ドラマを観るだけではわからない、本の世界独自の魅力とは?

『赤毛のアン』を数十年ぶりに開いてみると。

あるいは、まだ読んでいなかった人が手にとってみると...。

『赤毛のアン』の世界は「少女のバイブル」とも言われ、独特のパワーを放つ。

何を隠そう私自身も小学校の時に親から与えられて、最初はイヤイヤ文庫本の小さな文字を目で追った一人。

教育的見地から読まされているうちに、気付けばアンの世界にハートを掴まれ、どっぷりとその世界に没入していました。

不思議な点。

それは、何十年経過しても、本の中の世界がとてもリアルに感じられること。

風の匂い、微妙な色彩、空気感......自分の身体にいまだに刻みこまれたまま風化しないのです。

まるで自分がアンの隣にいたかのように。

プリンス・エドワード島の路地の光や影などが、生々しい体験のごとく思い出されるから奇妙です。

頻繁にぺージをめくっていたわけでもない。ストーリーを詳細に暗記しているわけでもないのに。

この記憶、いったい何が牽引力になっているのでしょうか?

あらためて本を開き......「なるほどそうだったのか」と膝を打ちました。

「崖の下には波ででこぼこになった岩がつみかさなり、大洋の宝石のような小石でしきつめられた小さな砂の入り江があったりした。その向こうは輝く青い海で、かもめが翼を日光で銀色に光らせて、舞いあがっていた」 (『赤毛のアン』第五章 村岡花子訳)

「涼しい風がとりいれのすんだ畑をぬけ、ポプラの間をさらさらとわたっていった。果樹園の上にただ一つ星が輝き、ほたるが『恋人の小径』のしだや小枝の間を縫うように飛んでいた」 (同 第二十二章)

文章がとても具体的で描写的。質感や音、匂いが伝わってくる。

言葉が即イメージ化され、頭の中で風景が再現される。

そうした言葉が読み手の少女の頭にインプットされ、ユートピア的な世界をいきいきと再現する原動力になっていたのでは。

ある種のバーチャルリアリティ効果かもしません。

あるいは、こんな描写も。

「森では光線がエメラルドのような葉の間を幾重にもくぐってさしこんでくるので、まるでダイアモンドの心臓のように透きとおって映った」 (同 第十五章)

なにかに似ていませんか? 私がふと連想したのは--

「あらたうと 青葉若葉の日の光」 松尾芭蕉

自然界の色や光を、感覚センサーで細やかにキャッチし、描写していく記述スタイル。

季節の変化の瞬間を捉えていく俳句の感性と、『赤毛のアン』に頻繁に出てくる自然描写は、どこか通じているような気がするのは私だけでしょうか?

実は『赤毛のアン』を強烈に愛読しているのは世界中でも作品の故郷・カナダと日本とポーランドだけと、新聞にありました。

遠い異郷・カナダで生まれた文学が、日本的五感・感性と響きあった結果、バイブルになった?

少女たちの心を掴んできた秘密の一端が、かいま見えたような気がします。

(出典「NEWSポストセブン」2014.05.5)

「花子とアン」画像集
NHK朝ドラ「花子とアン」がクランクアップ (01 of10)
Open Image Modal
NHK連続テレビ小説「花子とアン」のラストカットの収録を終えて花束を贈られ、笑顔を見せるヒロイン・村岡花子役の吉高由里子さん=26日、神奈川県横浜市 撮影日:2014年08月26日 (credit:時事通信社)
NHK朝ドラ「花子とアン」がクランクアップ(02 of10)
Open Image Modal
NHK連続テレビ小説「花子とアン」のラストカットの収録を終え、手を取り合って喜ぶヒロイン・村岡花子役の吉高由里子さん(左)と葉山蓮子役の仲間由紀恵さん=26日、神奈川県横浜市内 (credit:時事通信社)
鈴木亮平 (03 of10)
Open Image Modal
鈴木亮平 スズキリョウヘイ \nフジテレビドラマ「全開ガール」の制作発表で\n(東京・港区)撮影日:2011年07月07日 (credit:時事通信社)
鈴木亮平(04 of10)
Open Image Modal
鈴木亮平 スズキリョウヘイ\n俳優\n平成26年度前期連続テレビ小説「花子とアン」の出演者発表会見=18日、東京・渋谷のNHK 撮影日:2013年09月18日 (credit:時事通信社)
吉高由里子、「花子とアン」の撮影に臨む(05 of10)
Open Image Modal
「赤毛のアン」を日本に紹介した翻訳家、村岡花子の半生を描いた来春のNHK連続テレビ小説「花子とアン」の収録が21日、山梨県甲府市郊外で行われ、ヒロインの吉高由里子さんらが撮影に臨んだ。 撮影日:2013年11月21日 (credit:時事通信社)
仲間由紀恵と吉高由里子 (06 of10)
Open Image Modal
▽仲間由紀恵(手前左) ナカマユキエ\n女優\n吉高由里子(同右) ヨシタカユリコ\n女優\n平成26年度前期連続テレビ小説「花子とアン」の出演者発表会見=18日、東京・渋谷のNHK (credit:時事通信社)
仲間由紀恵(07 of10)
Open Image Modal
▽仲間由紀恵 ナカマユキエ\n女優\n平成26年度前期連続テレビ小説「花子とアン」の出演者発表会見=18日、東京・渋谷のNHK (credit:時事通信社)
「花子とアン」の出演者 (08 of10)
Open Image Modal
平成26年度前期連続テレビ小説「花子とアン」の出演者 (手前左から)室井滋 石橋蓮司 (奥左から)窪田政孝 松本明子 カンニング竹山=18日、東京・渋谷のNHK 撮影日:2013年09月18日 (credit:時事通信社)
朝ドラヒロインがバトンタッチ (09 of10)
Open Image Modal
31日から始まるNHK朝ドラ「花子とアン」ヒロインの吉高由里子さん(左)が「ごちそうさん」の杏さんからバトンタッチ。吉高さん「杏さんを見て他人ごとだと思ってましたが、見くびってすみません」とあいさつした=18日、横浜市 撮影日:2014年03月18日 (credit:時事通信社)
NHK朝ドラ「花子とアン」の吉高由里子と中園ミホ (10 of10)
Open Image Modal
014年度前期のNHK連続テレビ小説「花子とアン」のヒロイン・村岡花子役の吉高由里子さん(左)と脚本の中園ミホさん(NHK連続テレビ小説「花子とアン」制作発表会。東京都渋谷区神南の日本放送協会) 撮影日:2013年06月25日 (credit:時事通信社)