地域で活かす!地域が変わる! 運営推進会議でまちづくり:研究員の眼

運営推進会議とは何か?運営推進会議を活かしていくコツは...
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介護保険制度では、グループホームや小規模多機能型居宅介護などの地域密着型サービス事業者に対して、概ね2ヵ月に一度の運営推進会議の開催を義務付けている。

この会議は事業所の運営を透明性のあるものにし、サービスの質確保・向上を目指していくために、外部の目によるモニタリングと意見を集めるための仕掛けである。

利用者、家族、地域住民(町内会長、民生委員等)、市職員、地域包括支援センター職員、消防署や警察署の職員など多岐にわたる関係者の参加が想定されている。

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■地域を巻き込むしくみ

運営推進会議の意義を理解するためには、介護保険サービスの一類型である「地域密着型サービス」の基本的な考え方に触れておく必要があるだろう。

現在、各自治体が精力的に進めようとしている地域包括ケアシステムも、最初の一手は、2006年介護保険法改正により創設された地域密着型サービスの整備の頃から既に始まっていた。

①本人本位の支援、②継続的な支援、③地域で暮らし続けることの支援、④地域との支えあい 等を理念とする地域密着型サービスは、事業者側による一方的なサービス提供を求めるのではなく、利用者のより良い暮らしを着眼点に本人と地域との関係を断ち切らない支援を使命とした。

その使命を果すためには事業所と地域との良好な関係を築き、事業所が提供するサービスが、住民ニーズに即した価値のある地域資源として機能していく必要がある。利用者がどのような暮らしを望み、これからサービスを利用するかもしれない住民が何を期待しているのかを知らなければ、何も始まらないということだ。

また、「地域で暮らし続けることの支援」や「地域との支えあい」を実現するためには、「介護はサービス事業者に任せておけば安心」と思っている住民意識に働きかけて、地域の人たちにも「高齢者にやさしいまちづくり」への関心を寄せてもらう必要がある。

運営推進会議は、事業所と地域との関係をつなぐ一つの手段であり、地域密着型サービスを'事業所と地域住民とが一緒に育てていく'ということを制度として後押しするしくみなのである。

■運営推進会議の実際

7月の下旬、訪問させていただいた地域密着型特養では、その夜たまたま開催することになっていた運営推進会議の片隅に座らせていただくことが出来た。

開始時間は六時半。自宅や職場から集まってきた地域の人たちが、施設の中の十畳ほどの和室で座卓を囲んでいる。参加者は、事業所職員、町内会長、住民代表、民生児童委員、利用者家族、地域包括支援センター職員、市役所職員などを中心に全部で17名。

会議が始まると職員は事業所の運営状況を報告し、スライドショーを使って利用者の日常生活の様子を様々な場面から映し出していった。この施設では建物続きに学童クラブを併設しており、高齢者と子どもとの交流も自然な関わりの中で行われている。

日常的に触れ合う中で、子どもたちはお年寄りへの気遣いや思いやりの心を身に付けていくという。入所しているお年寄りの笑顔も印象的だ。

場面ごとに加えられる職員の説明からは、介護における様々な配慮や事業所としての支援の方針・考え方が様々に伝わってくる。

介護という仕事が単に入所者の世話機能を発揮しているのではなく、個別の人の生きる意欲を引き出し、出来る力を見出しながら、その人なりの自立した生活を作り出す仕事なのだということを改めて考えさせられる。同時に、会議に参加する人たちは、こうした具体的な場面を通して職員たちの思いを理解し、共感し、事業所の活動を支える地域の応援団になっていくのだと感じた。

今回の会議で参加者から事業所に出された宿題は、ヒヤリハットの情報収集のあり方であった。些細な事故も、それを未然に防ぐ工夫は様々に考えられるはず。その積み上げこそが重大な事故の予防につながっていく。

「日常的にヒヤリハットを蓄積するしくみが必要ではないか」と誰かが言えば、勤めていた職場のしくみを披露して、具体的な改善策のヒントを提供してくれる人もいた。批判したり、責任を追及したりするのではなく、信頼関係のもとに事業所と地域とが一緒に知恵を出し合う姿がそこにあった。

■地域を変えていく力

当初、事業所運営の透明性やサービスの質の確保・向上を目的としていた運営推進会議は、回を重ねていくうちに「事業所が地域に貢献する」「住民同士が助け合う」といった新たな地域活動に発展しているところも多い。

会議には地域の情報を様々に持っている人たちが集まってくるため、身近なところで起きている課題を皆で一緒に共有することができる。その困りごとの解決策として「いま出来ること」が浮かび上がってくれば、前向きに、柔軟に、事業者と住民とが団結することが出来る。

以前筆者が「研究員の眼」のテーマに取り上げた「認知症カフェ」などの取組みも、運営推進会議がきっかけとなっているケースは意外と多い。

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残念なのは、この会議の存在が一般にはあまり知られていない点である。

事業者にとっては義務として始まった運営推進会議。やらされ感が強くなるほど取組みの形骸化が起きてくる。けれど、地域の団結力が高まることで、本当の受益を得られるのはそこに暮らす住民自身だ。

高齢者にやさしいまちづくりは、事業者と住民との相互関係があってこそ。運営推進会議を活かしていくコツは、地域のニーズを事業者に押し付けることなく、住民と事業者との「協働」や「地域の力の連結」を前提に進めていくことのようにも思われる。

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(2015年8月12日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

生活研究部 准主任研究員