マクドナルド業績悪化に見られるフランチャイズ化の功罪 (中泉拓也 関東学院大学 経済学部教授)

分社化やフランチャイズ化が業績悪化の理由ではなく、それに合わない本部の無理な命令の増加や権限委譲を無視した本部の戦略が、現場の負担になったということが業績低下の一因だと考えられる訳です。
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昨年8月、日本マクドナルドの社長が交代しました。2004年に社長へ就任した原田泳幸氏は、アップル日本法人の社長からマクドナルドの社長へと転身し、当時 「macからマックへの転身」と大きな話題となりました。

社長自身がメディア等で頻繁に露出しているのでご存知の方も多いと思いますが、その後大幅な業績アップに 貢献しています。しかしながら、最近、マクドナルドの業績は、急転直下で悪化しています。2011年から二期連続の減収となり、昨年8月、遂に原田社長は代表権の無い会長に退きました。

業績悪化は本当にフランチャイズ化が原因なのか?

東洋経済オンラインの「マクドナルド、原田体制の完全なる終焉」では、以下のように社長交代と業績の悪化について分析しています。

財団法人日本生産性本部傘下のサービス産業生産性協議会が行っているJCSI(日本版顧客満足度指数)によれば、2010年の調査では外食企業21社中、 マクドナルドの顧客満足度は14位、ブランドへのロイヤルティ(同じブランドを複数回購買する程度)は2位だった。だが、2013年にはどちらも27社 中、最下位となった。

また、こういった近年の業績の急激な悪化の原因として、直営店の減少とフランチャイズ店の増加、すなわち、フランチャイズ化(以下FC化とします)が業績の低迷につながったという説明をしています。

調査にかかわった法政大学大学院の小川孔輔教授は「性急なFC化路線でサービスが落ちている。特にこの1年間で劇的に数値が低下した」と指摘する。業界で も「直営で社員だからこそモチベーションが向上し、高いサービスが維持できる。FC化後も同じ水準を維持できるのか」(外食チェーン幹部)という声も強 い。

しかしながら、FC化(フランチャイズ化)が問題なら、そもそもFC化しなければよかったはずです。上記記事では、FC化を直営店の売却による財務体質の改善やコスト削減に貢献したという説明が中心で、ややもすれば、財務の数字をよくする小手先の技術として批判するような勢いです。しかしながら、マクドナルドは、FC化を進めることによって、利益のみならず、売上も増加させています。これについて、マクドナルドのウェブサイトから入手出来る決算短信を使って説明しましょう。

店舗数と売り上げの推移から分かる事

これによると、第一に直営店とFC(フランチャイズ)店の店舗数のデータが得られる2007年以降、直営店を減らし、FC店を増やしているだけでなく、総店舗数自体を減少させていることがわかります。これを示したのが図1です。

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図1 店舗数(直営店、FC店)推移

そのため、店舗当たりの売り上げが変わらないとすると、売り上げが減少するはずです。しかしながら、直営店、FC店両方の合計の売上げは2007年以降、2007年の水準以上で推移しています(財務上の売上げには、FC店の売上げは含まれませんが、システムワイドセールスという概念で直営店とFC店の合計の売上げが重要な情報として、決算短信にも注記されています)。

2013年には約5%前期比で売上が減少しましたが、店舗数の減少にも関わらず、むしろ店舗辺りの売上げは店舗の削減を補ってそれ以上に増えている訳です。(スマホクーポンの多様により実質的な値引きが行われていますが、これは売上げの減少ではなく、費用の増加として計上されています。その金額は2011年で、66億円程度と見積もることが出来ます(決算変更による利益額の修正より算定))。

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図2 直営店、店舗数推移

このように、FC化が、売却益を見込んだ財務体質の改善だけでなく、店舗当たりの売上げを増やし、収益性の改善にも貢献していることが明らかです。本稿の後半では、FC化は収益の改善にもつながっていることもふまえ、FC化の問題点だけでなく、功罪について、検討したいと思います。

メイドフォー・ユーとFC化の相性は良い

そのヒントは、原田社長が出演した2012年3月22日のカンブリア宮殿(テレビ東京)の内容にあると考えています。原田社長が登場したカンブリア宮殿では、業績を立て直した切り札として、メイドフォー・ユーという、店舗で加工する割合を増やしたシステムがあげられています。以前は、加工された食品を店舗で電子レンジで暖める作業に限定されていたのに対して、店舗で製造することにウエイトを置くようになった訳です。

さて、上記は店舗での加工割合が増加したという技術的な説明で、FC化という企業形態とは異なる話のように思えるでしょう。しかしながら、現場の作業形態の変化には、それに適した経営形態への移行が、実はとても重要なのです。そして、それを理論的に体系付けて説明してきたのが、近年の組織の経済学の最も重要な成果の一つです。このような店舗での作業が増える際には、店舗に権限を持たるために、分社化やFC化を行い、店舗での裁量の余地を拡大することが望ましいというのが組織の経済学の基本的なメッセージです。

分社化や権限移譲に関する組織の経済学の理論的展開は、Jensen and Meckling[1976]に代表される金融におけるエイジェンシー理論やCoase, Williamsonの取引費用の経済学、非対称情報に基づくモラルハザードやアドバースセレクションの問題の対処を中心とするインセンティブ理論、契約の不完備性に関する研究等ともに発展してきました。これらは、ポールミルグロム、ジョンロバーツの「組織の経済学」や、デイビッドベサンコ他の「戦略の経済学」、より平易で最近の研究もふまえたものとして、伊藤秀史著の「ひたすら読むエコノミクス」などにまとめられています。

