「親には頼れない」児童養護施設の出身者。新型コロナで突きつけられる孤独感

児童養護施設で育った若者たちには、「家族」というセーフティーネットがない。支援団体は危機感を抱き、緊急支援に動き出した。
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児童養護施設の退所者は、何かあった時に頼れる家族がいないことも多い
Getty Images/Design Pics RF

「親には頼れない」

「まわりは実家に頼ったり援助を受けたりしていて差を感じる」

「大変な状況になっても、いざという時に帰れる場所がない」

「非常事態に孤独を感じてしまうのが一番しんどい」

新型コロナウイルス感染症の流行が続く中、児童養護施設出身の若者たちが金銭的にも精神的にも追い詰められている。

自粛が続き、経済が停滞する中でアルバイトの収入が減るなどして先が見通せない上、多くの人が持つ「実家」というセーフティネットがないことが浮き彫りになって孤独感が深まっているのだ。支援団体は事態を重く見て支援に乗り出した。

 

自分で稼ぐしかない

児童養護施設は、保護者と一緒に暮らすことができない子どもたちが暮らす施設。2018年の厚労省の調査によると、全国で2万7026人が入所している。

保護者と暮らせない理由は様々だが、入所する子どもたちの6割以上は身体的虐待やネグレクトなど虐待を受けた経験があり、約2割は家族との交流がない。彼らは基本的に高校を卒業すると施設を出て自立することになるが、頼れる実家や保護者はいない状態の人が多い。

「生活費は自分で稼ぐしかない。春休みにたくさんアルバイトをして乗り切ろうと思っていたが、うまく回らなくなった。どうすればいいのか…」

東京都板橋区に住む21歳の男子学生は、今後のやりくりに頭を悩ませている。

神奈川県出身で、父親とは幼い頃に死別。母親と暮らしていたもののネグレクトのような状態になり、小学3年生から児童養護施設で生活するようになった。高校卒業後に施設を退所して進学し、現在はアパートを借りてひとり暮らしをしている。母親とは、施設に入ってから1度しか会っていない。

 

感じる周囲との差

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「STAY HOME」を呼びかける都職員。繁華街も人影はまばらだ=4月10日、東京都新宿区
時事通信社

男子学生は奨学金を利用して学校に通い、生活費はアルバイト代でまかなってきた。本年度は実習が増えてアルバイトができる時間が減るため、3、4月の春休みにアルバイトを増やして備えようとしていた矢先、新型コロナウイルス感染拡大の影響が出始めた。

これまでは月10数万円の収入があったものの、アルバイト先の飲食店の客足が減ってシフトを減らされ、4月はほとんど勤務できなかった。5月以降もどうなるか見通せない。

「4月は貯蓄でどうにかなったけど、これから先どうなるのか。どう乗り切ればいいのか…。先のことを考えると不安になります」

母親とは、児童養護施設を退所した後も連絡を取っておらず、「親に頼ることは本望ではないし、最終手段」と話す。

生活に不安を感じたことが、周りの同級生との境遇の差を感じるきっかけにもなった。

「生活費をどうしようというのは僕にとっては大きな問題ですが、友だちとの間では話に出ない。実家から仕送りがあるようだし、そういうのを『いいなあ』とは感じます。やはりこういうとき、家族がいるがいないか、というのは大きな差になる面があるのかなと思います」

 

何かあった時のリスク、全て自分に

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取材に答える林恵子さん
HuffPost Japan

児童養護施設などの退所者を支援するNPO法人「ブリッジフォースマイル」では4月、収入の見込みや困っていることについて聞くアンケートを実施。パート・アルバイトで生計を立てている人の7割以上が、4月は減収になると答えた。さらに、精神的に落ち込んでいる人は過半数に及んだ。

代表の林恵子さんは「頼れる実家がない彼らは、何かあった時のリスクを全部自分で引き受けなければいけない。不安定な雇用形態で働く子も多く、経済的にも精神的にも打撃が大きい」と危機感を募らせる。

背景には、児童養護施設で育った人たちが抱える生きづらさがある。虐待された経験があり、その傷を抱えたまま生きている人も多い。そのため精神的に安定せず、不安定な雇用形態で働かざるを得ない人もいる。仕送りなどで退所者が親を支えているケースもあるという。

林さんは、そうした状況の中でも自立しようと努力していた退所者たちの気持ちが、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けることで折れてしまうのではないかと懸念する。

「子どもの頃に十分愛情を受け取れなかった、保護されなかった、ということに対する傷は彼らの中に残っています。その傷が、こうした緊急事態の中でも『やっぱり自分は見捨てられるんだ』『やっぱり社会は助けてくれない』というようなネガティブな気持ちにつながり、不信感が増幅してしまう可能性があります」

「支援が届かなければ、経済的に困窮するだけでなく、落ち込んで自傷行為に及んでしまう子も出るかもしれない」

実際アンケートには、「実家からの援助など、誰かに支えられているという実感が得られる人が羨ましい」「今コロナにかかったら私は1人だからどうなるんだろう」「非常事態に孤独を感じてしまうのが一番しんどい」など、気持ちの面での落ち込みを吐露する人も多かった。

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ブリッジフォースマイルでは、緊急支援のための寄付を募り始めた
HuffPost Japan

NPOではこうした状況を受け、緊急支援プロジェクトを始動。アンケートで物品や食品の支援、現金の給付や貸付を求める声が多かったことから、住居を失う可能性のある人への家賃補助や食料品の郵送を始める。「話し相手がほしい」「相談したい」という声もあったことから、オンラインでの相談会や交流会も行う。

現在一般から寄付を募っており、緊急度の高い家賃補助を優先して行うという。林さんは「支援を通じて、孤独じゃないと感じてもらえるようにしたい」としている。