「テトリス効果」を使ったポジティブ脳の作り方

心理学に「ネガティビティ・バイアス(Negativity bias)という言葉があります。これは、ポジティブな情報よりもネガティブな情報の方に感心が向きやすく、記憶にも残りやすい人間の脳の傾向を指しています。
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心理学に「ネガティビティ・バイアス(Negativity bias)という言葉があります。これは、ポジティブな情報よりもネガティブな情報の方に感心が向きやすく、記憶にも残りやすい人間の脳の傾向を指しています。原始時代、過酷な環境で生き抜くために最も必要とされたのが、危険を瞬時に察知して身を守る能力。そして危険(ネガティブな情報)にばかり気を配っていたことで、自然とそれが人間の脳にインプットされてしまい、私たちの脳はネガティブ寄りになってしまったようです。※1

でも幸い、現代の日本で生きる私たちは、常に身の危険を感じる環境にはいません。それに先天的にネガティブに偏りがちな脳を、ポジティブなものに切り替える能力が私たちには備わっています。そんなポジティブな脳を作るためのヒントがあの懐かしのゲーム、「テトリス」にありました。

カリフォルニア大学の名誉教授、リチャード・ハイヤー博士は、脳が発達段階で、普段ゲームをすることのない10代の女性を2つのグループに分け、1つのグループに3か月間、毎週平均1.5時間テトリスをプレイしてもらう実験を行いました。すると、ゲームを続けたグループは、脳内で情報処理を司る部分の灰白質(神経細胞の集まり)の厚みが増し、実験を始めた頃に比べて、脳の一定の場所の効率が上がりました。この結果ついて、「私たちの脳は何かを行う時に、使うべき領域を学んでいるのだと考えられます。そしてゲームを続け、上達することで、無意識にプレイできるようになるのです」と見解を述べた博士。 ※2

博士のその後の実験では、一つのタスクを行う度に、脳内で情報を伝達する神経細胞の結合部にあたる「シナプス」の効率が上がり、そのタスクを簡単に再開できるようになるということが分かりました。要するにこれは、同じタスクを何度も行うことで、脳のエネルギーを消費することなく、そのタスクを無意識のうちにできるようになるということ。※3

ポジティブ脳を作るために、この「テトリス効果」を活用してみるのはいかがでしょう?

ハーバード大学で10年にわたり「幸福学」を教え、自身の手法にも「テトリス効果」を取り入れているショーン・エイカー氏は、「私たちは、生活の中にあるポジティブなことに目を向けられるよう、脳を改めてトレーニングすることができるのです。それができたら、可能性が溢れていることに気づき、エネルギーが湧いてくるのを感じ、より高いレベルでの成功につなげることができるようになります」と言います。※4

エイカー氏考案のポジティブ脳を作るためのトレーニング方法はこちらです:

①ありがたく思った出来事を毎日3つ書き出す

→ポジティブなことを見つけようとする姿勢が身に付く

②その日1日のポジティブな体験を日記に残す

→脳がそれを追体験する

③運動をする

→行動が大切であることを脳に教える

④瞑想をする

→手元にある一つのタスクに集中できるようになる

⑤意識して親切な行動を取る

→1日1通、だれかにポジティブなメールを書くだけでもOK

これを毎日続けて習慣づけることができたら、意識しなくても自然とポジティブになれる自分に出会えるはず!

