公に認められたというものの、役所や病院等の手続きで不遇を感じる時が今もあるのではないだろうか。
|

今年4月1日から渋谷区で施行されたLGBT条例、同性パートナーシップ条例等と称される「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例(以下、パートナーシップ条例)」について同区市役所を視察し、同区総務部男女平等・ダイバーシティ推進担当課長より説明を受けた。

この条例が施行されるに至った経緯は以下である。

平成24年6月 長谷部健・渋谷区議(現区長)が一般質問。

平成26年7月 渋谷区で条例制定検討会が設置される。

平成27年4月 条例施行、条例推進委員会発足

当時の長谷部議員がLGBTに関する一般質問を行った理由は、同議員が所属していたNPO法人の活動で当事者の方と出会ったことが始まりとのことである。その方は身体は女性だが心は男性ということである。

さて、パートナーシップ条例が施行されたことによりLGBTの方々にとってどういったメリットがあるのだろうか。それはパートナーシップ証明書が発行されることである。この証明書はLGBT等の性的少数者同士の社会生活関係を「パートナーシップ」と定義し、渋谷区が今年11月5日から発行開始したものである。

ただし、ここでいうパートナーシップはあくまで渋谷区が認める関係であって、法律上の婚姻とは異なる。ゆえに片方のパートナーが主婦(主夫)となっても第3号被保険者として税法上優遇される訳ではないし、社会保障上特段の優遇が適用されるわけではない。

では、パートナーシップ証明書は渋谷区にとってはLGBT等の性的少数者を個人としてとして尊重されるという宣言みたいなものに過ぎないのだろうか。また、証明書の交付を受けた方々にとっては自分たちの存在が公に認められたという価値はあるものの、役所や病院等の手続きで不遇を感じることに変わりはないのだろうか。

この点、渋谷区ではパートナーシップ証明書を発行することに加えて、発行を受けた方々が直面するこれらの課題の解決に動き始めている。具体的には以下である。

・区営住宅の賃貸契約:異性間の婚姻が前提だった契約をパートナーシップ証明書があれば契約できるようにする。

・携帯会社:性的少数者同士の社会生活関係を法的な家族と認めておらず、「家族割り」の適用ができなかった方々をパートナーシップ証明書があれば適用できるようにする。

・生命保険:証明書があれば、保険金の受け取りをパートナーにできるようにする。

・民間住宅の賃貸契約:不動産業界に働きかけ大家さんがNGとしていた性的少数者同士の社会生活関係を証明書があれば、賃貸契約を結ぶことができるようにする。

・病院:家族の面会として認められていない性的少数者同士の関係を証明書があれば面会可能にするよう医師会に働きかける。

・性別記載欄:男女のどちらかに丸やチェックをつける記載欄を公的な書類からできるだけ削除していく。

ところで、世田谷区でもパートナーシップ制度が施行されたが渋谷区との違いは何であろうか。大きく2つある。1つは世田谷区は要綱であり、渋谷区は条例で制度を定めていることだ。要綱は自治体の事務用マニュアルみたいなもので、条例は自治体の法律である。2つ目はパートナーシップ証明書の発行するために渋谷区は「任意後見契約に係る公正証書」と「当事者間において区規則で定める事項についての合意契約の公正証書」の2点が必要ということである。

世田谷区は公正証書の提出が必要ないことから、世田谷区はLGBT等の性的少数者の人権を認めるという対外的な宣言に重きを置いており、渋谷区は公正証書を必須とすることにより法的な重みに重きを置いている。

ただし、この公正証書が渋谷区でパートナーシップ証明書を発行する際のデメリットとなっている面もある。任意後見契約の公正証書の発行は1人につき約25000円で、合意契約の公正証書は1人につき約12000円とのことなので、2人で合計すると証明書を発行するために50000円近く負担しなくてはいけないからである。

いずれにしても、今回の視察で感じたことは男女平等や男女共同参画など、男女だけを前提とした価値観では不十分な時代になったということである。渋谷区の条例の名称に男女平等及び多様性とあるように、「多様性」という言葉も加えて政治や行政も政策を考えていかなくてはいけない時代である。