「楽天市場」での日本シリーズ優勝セールは何が問題なのか?

楽天、三木谷会長は自社が引き起こした日本シリーズ優勝セール事件を鮮やかに収束させ、返す刀で厚労省が企む薬のネット販売規制方針を撤回に追い込む事が出来るのか? 或いは、自社楽天の保身に拘る結果、業者に全ての罪を被せトカゲの尻尾切りで逃げ切りを図るのか?
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インターネット仮想商店街「楽天市場」での日本シリーズ優勝セールで、一部店舗が通常価格を引き上げて表示し、大幅な割引を装った問題で、楽天は7日、二十数店舗、約1000点の商品で不適切な表示をしていた疑いがあると明らかにした。

三木谷浩史会長兼社長は同日の決算記者会見で「正式な日本一セールは厳正な審査をしていたが、便乗して『勝手セール』をする店舗があった」と述べた。

楽天は不適切表示をした店舗について「増える可能性はある」(高橋理人常務執行役員)としており、詳細を調査し半月をめどに結果をまとめる。消費者庁によると、景品表示法に違反する「有利誤認」に当たる可能性があるという。

星野監督の背番号にちなんだ「77%割引」が目玉企画だった様だが、インパクトのある訴求である事は事実である反面、果たして業者の利益が確保出来るのか? という疑問が付いて回る。定価から「77%割引」を行い、更に楽天への売上手数料やカード会社への決済手数料、梱包費を負担せねばならず、業者の手元に残るのは定価の20%をかなり下回るのではと推測する。そして、事件そのものは業者が採算確保のために「77%割引」を前提にして通常@115円の値札を付けて販売しているリンゴの定価を日本シリーズ優勝セールの期間中は@500円に設定し、値引き結果@115円に着地させるという他愛のないものの様だ。

■日本国民の理解は?

一般の日本国民はこの事件をどう理解しているのだろうか? 推測するに「楽天市場」にある程度の理解があり、ある種の危惧は感じながらも好意的に見ている人達にとっては「やっぱり!」という事だろう。一方、普段ECを使うことなく生活し、ネット販売には悪徳業者が参入しやすいと、悪意、色眼鏡で見ている人間は「それ見た事か!」と溜飲を下げたのかも知れない。ネットユーザーには学生から高齢者、外国人など異なるリテラシーを持った人がいる。余程注意しなければ、ユーザーの信頼を逆手に取って、結果として大部分のユーザーを欺き、裏切る事になってしまう。楽天は、この辺りの想像力、ユーザーへの配慮が欠けていたと思う。

■そもそも「77%割引」は可能なのか?

そもそも、「77%割引」が可能なのか? という疑問がこの事件の肝だと思う。私は、基本的には不可能だと思っている。「楽天市場」というより「グルーポン」が取り扱うのが相応しい、地方の観光旅館の様な場合は例外的に可能だと思う。そもそも素泊まりであれば、室料の経費は建物の「償却費」と人件費位な訳で、客が宿泊する事での追加コストインパクトは軽微と思われる。シーズンオフは過去のデータから週末を除き平均50室が空室という事であれば、本来素泊まり@1万円の宿泊料金を「77%割引」を適用して@2,300円でも売り上げゼロよりは良いだろう。ホテル周辺に手頃な飲食店が無ければホテルで夕食、朝食を食べてくれるはずである。宿泊料金が安く浮かせたので利益率の高い特別料理を注文してくれるかも知れない。

しかしながら、商品を製造するために資材や材料を仕入れなければならない一般商品となると話は全く異なる。朝日新聞が伝えるところでは、「シュークリーム1個当たりの通常価格を「1200円」とし、これを260円で売ることで、「77%割引」を演出していた可能性がある」との説明だ。@1200円といえば、何人かで切り分けて食べるケーキやカステラの価格というのが一般常識ではないのか? 一個「1200円」のシュークリームに楽天市場の利用者が違和感を覚え通報した様だが、普通の感覚の持ち主なら変だなと思うはずである。