脚注:

※2 "Intelligence and Changes in Regional Cerebral Glucose Metabolic Rate Following Learning"、INTELLIGENCE 16, 415-426 (1992)

※3 "MRI assessment of cortical thickness and functional activity changes in adolescent girls following three months of practice on a visual-spatial task"、BMC Research Notes 2009

※4 ショーン・エイカー、『幸福優位7つの法則』、徳間書店 (2011/8/27)

7 Fascinating Facts About Meditation
脳の柔軟性が向上(01 of07)
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持続的な瞑想は、「神経の可塑性」につながる。環境に合わせて、構造的かつ機能的に変化できる脳の能力だ。\n\n前世紀の科学では、成人期を迎えたあとの脳は変化しないと考えられてきた。しかし、米ウィスコンシン大学の神経科学者リチャード・デビッドソン博士の研究によると、瞑想に慣れた人の脳では、瞑想後にも高レベルのガンマ波が発生し、特定の刺激にとらわれない能力があるという。つまり、こうした人は、自分の考えや反応を自動的にコントロールできているということになる。
大脳皮質の厚みが増えた(02 of07)
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1日に40分間の瞑想を行っている米国の男女を対象に行った2005年の研究では、対象者の大脳皮質が、瞑想をしない人と比べて厚くなっていることがわかった。つまりこれは、瞑想をしない人よりも脳の老化がゆっくりと進んでいることを意味する。また、皮質の厚みは、決断力や注意力、記憶力にも関連している。
「注意力の向上」に(睡眠より)効果的(03 of07)
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2006年には、「眠る」、「瞑想する」、「テレビを見る」という行動をとった学生が、それぞれの行動のあとの注意力を測定する調査が実施された(画面が光ると同時にボタンを押すという方法だった)。この結果からは、瞑想をしていた学生が、ほかの行動をとった学生よりも10%高い注意力を持つことがわかっている。\n
血圧低下に効果的(04 of07)
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2008年、マサチューセッツ総合病院のランディ・ザスマン医師は、高血圧の患者を対象に、3カ月間の瞑想をベースとしたリラクゼーションのプログラムを実施した。このプログラムに参加した患者は、薬による血圧のコントロールを受けていない。\n\n定期的な瞑想を3カ月間行った結果、60人中40人の患者に大幅な血圧の降下が見られ、薬の量を減らすことに成功した。この研究からは、リラクゼーションが血管を拡張させる一酸化窒素の生成にもたらす効果がわかっている。
テロメアを保護する(05 of07)
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テロメア」と呼ばれる、染色体の末端部にある保護カバーは、老化防止の科学で現在注目されている。テロメアが長ければ、長生きできる可能性も高いというのだ。\n\n米カリフォルニア大学デービス校の「シャマサ・プロジェクト(Shamatha Project)」が行った研究によると、瞑想をしている人は、瞑想をしていない人に比べてテロメアの活動が非常に高いことがわかった。テロメアの構築を手助けする酵素である「テロメラーゼ」が活性化すると、強固で長いテロメアができる可能性が高いと言われる。
HIVの進行を遅らせる(06 of07)
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リンパ球や白血球は、身体の免疫系システムの「中枢部」であり、HIV感染者にとって特に重要なものとされる。\n\n2008年にHIV感染者を対象に行った研究によると、瞑想をしていない感染者が大幅なリンパ球の減少を示したのに対し、8週間の瞑想コースを受けた感染者では、リンパ球の減少がまったく見られなかったことが示されている。\n\nまた研究からは、瞑想したあとにリンパ球が増加することもわかっている。ただし、この研究の被験者は48人と少数なため、決定的な結論とは言い切れない。
痛み止めの効果もある(07 of07)
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2012年初頭にウェイク・フォレスト・バプテスト大学(Wake Forest Baptist University)が実施した実験では、瞑想によって痛みの強度を40%、痛みの不快感を57%減少させることができ、モルヒネや鎮痛剤を使用した場合の痛みの減少率(25%)よりも効果があったという[実験では、5分間にわたって右脚に摂氏49度の装置を当て、痛みのレーティングを尋ねた。瞑想の練習を行った者では、少ない者は11%、多いものは93%減少したと答えた]。\n\n瞑想は、体性感覚皮質の活動を抑え、脳のほかの部分の活動を増加させるのに効果があると考えられている。ただしこの研究もサンプル数が少ないので、断定的な結論を出すことはできない。