大津事故の記者会見、質問する記者の社名は公表すべきか

一方通行の発信ではなく、対話を生み出すことが私たちメディアの役割の一つだと考えています。
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時事通信社

大津市で5月8日、保育園児の列に車が突っ込んだ事故で、保育園側が開いた記者会見では、質問する記者の社名や氏名もさらされた上で批判を浴びている。

これまで、会見では、カメラの前で答える人の発言が注目され、メディア側はどちらかというと「黒子」のような存在だった。だが、最近の会見では、ネット上でメディアの質問のあり方にも注目が集まる。

大津の事故の記者会見について検証したハフポスト日本版の記事「大津・保育園事故の記者会見から堀潤さんと考えた、被害者の取材はどこまで必要か」では、会見で質問した報道機関の名称も掲載した。

 

今後のメディアはどのような姿勢で取材をするべきなのだろうか。

 

会見での記者の言動、見られる時代に

私は新聞社時代、社会的に注目される記者会見の一問一答記事では、質問した記者の社名も書くべきではないかと何度か提案したことがある。

政治家の記者会見などで、あまりにも報道機関によってスタンスが異なる質問があると感じていた。どの報道機関がどのような質問をしたのか。こうした情報も読者にオープンにした上で、記事を読んでもらうべきだと思った。

ところが、「社名を挙げることは取材を萎縮させる」という理由で、実際に配信された記事では社名は全て伏せられた。会見取材の経験が豊富な先輩からも「社名を出したら自由に質問できなくなる」と諭され、引き下がった。

ただ、今は会見映像がネットに出回る時代だ。メディアが隠しても隠さなくても、社名も個人名も質問内容も簡単に明らかにされる。

取材される側の言葉だけでなく、取材している記者の質問や発信にも注目が集まり、ニュースとしての価値が見出される時代になったのだと思う。

 

ハフポストの記者も過去に批判も

ハフポスト日本版も例外ではない。

2018年にテニスの全米オープンで優勝した大坂なおみ選手の記者会見で、ハフポスト日本版編集部の記者の質問が大きな批判に晒された。大坂選手のアイデンティティや日本人観を問う質問だったが、質問があいまいだったことや通訳の誤訳もあり、大坂選手に質問の意図が伝わらなかった。

ネット上の猛バッシングで、記者は周囲が心配するほど落ち込んでいたが、1週間後に質問の意図を説明する記事「大坂なおみ選手の記者会見で、私が本当に聞きたかったこと」を公開した。

もちろんバッシングが終わるわけではないが、理解してくれた方、「それでもタイミングが悪い質問だった」「別の機会にインタビューしてはどうか」と意見をくれた方もいた。

 

「メディアは権力だと自覚を」

NHK時代からTwitterなどで取材意図などを公開してきたジャーナリストの堀潤さんは、社名の公表について「非常に重要」だとしたうえで、「メディアは自分たちが権力側で、報道はある種のプロパガンダだと自覚するべきだ」と指摘する。

「どこの社がどんな意図でどういう質問をするか、メディアの内側から出すのは非常に重要です。なぜなら、我々はある意味では権力者側で、自分たちの発信はある種の『プロパガンダ』なんだという意識を持つ必要があるからです」

たしかに私たちメディアは影響力を持つという点、取材した情報を取捨選択して編集したものを報道するという点で、権力であり“プロパガンダ性“を孕んでいる。

「僕は、自分が過去に投票した政治家や支持政策など、自分のスタンスを公開するようにしています」と堀さんは語る。

 

対話を始めるために

記者会見は情報が錯綜する中で行われる。さらに大津のような地方支局で事件や事故の取材を担当するのは、入社数年の若手記者であることが多い。

質問を批判された記者側に悪気はなく、現在のバッシングに心を痛めていることは想像に難くない。心ない誹謗中傷もある中で、報道機関が自らの取材プロセスを明かすのに抵抗があることも理解できる。

だが、メディアに向けられる目や取材環境、受け手側の意識は、時代の移り変わりとともに大きく変化している。メディアによる一方通行の発信は成り立たなくなっているのも実情だ。

ハフポスト日本版は、対話を生み出すことが私たちメディアの役割の一つだと考えている。警察や検察の取り調べも可視化される時代。私たちメディアも変わる必要があるのではないだろうか。

記者会見で質問した報道機関の社名掲載がメディアのスタンダードになることは、対話を生み出すための一歩になると信じている。