南シナ海が「火薬庫」に 東南アジア各国が進める海上の軍備拡張

領有権問題で南シナ海情勢が緊張を増すなか、東南アジア各国は、海軍や沿岸警備隊への支出を優先させつつある。

[シンガポール 26日 ロイター] - 領有権問題で南シナ海情勢が緊張を増すなか、東南アジア各国は、海軍や沿岸警備隊への支出を優先させつつある。しかし、各国の海上軍事力が強まれば、係争海域で衝突が起きた際に収拾がつかなくなるリスクも高まる。

調査会社IHSが発行する軍事専門誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」によると、東南アジア全体の防衛費は、2015年の推定420億ドル(5兆1000億円)から、2020年までに520億ドルに膨らむ見通し。なかでも、海軍関係の予算がかなりの部分を占めるという。

増強された軍備の多くは、南シナ海と周辺海域で使われるとみられる。南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島では現在、中国が人工島の建設を加速させており、周辺各国が警戒を強めているほか、中国海軍と米空軍の間にも緊張が高まっている。

南シナ海は、年間5兆ドルの貨物が行き交う海上交通の要所。中国が領有権を主張する範囲は南シナ海のほぼ全てに及び、フィリピン、ベトナム、マレーシア、台湾、ブルネイの主張領域と重なっている。

国際戦略研究所(IISS)アジア事務所のティム・ハクスリー事務局長は「彼らの海上での能力が高まれば、(東南アジアの)攻撃部隊の活動範囲と殺傷力も拡大することになる」と指摘。「衝突が起きてエスカレートすれば、さらに破滅的な争いを招く可能性がある」と述べた。

海軍力増強に対する関心の高さは、先週シンガポールで開催された海上防衛展示会「IMDEXアジア2015」でも顕著に見られた。

会場では、地域の海軍幹部や防衛物資調達責任者らが、欧米やイスラエル、アジアの防衛企業と情報交換を行い、最新鋭の潜水艦のほか、巡視船や水陸両用艦、無人機や偵察機などの模型が所狭しと展示された。

欧州の防衛大手企業の幹部は「自由な時間は持てなかった。複数の高官が当社のブースを訪れて熱心に見ていた」と語った。

<密輸や密航>

関係者の関心は、地政学的問題だけにとどまらない。東南アジア各国政府は、海賊行為や密輸や密航にも神経をとがらせている。

マレーシアとインドネシアはそれぞれ、海で遭難したとみられるミャンマーやバングラデシュなどからの移民数千人の捜索に海軍を派遣した。

ただ、海上保安能力の強化が叫ばれる一方で、シンガポールを除き、東南アジア各国の予算は厳しい状況にある。

IMDEXアジアに参加した匿名の軍事筋は「何十年も前に交換されるべきだった備品を修理して使い回すよう言われている」と軍当局の内情を明かした。

インドネシアの情報筋は、ウィドド大統領が率いる新政権は海上防衛力の強化に焦点を当てているが、実際の軍備増強には時間がかかると語った。

ラジャラトナム国際研究院(シンガポール)の防衛問題専門家、リチャード・ビツィンガー氏によると、シンガポールが仏企業DCNSの協力を得てフォーミダブル級フリゲート艦6隻を建造したのに倣い、他国でもそれに追随する動きがあるという。

マレーシアは総額約90億リンギ(約3000億円)でコルベット艦6隻を発注。インドネシアとベトナムとタイも、ロシアや欧州の防衛企業と交渉を行っている。

<潜水艦能力>

潜水艦への関心も高い。

ベトナムはロシア製の潜水艦3隻をすでに保有しており、さらに3隻の追加調達も予定している。こうした動きを専門家は、海洋進出を強める中国に対する同国の決意を表すものだと指摘する。

シンガポールが保有する潜水艦はスウェーデン製の中古潜水艦4隻だが、独ティッセンクルップ・マリン・システムズ(TKMS)

また、戦車やヘリコプターも運べ、捜索救助活動にも使える水陸両用艦の人気も高い。

シンガポールの防衛・航空機整備大手STエンジニアリング

前出のハクスリー氏は「こうした多目的艦はさまざまな任務に適している。予算は小さいが要求の幅広い東南アジアの海軍にとっては理想的だ」と述べた。

フィリピンには、日本から巡視船10隻の供与が決まっている。ベトナムも日本から中古巡視船の供与を受けている。

海上偵察能力を引き上げる固定翼機やヘリコプター、無人機に対しても、関心は再び高まっている。今年に入ってマレーシアで開催された防衛展示会では、米ボーイング

ラジャラトナム国際研究院のビツィンガー氏は、今月に発表した研究論文にこう書いている。

「東南アジア各国の海軍が新たな戦闘能力を身に付けるに従い、地域で紛争が起きれば、これまでより激しく、スピーディーかつ致死的、つまり壊滅的な戦いになる可能性が高い」