北朝鮮の有事に備える 医療対応の側面から

想定外の変化に国際政治は直面し、北朝鮮有事のリアリティが増してきているように感じられます。私たちは、どれだけこの有事を想定し、備えができているでしょうか。

北朝鮮そのものの不安定もさりながら、米国、韓国と想定外の変化に国際政治は直面し、北朝鮮有事のリアリティが増してきているように感じられます。私たちは、どれだけこの有事を想定し、備えができているでしょうか。

クーデターによる内戦状態となれば、大量の難民が発生するリスクがあります。内戦とならなくとも、飢餓や弾圧が極限になった場合には、雪崩のように脱北者が発生する可能性があります。もちろん、そうならないかもしれません。ただ、核の偶発的使用も含めて、いまの朝鮮半島には何かがおきるリスクがありますし、そのリスクを様々に想定しながら準備をしておく必要があるでしょう。

北朝鮮から難民が発生した場合、その多くが中国や韓国へと陸路で逃れるでしょうが、沿岸部からボートピープルが発生することも考えられます。いまも北朝鮮の漁船が北陸あたりに漂着することがあります。エンジンを動かせずに半島から流されると、石川県から青森県にかけて流れ着きます。かつて、「津軽」は「津が流(流れ着く港)」でした。きちんと想定しておく必要があります。それは万単位かもしれません。

7世紀後半に百済が滅亡し、つづいて高句麗が滅んだときも、やはり日本列島に多くの難民が流れ着きました。当時の大和朝廷は、この難民たちを武蔵國に移して開拓にあたらせたようです。 『続日本記』の天智5年(666年)には「百済人男女2千余人東国移住」とあります。その後も難民を関東へ移したとの記述が続きます。霊亀2年(716年)には、武蔵國に高麗郡を設置したとあります。ちなみに、当時の日本列島の人口は500万人ぐらいでした。

ボートピープルの規模が小さかったとしても、日本が軍事的貢献をしない以上は、人道面での支援に力を注ぐ必要があるでしょう。中国や韓国の難民キャンプに収容された難民のうち、(おそらく在日世帯を頼るなどの目的で)日本への再定住を希望する家族がいれば、積極的に受け入れる姿勢を示さなければなりません。韓国は混乱状態かもしれません。経済も不安定となっているでしょう。歴史的な責任もありますし、一緒に血の汗を流すぐらいの覚悟が必要です。それを示すことなく、冷淡な対応をとれば、日本の国際的なイメージは凋落するかもしれません。

段取りとしては、たとえばこんな感じ・・・。

まず、難民保護施設(石川県、新潟県、秋田県の3か所)を設置して収容します。難民が武装している場合には解除し、工作員などを見抜かなければなりません。ここでは韓国の専門家と連携する必要がありそうですね。そして、感染症についてのスクリーニングを行い(たとえば、北朝鮮では三日熱マラリアが流行しています)、適切な治療を施し、必要なワクチンを接種します。

次に、北陸・東北以外の全国数か所に(各ブロック公平に)設置した定住促進センターへと難民を移送します。ここで、日本語の教育、日本社会への適応指導、職業訓練などを実施します。あるいは、米国などへの第三国定住を求める場合には、UNHCRと連携しながら移住に必要な支援を実施します。

そして、各地域に定住した難民たちへのアフターケアを各自治体を通じて行っていかなければなりません。まあ、飛鳥時代に難民に期待される役割が「開墾」だったとすれば、現代の難民に期待したいのは「介護」になるかもしれません。となると、介護事業者への異文化理解に向けた支援が必要になりそうです。もちろん、朝鮮半島に平和が訪れた場合には、帰国に向けた支援プログラムを開始することになるでしょう。

先日、ヨルダンのシリア難民キャンプを支援で訪れる機会があったのですが、そこでふと気づいたことがありました。キャンプ内で難民の診療をしているのがシリア人の医師たちだってことです。当たり前のようでいて忘れがちなことですね。

つまり、北朝鮮からの難民を受け入れるとすれば、その規模にもよりますが、難民保護施設や定住促進センターで診療するのも北朝鮮の医師や看護師でよいのではないかってこと。言語や文化の問題もクリアできますし、ただでさえ医療者が不足している地域医療への負担にならずにすみます。

とすれば、これら難民を受け入れる施設について、外国人医師が難民に限って診療できる医療特区として整備しておく必要がありそうです。これで国際NGOによる支援も実効的になるでしょう。また、法定感染症が発生した場合の対応なども、同様に特区対応とした方がよいかもしれません(感染症指定医療機関がパンクしないように)。

と、医療に限らず、各領域でこんなことを考えて北朝鮮有事を想定すべき状況が近づいているように思います。発生してから議論していては手遅れになりかねません。必要な法整備も進めておきましょう。本気で考えるためには、いまの世界における難民支援をよく観察すること、できるだけ参画しておくこと、すでに現地で活躍している日本人を大切にすること(いざというときに呼び戻せるようにしておくこと)ですね。

もちろん、北朝鮮独裁体制が不安定にならないように(下手に崩壊しないように)、軟着陸をめざす国際政治も期待しつつ・・・。

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8万人のシリア難民を受け入れるヨルダン最大のザアタリ難民キャンプに設置された診療所。多くの難民たちが医療サービスを求めて行列を作る。

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キャンプ内の診療所で働いているシリア人の小児科医。診療所を運営するのはヨルダンのNGOだが、そこで実働する医療従事者の多くがシリア人だった。

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難民小児へのワクチン接種。ヨルダン国内に受け入れるにあたって、MMR(麻疹・おたふくかぜ・風疹)とDPT(ジフテリア・百日咳・破傷風)、ポリオを同時接種していた。こういう細かいところからルール作りをしておくことが必要。