日本はアジア14カ国で一番「学んでいない国」。教育環境を改善するために何ができる?

「学歴ではなく学習歴が重要視される社会に」ーーベネッセホールディングス・安達社長
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サステナブル・ブランドジャパン

ベネッセホールディングス(以下、ベネッセ)は教育と介護、2つの領域を柱として、消費者の広範なライフステージに関わる事業を展開する。同社は企業理念「よく生きる」を最重要視し、SDGsにも強くコミットしている。「人生100年時代、学び続けられる人生を。学歴ではなく学習歴が重要視される社会にしていきたい」――。サステナブル・ブランド国際会議2020横浜の基調講演で力強く語ったのは同社の安達保社長だ。理念を軸にして実効性のある事業を展開するベネッセの経営とは。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局=沖本啓一)

「Benesse」は、ラテン語の「bene=よい、正しい」と「esse=生きる、暮らす」を組み合わせた造語。ベネッセの企業理念「よく生きる」そのものだ。英語では、SDGsの前文にも掲げられる「Well-being」と同義だと同社は解釈していると安達社長は話す。

ベネッセといえば教育分野での事業の印象が強いが、近年では超高齢化社会を反映し、介護事業が全体の売上高の3割近くまで急伸。「教育」と「介護」が同社の事業の2本柱になっているという。SDGsの4番目『質の高い教育をみんなに』の実現を通し「SDGsにコミットできる人材を育てることは非常に重要な役割」とし、さらに「介護や高齢化社会の課題をSDGsの18番目のゴールとして捉え、課題先進国の日本での知見を世界に広げたい」と安達社長は話した。

人を軸にサステナビリティを推進する

サステナビリティを推進するにあたって、ベネッセではまず社員に「ベネッセは誰のために何をするべきか」という調査を行ったという。寄せられたのは約3000人の社員の声。AIを活用しキーワードを分析すると、「よく生きる」という企業理念を念頭に社会に貢献したいという意見が多かった。

「おそらく、サステナビリティの活動をするにあたって、ベネッセの最大の資産は社員、人である、と考えたわけです」

さらに社外の声もヒアリングした。長野冬季パラリンピック金メダリストで国際パラリンピック委員会(IPC)教育委員のマセソン美季さんからは「差別や偏見をつくっていくのも教育であり、それを変えていくのも教育である」と意見があったという。このような社内外の意見をベースにして、ベネッセは「人生のすべてに学びを」「超高齢社会にむけて」「知見の社会還元」「地域との価値共創」「健やかな社会の実現」という5つの柱から成るサステナビリティビジョンに即した重点活動を策定した。

同社はこのサステナビリティビジョンを実際の活動項目に落とし込んで事業を展開する。安達社長はその具体的な事例を紹介した。

実効性ある取り組み進める

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 「ショッキングなレポートがあります」と安達社長が前置きして示したのは、次のようなデータだ。

日本の大人は、アジア14カ国の中でもっとも「学んでいない」。学習や自己研鑽の活動を比較したチャートで、日本人は全てで劣っているという。業務時間外に学習をしているかどうかでは、「何もしていない」と答えた人の割合が他国と比較して圧倒的に多かった。

「世界が変わり、新しい仕事にもチャレンジしなければならないという時代に、学ぶことができないということは由々しき問題です」と安達社長は問題提起する。そこでベネッセは米国のベンチャー、Udemy社と提携し、学ぶ環境を提供することを事業として始めた。オンラインで「教えたい個人」と「学びたい個人」をむすぶプラットフォームの運営がそれだ。

「単に学校を出たというだけではなく、それから何を学んできたか。学歴ではなく学習歴が重要視される社会にしていきたいと考えています。学び続けることがかっこいい、と皆が思えるような社会になったらと思っています」と安達社長は意欲を見せる。「学び続けられる」ということはベネッセのサステナビリティビジョンに深く関連したテーマだ。

「地域との価値共創」の事例では「ベネッセアートサイト直島」での活動を紹介した。直島は香川県、瀬戸内海に浮かぶ小島。取り組みは現ベネッセ、福武書店の創業者・福武哲彦氏が1985年、当時の直島町長・三宅親連氏に出会ったことから始まった。

高度成長期、瀬戸内海の島々は海岸の埋め立てや若者の離島といった多くの課題に悩まされていた。自然や朽ちた家をつくりなおし、現代アートを展示することで島は活気を取り戻し、町が再生した。

「人や島の歴史、文化や暮らし、そして建築・美術と瀬戸内海の自然。それらを融合させ、ベネッセの企業理念『よく生きる』について考え、体感する場所。島に住む人が本当に幸福な生活を送れるよう、『よく生きる』を実現するような場所をつくっていこうという活動です」と安達社長が説明する通り、直島の再生、活性化に資する活動の根底には企業理念への強い思いがある。

重要なことは、その効果が表れ実際に島が活性化していることだ。2019年には直島が瀬戸内国際芸術祭の中心開催地となったこともあり、100万人以上の観光客が訪れたという。島に住む人と訪れた人の接点も多く、お年寄りが観光ボランティアに参加したり子どもが英語での道案内に挑戦するといった光景も見られた。

『よく生きる』を社会へ、『よく生きる』を未来へ

「教育」と「介護・超高齢化社会」は、日本が直面する重要な社会課題だ。ベネッセは今後、企業理念を社内に浸透し実践するだけでなく、それを広く外へ拡大・拡散し、社会に向かって実効性のある取り組みを続けることを目指す。安達社長は次のように明言した。

「いままでは『よく生きる』という言葉を使うとき、お客様、あるいは社員の『よく生きる』、という言い方をしてきていました。しかし、われわれの理念を社会に向けていこう、そして未来に向けていこう、といま話し合っています。『よく生きる』を社会へ、『よく生きる』を未来へ。これがベネッセのサステナビリティ活動のモットーです」

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