シュークリーム製造に必要なコストといえば先ずは原材料である「薄力粉」、「牛乳」、「卵」、「砂糖」、「バニラエッセンス」の調達費用、それに実際に製造を担当する人間の人件費、更には水道光熱費といったところではないだろうか? 何れも日本シリーズ優勝セールで「77%割引」を実行するからといって値下げを要請しても断られるに決まっている。この事は何もシュークリームに限った特殊な話ではないだろう。処分を急がねばならない不良在庫や、特殊な訳あり商品を例外にすればほぼ全ての商品にいえる事である。仮にそうであれば、日本シリーズ優勝セールに伴う「77%割引」は元々無理があったとの結論となる。更に厳しくいえば、今回の事件の当事者は景品表示法違反を起こしたと思われる各事業者であるが、その黒幕、真のA級戦犯は楽天という事になる。

■活かされなかったグルーポンの正月おせち事件の反省

事件から既に約3年が経過し風化してしまったのかも知れない。グルーポンの「おせち事件」まとめ(2011年元旦発生)が写真付きで豪華で美味しそうなパンフレットのおせちの様子と、実際に注文者に届けられた粗末で不味そうな実際の中身を対比してくれている。更には、受注に生産体制が追いつかず納期が間に合わなかった(要は正月中には届かなかった)という後日談まである。本来2万円が定価のおせちを1万円で注文可能というグルーポンの美味しい誘いに釣られ注文したら、不味いおせちが正月明けに届けられたという顛末であった。

事件自体は今回同様至極単純なもので、業者が予定数量を大幅に超えて受注したのは良いが、食材を実際に調達する段階で支払に必要な金額が判明し、採算を確保するため材料の質を落とし、料理の種類と量を減らしたものとみられる。その結果が、まとめの写真が示す貧弱な料理の量と、「牛肉からは腐臭もしていた模様」という記述である。

冷静に考えればこの事件もまた、起こるべくして起こったものではないのか? ネット活用で従来不可能であったビジネスが可能に成るのはその通りだし良い事だと思う。しかしながら、事業者サイドから見れば商流が変わるだけというのも今一方の事実である。本来店舗販売なら2万円で売るべきおせちを1万円で売り、しかも商品代金半分の5千円をグルーポンに上納すると言う仕組みなので業者の手元には5千円しか残らない。定価2万円の商品で5千円しか入金出来ない仕組みであれば、採算を確保するためには、(1)定価2万円がそもそも高過ぎる(景品表示法違反)若しくは、(2)パンフレットの中身に比べ、料理の種類と量を減らし、質を落とす、早い話「羊頭狗肉」以外は思いつかない。従って、楽天がグルーポンの正月おせち事件を我が事として真剣に捉えておれば今回の不祥事は生じなかったはずである。

■振り上げた拳の下ろし所に困る楽天、三木谷会長

厚労省は薬のネット販売を、一部規制する方針を表明した。一方、楽天、三木谷会長はこれに対し記者会見を行い、ネット販売を規制する薬事法改正が行なわれたら、産業競争力会議の民間議員をやめる考えを表明した。私は、従来から薬のネット販売反対派は「ネット販売は一般的に危ない」という奇妙な思い込みと、この思い込みに起因する偏見からひたすら反対しているのだと理解している。従って、三木谷会長の主張は正しいし、安倍首相は指導力を発揮して厚労省を押さえ込むべきであると確信している。

しかしながら、今回EC業界で本来範を垂れるべき楽天が日本シリーズ優勝セールの如き下品で破廉恥な事件を引き起こしてしまった。「ネット販売には悪徳業者が参入しやすい」、「ネット販売は一般的に危ない」という「偏見」を「事実」として自らが日本社会に示した訳である。これでは、三木谷会長が薬事法改正を不満として振り上げた拳を机に叩きつけたとしても、机の上には剣山が針を上に向けて待っている様なものである。三木谷会長としては、ここは我慢のしどころ、捲土重来を期し隠忍自重をするしかないのではないのか?

今回の「楽天市場」での日本シリーズ優勝セール事件と厚労省が発表した「薬のネット販売を一部規制する方針」は「ネット販売は一般的に危ない」という「偏見」に根っこの部分で繋がっている。楽天、三木谷会長は自社が引き起こした日本シリーズ優勝セール事件を鮮やかに収束させ、返す刀で厚労省が企む薬のネット販売規制方針を撤回に追い込む事が出来るのか? 或いは、自社楽天の保身に拘る結果、業者に全ての罪を被せトカゲの尻尾切りで逃げ切りを図るのか? この場合は当然「ネット販売は一般的に危ない」という「偏見」を「事実」として楽天が立証してしまう事になる。今後、こういった視点から三木谷会長の発言、動向を注視したい。