大川小裁判の証人尋問は2016年4月に 遺族は「先延ばしだ」と批判

遺族たちは、証人尋問の期日が被告側の都合で4カ月も先延ばしされたことに対して、口々に不満を述べた。
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加藤順子

2011年の東日本大震災で、学校管理下で児童74人と教職員10人が亡くなった石巻市立大川小学校。児童の19家族が、真相究明と事後対応を不服として、市と県を相手に損害賠償を求めている裁判は12月18日、非公開の進行協議が仙台地方裁判所(髙宮健二裁判長)で行われた。裁判所は、2016年4月8日と22日に証人尋問する方向で調整をしている。

■ 生存教諭の証人申請は「留保」 メモ廃棄の元指導主事は「却下」

原告側の吉岡和弘弁護士(仙台弁護士会)によると、証言する方向に決まったのは現時点で4人。

市側が証人申請した、大川小の当時の校長と、震災前に同小の教頭時代に災害対応マニュアルの改訂などに携わり、震災後に指導主事として保護者や住民などからの聞き取り調査にも携わった現校長、地震直後に広報車で2度にわたり大川小前を通った市役所の支所職員の3人については、原告側も同意した。

一方、原告側が申請を出している、当時の校長を含めた5人のうち、「山さ逃げよう」と主張したとされる当時6年の男児の父親で原告団長の今野浩行さんについては、被告側の異論はなかった。

この日新たに追加申請をした、学校組織や防災体制の事情に詳しい遺族1人については、裁判所は被告側からの意見を待ち、採否を決定する。

現場で児童らと共にいて唯一生還した当時の教務主任だった男性教諭については、地裁は採用を「留保」とした。この教諭については、遺族たちから証人として採用するよう裁判所に対して強い要請が出されているものの、主治医が、体調や精神状態を悪化させると尋問に反対しており、裁判所側は、他の証言を聞いた上で、さらに教務主任の証言が必要かを判断する方針だ。なお、書面での尋問は、原告が反対しているため、行われないことが決まった。

さらに、原告側が証言を求めていた、事故後に生存児童からの聞き取り調査を担当し、調査メモを廃棄した当時の指導主事については、裁判所は、証人として採用しないこととした。

証人の採否が正式に決定するのは、次回期日の1月22日となる。

■ 原告16人が思いをつづった陳述書を提出

この日原告側は、遺族16人が陳述書を提出した。

「子どもが、生きたかった、死にたくなかったという声を代弁するつもりで、陳述書の作成にあたった。どうしても、思い出して涙が出て、手が止まってしまうこともあった」

団長の今野さんは、5年間の経過を振り返る辛い作業を振り返った。

遺族の中には、裁判に求めることや我が子への思いの他に、教諭の似顔絵や作文等を添付した人もいる。

まだ書き上げられていない遺族もおり、最終的には全19家族が提出する予定だ。

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遺族16人が提出した陳述書の中には、子どもが描いた大好きだった先生の似顔絵も

■ 4カ月先の尋問期日に、遺族は「先延ばしだ」

「被告側が時間を延ばしたがっていることが手に取るようにわかるやりとりだった」

原告団が協議後に開いた会見で、遺族たちは、証人尋問の期日が被告側の都合で4カ月も先延ばしされたことに対して、口々に不満を述べた。

2016年3月で、提訴から2年になる。なかなか進展が見られなかったこの裁判で、遺族が、真相に近づく手応えを多少なりとも感じたのは、11月13日に行われた裁判官の現地視察だった。

18日の協議では、原告側が提案する期日は、被告側に全て拒まれ、新年度内での日程調整となったという。

裁判の傍聴や、原告団の会見に参加し続ける岩手大学の土屋明広准教授(教育制度・法社会学)は、「裁判が進んでいない印象を今日も感じた。証人尋問が4月になってしまい、止まっている遺族の時計がさらに引き延ばされた形だ」と話している。

