同性婚ができるはずの台湾で、婚姻届が“不受理”に。日台カップルのもどかしさ。

アジアで初めて同性婚を合法化した台湾。だが国際カップルの場合、国籍による「線引き」で婚姻が認められないケースが生じている。
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結婚式で友人らが見守る中、家族と抱き合う有吉英三郎さん(右)とパートナーの盧盈任さん
有吉さん提供

台湾は2019年5月、アジアで初めて同性婚を合法化した。台湾の内政部の統計によると、結婚届けを受け付けた同性カップルは20年5月22日時点で4021組に上る。

だが台湾の制度では、一方が外国人の国際カップルの場合、同性婚を認めていない国の外国人は、台湾人パートナーと結婚できない。男性パートナーとの結婚を望む日本人男性は、「国籍に関わらず、結婚を選択できるようになってほしい」と訴える。

 

■国籍で排除「まさか」

台湾の憲法裁判所に当たる司法院大法官会議は17年5月、同性婚を認めない現行の民法を違憲とする判断を示し、当局に2年以内に同性婚の法制化を行うよう言い渡した

日本から台湾に移住した日本語教師の有吉英三郎さん(40)と、同性パートナーの盧盈任(ルー・インレン)さん(32)は、この頃から式場を調べ、結婚の準備を進めていた。「同性婚ができない国の外国人は、結婚を認められない」と知ったのは、同性婚の特別法案が可決された19年5月。すでに式を目前に控えていた。

「それまでは、自分たちも当然結婚できると信じていて、日本で認められていないことを理由に特別法の対象外となるとは考えてもいませんでした。婚姻届の申請のために、日本の家族に頼んで戸籍謄本まで持ってきてもらい、準備を万全にしていたのでとてもショックでした」(有吉さん)

式を終えた翌月、「結婚を希望する国際カップルの存在を可視化させたい」と、同性婚の申請書類を自治体に提出。「日本人との同性婚は受理できない」とする回答書を渡された。

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有吉さんが役所から渡された通知には、同性婚申請を「受理できない」との内容が記載されていた
有吉さん提供

■夫の家族と、家族になりたい

日本で暮らしていた30代半ばまで、「結婚したいと思ったことはなかった」と話す有吉さん。

「交際相手がいても、一対一の関係で十分と思っていました。そもそも日本に同性婚の制度がなく、職場もカミングアウトできる環境ではなかったので、結婚に対して希望を持ったことはありませんでした」

36歳で台湾に移住。同性婚の実現を訴えるパレードや集会に参加するようになり、気持ちに変化が生まれた。

「同性愛者の人たち自身が、婚姻制度を求めて公の場で声を上げることを誇りに思い、素晴らしいこととして活動していました。彼らと出会い、同性愛者の自分も結婚を望んで良いんだと感じられるようになりました」

なぜ今、パートナーとの婚姻を望むのか。有吉さんは「最大の理由は、大好きな夫の家族と法的にも家族になりたいから」と語る。

「夫の両親は私たち2人の関係を心から受け入れ、『自分たちの息子にとって大切なパートナーだから、大切にしよう』と思ってくれているのが伝わります。これほど良い関係を築けているのに、結婚していないから法律上は家族と言えない。お互いの家族のつながりを公的に認められることで得られる幸福があると思っています」

 

■在留資格の不安

国際カップル特有の不安も抱える。

有吉さんの在留資格は就労ビザで、2年ごとに更新が必要だ。勤務先の都合やけが、病気など、何らかの事情で仕事を続けられなくなった場合、ビザの更新が認められず台湾からの退去を迫られる可能性がある。

「配偶者ビザを持っていれば、この先も一緒に暮らせるという安心感がある。でも現状では、自分にもしものことがあったら夫と離れ離れになるしかなく、その不安は常にあります」

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オンラインで取材に応じる有吉英三郎さん
HuffPost Japan

 ■識者は「日本にとって損失」

毎日新聞によると、特別法は民法を準用し、遺産相続や社会保障、税制など、異性婚の夫婦に認められている権利の大半を同性カップルにも保障する。

異性間では国籍に関係なく認められる国際結婚が、なぜ同性間では制限されるのか?

根拠となるのは、台湾人と外国人の間の法的な問題について、どの国の法律を適用するかを定める台湾の「渉外民事法律適用法」。この46条に、「婚姻の成立要件や方式は、各当事者の本国法に依る」との規定がある。婚姻の成立要件とは、性別のほか、年齢や近親婚の範囲などが含まれる。

台湾の法制度に詳しい明治大の鈴木賢教授(台湾法、比較法)によると、台湾政府は特別法の成立の際、特に46条と特別法の関係について定めなかった。そのため、日本のように同性婚ができない国の外国人とは結果的に結婚できなくなったという。

「特別法の採択の際、国籍によって線引きされる問題は指摘されていました。ですが、『46条の適用を排除すると、同性婚ができない国から制度を求めて多くの同性愛者たちが台湾に押し寄せてくる』といった差別的な反対意見が議会内で起こったことや、憲法裁判所が2年以内とした期限が迫って時間的余裕がなかったこともあり、この問題は解決されないまま見切り発車で制度の運用が始まりました」(鈴木教授) 

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200人以上の参列者たちから祝福を受ける有吉さん(右)と盧さん
有吉さん提供

有吉さんのように制度の対象外となる当事者について、鈴木教授は「日本の制度の不備によって、台湾にいる日本人が結婚できないという不利益が生じている。本来2人が享受できる権利を受けられないという点で、これは台湾ではなく日本の問題といえる」と指摘。

さらに、「日本人と外国籍の同性カップルが、結婚できないことを理由に日本を出たり、戻ってこられなかったりすることは日本にとっても損失になる」として、日本での法制化の必要性を訴える。

 

■「平等権に反する」提訴も

NPO法人「EMA日本」によると、世界では28の国・地域で同性婚が認められている(2020年5月時点)。このうち、アジアで同性婚ができるのは未だ台湾のみだ。

国籍を理由とする不平等な法制度について、台湾では訴訟も始まった。

支援団体「台湾伴侶権益推進連盟(TAPCPR)」によると、台湾人とシンガポール人の女性カップルが、「国籍によって同性婚が認められないのは、平等権に反する」などとして19年10月、台北行政法院に提訴した。国を跨いだ国際同性カップルの婚姻を求めるキャンペーンも始まっている。