学校に寄せられる苦情の幾つかは生徒自身が当事者~身近な課題を生きた教材として問題解決能力を培うPISA型学習のチャンスに

生徒たちが当事者として関わる身近な課題こそ「生きた教材」であり、「実生活の様々な場面で直面する課題に活用できる技能や知識、問題解決能力」を培う「チャンス」です。

保育園建設への反対運動が生じていることがたびたびニュースになる昨今ですが、周辺住民からの反対や苦情は保育園等の施設建設に限ったことではありません。

学校の体育の授業中、休み時間、部活動や運動会の練習等々に対して、周辺住民から「うるさい」といった苦情があがり、対応に苦慮している現状がままあります。

実際、授業中の教室や休み時間中の廊下では70db(デシベル)前後の音量が計測されると聴きます。望ましい音の上限が40~60dbと言われていますから、この70dbは「うるさい」というレベルにあたり、掃除機の音や騒々しい街頭などと同程のレベルに該当します。

どのように折り合いをつけていくか、大きな課題です。

「かつてみんな子どもだったのだから、無理解すぎる……」といった心情的な面だけでは解決できないのが常です。なぜなら、周辺の方々はずっとそこに暮らし続けていくわけで「うるさくてもご理解を」だけでは、なかなか抜本的な解決には至りません。

保育園開設にむけて近隣住民から理解を得るために、事業者は、積極的に住民と対話を重ね、住民の声に耳を傾け、設計変更で軽減できるような、例えば。窓の方向を変えたり、二重窓にしたり、建物の高さを変更したり、駐輪場をしっかりと設置したり...といったことに努めています。

ですが、何よりもまずは、新たに開設する園の子どもたちが、「地域の子ども」として「その場所で過ごしていきたい」ということを粘り強く丁寧に話をしていくことが大切だとお聴きします。

先日、文京区立中学校PTAの各会長と文京区議会の文教委員会メンバーで意見交換会を行った席でも、近隣から子どもたちの声がうるさいという苦情で、朝練などができなくなっているという悩みを聴きました。学校の先生が、周辺の方に理解してもらうために何度も足を運ぶものの、なかなか理解が得られないそうです。

解決に向けて具体的な改善を実施するには、学校に任せきりではなく教育委員会の積極的な対応も必要となります。

教室や廊下、体育館からの声については、建て替えや改修の機会に二重窓にしたり、防音壁にするなど、苦情に対して話し合いをもって、折り合えるように施設改善の工夫をするなど、これは、子どもたちが伸びやかに学校生活を過ごすためにも、行政が真摯に対応していくべきことです。

二重窓にすることで冷暖房効果が高まりますので、体育館などが避難所となった際の寒さや暑さ対策の効果も期待できます。

しかし、そうした工夫はもちろんのこと、まずは相手の主張の背景に何があるのか、本質的に困ってることは何なのか、丁寧に耳を傾ける対話が必要不可欠だと思います。相手を、子どもたちにとって「理不尽な苦情を言う困った存在」だと初めから切り捨てれば、対話の糸口は持てなくなってしまいます。

このような課題の解決に向けて対応する人たちの中に、決定的に欠けている当事者がいます。生徒たちです。

中学校や高校生であれば、近隣からの苦情に対して交渉を行うことのは先生たちになるが、そもそも、部活動などの騒音等をめぐる当事者は子どもたち自身であり、先生たちがすべてを抱え込むのでなく、当事者の子どもたちに、「どうしたらいいかな」と相談を持ちかけることで打開の道が見つかることもある。生徒たち自らができることはたくさんある。

と大阪大学の小野田正利教授は指摘されています。

生徒たちが「トラブルを解決する知恵と力」を付け、経験値を高めていくことが重要として、小野田先生は次のように投げかけています。

中学校や高校が直面する近隣トラブルは、まさしく具体的で日常的で、生徒たち自らの利害(学校生活)と直接ミス日付いているものであり、傍観者として成り行きを見守る存在ではない。

苦情を申し出る近隣住民からすれば、生徒たちの存在や行動が、本来的なトラブル原因であるにもかかわらず、教師がすべて前面にでてきて対応し、生徒たちに謝らせることもせず、当事者である彼らにトラブル解決の方法もたずねようともしないことに腹が立っている。そこのそもそもの限界があるのではないか? それが生徒たちの成長のチャンスをも奪っているのではないか? 出典:時事通信社 内外教育(2015.年3月6日号)

大いに共感します。

「きみたちならどうする? アイディアを出してくれ」と先生たちが相談をする。それは、子ども達にとって「トラブルを解決する知恵と力をつける」大いなるチャンスになると思います。

「ピンチをチャンスに」……子ども達の教育にぜひ活かしてもらいたいものです。

小野田先生は、学校に寄せられるいくつかの苦情等の当事者は生徒自身だという意識を生徒たちに持たせ、考えさせていく重要性のまとめとして

実際にやってみる。失敗したりうまくいかなかった場合に次の策を考える。トラブルを小さくし解決へと持っていく工夫と粘り強さ。こうした想像力・探究心と忍耐力、難しい交渉を共同で行うことこそが、まさしくPISA型学力であろう。

と説かれています。

*PISAとは?

Programme for International Student Assessmentの略で、OECD(経済開発協力機構)加盟国を中心に3年ごとに実施される15歳児の学習到達度調査で、目的としては、義務教育修了段階(15歳)において、これまでに身に付けてきた知識や技能を、実生活の様々な場面で直面する課題にどの程度活用できるかを測るもの。

2012年度のPISA調査では、日本の生徒は、問題解決能力の1~7の習熟度レベル別の内、レベル5以上の生徒数の割合で参加44ヶ国中、シンガポール・韓国に次いで3位と高いいっぽう、「取り組み始めた課題にはいつまでも関心を持つ」などの「問題解決における忍耐力(客観的能力評価ではなく主観的調査)」では最下位であるなど、まだまだ課題が見受けられます。

出典:国立教育政策研究所~PISA2012年問題解決能力調査-国際結果の概要 http://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/pisa2012_result_ps.pdf

生徒たちが当事者として関わる身近な課題こそ「生きた教材」であり、「実生活の様々な場面で直面する課題に活用できる技能や知識、問題解決能力」を培う「チャンス」です。

公立中学校でも、ぜひ、子ども達の力を信じて「どうしたらいいかな?」と相談をして、解決へ向かう取り組みを実践して欲しいと期待します。