写真家・ジャーナリスト加藤順子氏が追った大川小学校
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あの日、この校庭に子どもたちが待機していた(2014年3月11日 石巻市釜谷の大川小学校) (credit:加藤順子)
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教室で見つけた孫の遺品の国語辞書を見つめる(2014年3月11日 石巻市釜谷の大川小学校) (credit:加藤順子)
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大川小の児童23人の遺族が、市と県を相手取り、損害賠償を求めて仙台地裁に提訴した(2014年3月10日) (credit:加藤順子)
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記者会見を行ったのは8人の父親(2014年3月10日) (credit:加藤順子)
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会見中、苦しそうに目を閉じる遺族の中村次男さん(2014年3月10日) (credit:加藤順子)
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東京で行われた「DCI日本・子供の権利条約市民NGO報告書を作る会」主催のシンポジウムに向かう生存児童(2013年11月23日) (credit:加藤順子)
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「DCI日本・子供の権利条約市民NGO報告書を作る会」主催のシンポジウムで発言する生存児童の父、英昭さん(写真右、2013年11月23日) (credit:加藤順子)
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大川小学校遺族の佐藤和隆さん(写真左)と今野ひとみさん(同右) (credit:加藤順子)
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裏山にある津波到達点付近から見た石巻市立大川小学校(2012年7月9日) (credit:Yoriko Kato)
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石巻市立大川小学校校門前(2011年4月5日) (credit:Yoriko Kato)
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大震災からひと月足らずの大川小付近(2011年4月5日) (credit:Yoriko Kato)
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三角地帯から見た釜谷地区。住宅や商店が立ち並んでいた集落に残っていたのは、校舎と白い診療所の建物のみ (credit:Yoriko Kato)
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子どもたちがいなくなった校舎は、スズメたちの住処になっているのか、たくさんのさえずりが聞こえた(2012年7月10日) (credit:Yoriko Kato)
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校舎の裏山の斜面には、「津波到達点」と書かれた札が立てられている。学校の屋根とほぼ同じ高さだ(2012年7月9日) (credit:Yoriko Kato)
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裏山は、「立入禁止」の看板が立てられた。この付近に何ヶ所か、子どもたちが逃げようとしていたと思われる斜面がある(2012年7月9日) (credit:Yoriko Kato)
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月命日に献花台で手を合わせる人々。校舎や、児童が大勢見つかった山根付近で、手を合わせる遺族も見られた(2012年8月11日) (credit:Yoriko Kato)
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大川小の児童の遺族有志、8家族11人が石巻市教育委員会に質問書を提出したことを報告し、一人ひとり思いを語った(2012年6月16日、仙台市内) (credit:Yoriko Kato)
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小学6年生の次女を亡くした佐藤敏郎さんは、話し合いの場で「いよいよ津波が溢れてきた時点であわてて逃げたのが川でしたよね。そこを大事なところだと認識して、説明していかなければいけないのでは」と石巻市教委の指導主事に問いかけた(2012年8月10日、石巻市) (credit:Yoriko Kato)
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被災当時6年生だった次女みずほちゃんは、家族のアイドルのような存在だった。たくさんの写真が並ぶ仏前で、取材に応じる佐藤かつらさん(2012年7月10日、石巻市内) (credit:Yoriko Kato)

加藤順子

ライター、フォトグラファー、気象予報士。テレビやラジオ等の気象解説者を経て、取材者に転向。東日本大震災の被災地で取材を続けている。著書は『石巻市立大川小学校「事故検証委員会」を検証する』(ポプラ社、共著)、『あのとき、大川小学校で何が起きたのか』(青志社、共著)など。Yahoo! 個人 http://bylines.news.yahoo.co.jp/katoyoriko/

池上正樹

大学卒業後、通信社などの勤務を経てフリーのジャーナリストに。主に心や街を追いかける。震災直後から被災地で取材。著書は『大人のひきこもり 本当は「外に出る理由」を探している人たち』(講談社現代新書)、『石巻市立大川小学校「事故検証委員会」を検証する』(ポプラ社)、『ダメダメな人生を変えたいM君と生活保護』(ポプラ新書)、『あのとき、大川小学校で何が起きたのか』(青志社)など多数。厚労省の全国KHJ家族会事業委員、東京都町田市「ひきこもり」ネットワーク専門部会委員なども務める。ヤフー個人http://bylines.news.yahoo.co.jp/masakiikegami/

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