最新の研究としては、コロンビア大学のW. Dessein教授のcheap talk gameを用いた一連の研究があり、本部と営業店との情報共有やコーディネーションの重要性を中心に権限配分について分析しています( 例えば、Ricardo Alonso, Wouter Dessein, Niko Matouschek,[2008]等を参照) 。

こういった取引費用と組織の経済学、エイジェンシーアプローチの中で、FC化の分析は所有権アプローチとCheap-talk gameを用いて権限委譲に関するコーディネーションやコミュニケーションの分析を行うこと、契約の経済理論の伝統的なアドバースセレクションやモラルハザードを用いた分析に大別されます。所有権アプローチはまさに合併や企業統合を企業資産の使用者の習熟度の重要性に基づいて分析するので、FC化の分析には最適と言えますし、著者もその研究が専門です。

所有権アプローチから見ても、メイドフォー・ユーのシステムの導入が営業店のスタッフの作業の重要性を高めるため、まさにFC化が最適であると指摘出来ます。所有権アプローチについては、上記「戦略の経済学」でわかりやすく解説されていますので、参照して下さい。今回はそれに、コミュニケーションやコーディネーションの要因も考慮しないといけない訳ですが、それにDessein教授の一連の研究が当てはまります。伝統的な分析も含め、前傾の「ひたすら読むエコノミクス」がわかりやすい入門書です。

また、本稿が想定する分社化と権限委譲に関する簡単な解説として経済産業研究所のコラム「事業ユニットに対する権限委譲とモニタリング」があります。

このように、メイドフォーユーのシステムの導入と営業店への権限委譲を促進するFC化を並行して進めたのは、非常に理にかなったものなのです。その点、原田社長のフランチャイズ化は非常に理にかなっており、2011年頃までは、店舗数の減少にも関わらず、売上の伸びや、経常利益の大幅な増加という形で、業績に貢献していました。

では、2012年以降、なぜ急速に業績が悪化したのでしょうか。実際には、ここで指摘する以外の要因も大きいと思います。例えば、マックカフェの導入がかえってサラリーマンを中心とした長時間滞在の顧客の増加につながり、回転率の低下だけでなく、ファミリー層のマクドナルド離れまで起こしてしまった可能性も指摘できますし、舌の肥えた日本人に対して、飽きさせないメニューを継続的に提供することが難しくなってきた等の要因も考えられます。ここでは、権限移譲としてのFC化による業績悪化の要因について指摘したいと思います。

権限委譲後も、本部の対応は旧態依然?

分社化や分社化による権限委譲は望ましいことばかりではありません。最大の問題は、権限を現場に移譲した場合、本部のコントロールが弱くなり、本部の指示が十分伝わらなくなる傾向が生じます。その結果、本部の指示が多すぎると更に現場が混乱する訳です。

実際、近年のマクドナルドは無理な命令を本部が行って来た印象があるのです。その典型例が「ENJOY! 60秒サービス」です。以下の報道では、消費者の苦情だけでなく、現場の混乱の様子も伝えられています。

「ポテトを塩抜きで頼めば簡単に60秒を超える」、「マックフルーリーを3つ頼めばよい」な ど、ネット上では"攻略法"まで広がり始めたマクドナルドの「ENJOY! 60秒サービス」。ご存知の人も多いだろうが、これは客に商品を60秒以内で提供できない場合、ハンバーガーの無料券を配布するというマクドナルドのキャ ンペーンで、1月31日まで開催されている。

しかし、ネット上には「提供を急ぐあまり商品が雑になっている」、「砂時計の砂を落とすためバンバン机を叩く客がいる」、といった客のクレームが相次ぐ中、今度はクルー(店員)と思わしき人たちの悲鳴の声も広がりはじめた。

マックの労働環境、また話題に ライブドアニュース2013/01/13

こういった命令は、現場を混乱させるだけでなく、現場と本部との信頼関係やコーディネーションも損ねたのではないでしょうか。こういった命令は、直営店でも徹底が難しいですが、フランチャイズ店では、更に混乱を来す可能性が大きいです。

このように、分社化やフランチャイズ化が業績悪化の理由ではなく、それに合わない本部の無理な命令の増加や権限委譲を無視した本部の戦略が、現場の負担になったということが業績低下の一因だと考えられる訳です。

以上は、あくまで仮説で、検証するにはデータを用いた実証研究が必要になりますが、こういった考え方は企業経済学や、組織の経済学では比較的自然な考え方です。しかも、こういった仮説に基づくと、マクドナルドの今後の展開のみならず、権限移譲の問題に直面している全ての組織の改善に、大きなインプリケーションが得られるでしょう。例えば、本部が業績悪化に焦って、動き過ぎると更に悪くなる懸念があること。むしろ、本部はブランドの価値を維持するための本質的な対策となる戦略に特化すべきであるといったことです。

以下のページも参考にして下さい。

以上はマクドナルドにおける権限委譲に関する問題についての考察ですが、他の企業でも十分参考になると思います。そういった企業組織の改革や経営戦略に生かして頂ければ幸いです。

中泉拓也 関東学院大学 経済学部 教授