「トランプに忠誠を誓う」48歳の白人男性が信じたいもの。“トランプのアメリカ”は続く

「トランプは嘘を言っていることもあるのはわかっています、だけど支持する」
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トランプ支持者やQアノン信奉者などがワシントンDCで「選挙は不正だ」と訴え、デモを繰り広げた。「アメリカ第一」という旗を掲げた支持者たち=2020年11月14日
NurPhoto via Getty Images

2020年のアメリカ大統領選は、全ての州の勝敗結果が出揃っても、トランプ氏は敗北宣言をしていない。異例の事態だ。トランプ氏を支持するフロリダ州のジェームズ・ワイズさん(48)は、「バイデンを受け入れない。私は忠誠を誓う、トランプに」と話す。

ワイズさんは、長年の不満となっていた問題に取り組んでいたトランプ大統領に感謝しているという。「選挙には不正があったのだ。トランプは大統領としてやっていく」選挙から10日たった11月14日にそう話した。

 4年前、ワイズさんは、ワシントンDCでトランプ氏の大統領就任式を祝うパレードの沿道にいた。4時間以上待って現れた、車の防弾ガラスの中から手を振るトランプ氏に歓喜の声を上げ、手を振り続けた。当時住んでいたジョージア州からトランプ支持者の友人らと大型バイクでワシントンDCまで駆けつけていたのだ。

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トランプ支持者のジェームズ・ワイズさん=2017年1月、ワシントンDCで。井上未雪撮影
Miyuki Inoue/ HuffPost Japan

 当時、朝日新聞の記者としてアメリカで取材していた私も、ジェームズさんたちのグループの隣でパレードが到着するのを待っていた。4時間に及ぶ待機中、次第に言葉を交わすようになり、ワイズさんが、隣人の家のペンキを塗ってあげたり車を直してあげたりと、町でも頼られる存在らしいことがわかった。

ワイズさんは、腕は丸太のように太く、がたいもがっしりしている。ワイズさんのグループの男性はいずれも似たような体型の人が多く、手足も太かった。近くの通りでは武力衝突があり、このグループの様相には威圧感があった。ただ、一人でいる私のことを何かと気にかけてくれ、私が記者だと知ると、ワイズさんは、「僕たちのトランプを写すならここに乗るといい」と言って、ひょいと私を持ち上げた。グループが長時間とっていた階段の上の貴重な場所を譲ってくれ、私は群集に遮られずにカメラを構えることができた。

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2017年1月のトランプ大統領就任式の後、ワシントンDCのトランプホテルの前をトランプ大統領を乗せた車列が通った。熱烈なトランプ支持者と反対派がある箇所を境にして隣り合わせで、怒号と歓声が入り混じっていた=2017年1月、ワシントンDC(井上未雪撮影)
Miyuki Inoue / HuffPost Japan

ジェームズさんが住んでいた南部ジョージア州は、映画「風と共に去りぬ」の舞台で、黒人奴隷と特権階級だった白人をめぐる歴史が染み付いている。今回の選挙では、トランプ氏が落とし、民主党が1992年以来となる勝利をおさめ奪還した。

今回の大統領選挙中、ワイズさんと電話で何度か話をした。ワイズさんは、当時住んでいたジョージアから、トランプが勝利をおさめることになったフロリダに移っていた。

「バイデンは、生涯ずっと政治家で、さらに8年間も副大統領の地位にあったのに何も変えてこなかった。多くのアメリカ人は、これまでの政治の嘘にあきれ、うんざりしている。その点、トランプは違う」という。

この4年、生活が劇的に良くなったわけではない。ただ、収入は下がらず、貯金ができるようになった。

トランプ大統領を支持する一番の点は、「政治家ではなく、ビジネスマンだから」だ。

「アメリカは、ゴールドマンサックスなどトップ1%に牛耳られている。トランプもトランプタワーに住むリッチなファミリーだ。だが、破産も経験してる。戦ってきたビジネスマンなのだ。トップ1%とつながって何もしてこなかったこれまでの政治家とは違う。これが一番大きい」。

トランプ氏の数々の事実に基づかない発言について、ワイズさんは「彼が言っていることは正しくないこともわかっている...。だけど、やっていることは正しい」とトランプ氏の手法について理解を示す。「不都合なことがあればフェイクニュースといっているところもあるが、これがトランプ流だ」。

トランプ支持者は、荒くれどもという印象が世間にはあるという。「トランプを支持しているのは、私のような中流階級(ミドルクラス)の者が大半だ。トランプ大統領の支持者たちとされる人が、暴力を行使したり、先鋭化しているというが、そんなことはない。冷静に変革を望んでいるのだ」。

トランプ大統領は、敗北を認めず、各地で選挙に不正があったとして訴訟を起こすとしているものの、弁護団が撤退する州もある。

ジェームズさんの嘆きは深い。「アメリカは、この数十年に腐ってしまったのです。“アメリカンドリーム”やアメリカの政治システムや経済は、腐った政治によって力を失っていった。アメリカを再び偉大にしたい」。

今の社会の仕組みの中でもがく我が身を憂う。「ファーストフードが大量に作られ、それを嬉々として食べる中間層。我々、中間層は病気になり、一方で、薬を売って稼ぐリッチな層がいる」。格差社会を変えたいと語気を強くする。

社会の既存の体制を批判する陰謀論のQアノンをジェームズさんは、信じ始めている。「Qのこと?信じている部分もあります」。

「Qは、ある部分はやりすぎていると思いますが、信じられる部分もある。例えば、政治家の『欺瞞』です。オバマ元大統領がやってきたことは、問題の解決をしているように見せて、本当には何も解決していない。ヒラリー・クリントンもオバマもウォールストリートの金にまみれて汚れています。ウォール街にいる高額所得者、アメリカのわずか1%の人々がメディアや権力を取り込んでアメリカを裏側からコントロールしている、こう指摘するQは信じられます」。

最近、Qアノンが拡散するのは、トランプ氏が投票用紙に独自の透かしを入れているという陰謀論だ。不正を証明できるようにしていたため、最終的には、不正票を排除してトランプ氏が勝利するという説だ。ジェームズさんは、真意はわからないものの信じたいという気持ちがのぞく。

「“1%”の毒を断ち切りたい。それはトランプにしかできない。世の中の悪い部分を切り落とすには、彼しかいないのです」。

トランプ支持者が唱え続けている言葉をワイズさんは繰り返した。「私はアメリカを愛している。トランプもアメリカを愛していることがわかる。だからトランプ大統領を支持します」。

「トランプのアメリカ」は続いていきそうだ。
(ハフポスト日本版・井上未雪) 

混戦の末、バイデン氏が勝利を確実にしたアメリカ大統領選。敗北したトランプ氏ですが、前回より多い7000万以上の票を得るという結果になりました。これが意味することは? 選挙が終わってもアメリカ社会の「分断」は残り続けるのか?

#ハフライブ では、日本から大統領選に在外投票したモーリー・ロバートソンさんらを迎え、「トランプ支持者の“心の中“と分断社会のこれから」をテーマに議論しました。(生配信日:2020年11月5日)

番組アーカイブはこちら⇨https://youtu.be/iqjG-xll4j8