「血がつながってないからだ!」父は怒りに任せて特別養子縁組を告白した。ある養子の男性が目指すもの

子どもの福祉のための制度だが、当事者への支援は十分でない面がある。そのはざまで苦しむ人たちもいるのが現状だ。
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origin代表のみそぎさん
Nodoka Konishi / HuffPost Japan

「特別養子縁組は、本当に子どものための制度になっていますか?」

東京都に住む、特別養子縁組家庭で育ったみそぎさんは、そう問いかける。

特別養子縁組とは、生みの親が育てることができない子どもを育ての親(養親)に託し、子どもと育ての親は家庭裁判所の審判によって戸籍上も実の親子となる制度。目的は「子どもの福祉の増進」だ。

しかし当事者を支える取り組みや制度は不十分な面があり、そのはざまで苦しむ人もいる。

みそぎさんもそのひとりだ。育ての親との関係や、同じ立場の人とつながることが難しい孤独に悩んだ。現在は当事者団体を立ち上げ、子どもを含めた家庭全体に対する支援を行うみそぎさんは訴える。

「きちんと子ども側の話も聞いてほしい」

 

怒りに任せた突然の「真実告知」 

みそぎさんの親は、いわゆる教育ママ、パパだった。小学生の頃からとても厳しく、間違えると平手打ちが待っていた。

親はどちらも理系だが、みそぎさんは理系科目が苦手だった。大学受験を控えた高校2年生の冬、数学の問題に苦戦するみそぎさんに対し、父は怒りに任せてこう言った。

「(この問題が解けないのは)血がつながってないからだ!」

しまった、口をすべらせた、という顔をする父。「20歳までは言わないと言ったのに」と怒りながら泣く母。その光景はまるでドラマのようで、現実感がなかった。翌日学校で、友だちにもサラッと打ち明けるほどに。受験勉強で忙しく、考える暇はなかった。 

しかし大学に進学してひとり暮らしを始めると、ひどく落ち込むようになる。

自分を生んだのは誰なのか。どういう事情があったのか。なぜ育ててもらえなかったのか。生まれた時、自分に味方はいたのか…大学1年生後半は拒食や睡眠障害が悪化し、メンタルクリニックに通った。

 

生い立ちも自力で調べるしかなかった

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イメージ
Gudkov Aleksej via Getty Images/EyeEm

ほかの当事者はどう思っているのだろう。話を聞きたくても、どう探せばいいのか分からない。親が他の特別養子縁組家族と繋がっている様子はない。告知されたときのことを思うと、「縁組をした」ということ自体を両親は受け入れられていないようにも見え、訊ねることさえできなかった。

自分の生い立ちも、どこに頼ればいいか分からず、自力で戸籍を取り寄せたり児童相談所などに連絡して調べた。分かったのは、生後間もなく保護され乳児院で育ち、2歳で特別養子縁組されてからは養親の元で育ったということ。自分を産んだ母親については、生死を含め何も分からなかった。

日本では1988年に始まった特別養子縁組。2018年に養子縁組あっせん法が施行され、成立件数は徐々に増えている。ただ、記録の保管については定めがあっても、記録の開示や養子が出自を知る権利については具体的に定められておらず、みそぎさんのように調べる際に苦労する例は少なくない。

真実告知についても、現在はできるだけ幼いころから伝えるよう推奨されているが、以前は大人になってから知る人も多かった。

 

「自分だけじゃない」と知ることの大切さ

「本当にいたんだ」

その後初めて特別養子縁組の研究者を介して養子当事者に会った時、みそぎさんは率直にそう思った。

なぜ自分は生みの親に育ててもらえなかったのかという気持ち。自分も家族を持ちたいと思う一方で、拭えない「家族」そのものへの不安。こうした当事者が抱えることの多い悩みについて共有できることが、心を軽くした。

みそぎさんは言う。

「『いる』『自分だけじゃない』と認知することが大切なんです。一人で悩むか話せる相手がいるかで全然気持ちが違う」

これが、養子の当事者団体をつくるきっかけのひとつだった。2020年4月にこれまで繋がってきた養子たちと支援団体「origin」を立ち上げ。養子や養親を対象としたサロンや、制度を知ってもらうためのワークショップ、生い立ちをたどるためのサポートを行っている。

 

うまく行かない時、「血縁がない」ということが頭をちらつく

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子どものための制度になっているのか(イメージ)
Eriko Koga via Getty Images

「特別養子縁組は子どものための制度のはず。だから縁組をした親たちの話だけじゃなくて、きちんと子どもの話を聞いてほしい」

そう話すみそぎさんには、忘れられない出来事があった。大学2年生の夏にボランティアとして参加した里子と里親向けキャンプでのことだ。

里親制度は、保護者がいなかったり、何らかの事情で養育できなくなったりした子どもたちを里親が家庭にあずかり育てる制度のこと。特別養子縁組とは別のものだ。ただ、みそぎさんは「もしかしたら、里子たちには自分と似た部分があるんじゃないか」と感じて参加した。

 一緒に過ごす中でちょっとした喧嘩が起こったとき、ある里子が「みんな僕のこと嫌いなんだ」と、そっとみそぎさんにこぼした。「血がつながっていないから嫌なことをされている」と感じてしまっているのだと伝わり、ハッとしたという。 

「こんなに小さくてもこんなに悩んでいる。その声をきちんと聞いて、メッセージを受け取らなければいけないんだと思いました」 

「特別養子縁組も里親里子もそうですが、何かうまく行かなかった時、一番大きくて目立つ『血縁がない』ということが原因として頭の中にチラついてしまうこともあるのではないでしょうか。本当はそうではないことがほとんどだとしても」

みそぎさんの父が特別養子縁組を明かしたときのように。里子が喧嘩をしたときのように。

「そしてそれが関係を悪化させてしまうこともあります」

だからこそ、originが目指すのは、養親と養子、どちらとも繋がることだ。 

「子どもたちに幸せに生きていってほしい。そのためには、養子という立場の相談相手はいた方がいいし、良い親子関係を作れた方がいい。そのために、養親さんたちに対してもできることがあると思っています」

みそぎさんのような子ども側の当事者が抱いてきた気持ちや、特別養子縁組という関係上起こりやすい問題を伝えること。子どもたちが小さいうちから養親がoriginに繋がり、「同じ立場の人と出会える場所があるよ」と伝える機会をつくること。そして養親たち自身にとっても、相談できる場所であること。

そうした活動が、「本当に子どものための特別養子縁組」につながると感じている。

 

「マイノリティになるための活動」

団体結成から1年を前に、2020年12月には活動資金のクラウドファンディングを実施。目標金額60万円に対して100万円以上が集まった。

「自分たちは必要な活動だと思ってずっとやってきましたが、周りからも期待の声が寄せられたことで自信になりました」

まだ、特別養子縁組の子ども側当事者の声が表に出ることは多くない。

この活動は『マイノリティになるための活動』でもある思っています」とみそぎさん。当事者の支援に加え「当事者の声が制度に反映されるような道もつくっていきたいです」と話している。

 

養子たちの声や経験、制度に反映を

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白井千晶さん
Nodoka Konishi / HuffPost Japan

静岡大学教授(家族社会学)で全国養子縁組団体協議会の代表理事を務める白井千晶さんは、みそぎさんの活動について「当事者がつながる場というだけでなく、社会を変えたい、特別養子縁組のあり方をよりよくしたいと考えて活動している子ども側の当事者団体というのは日本では珍しい」と話す。 

韓国やアメリカなどでは養子の団体が活動し法律にも声が反映されるなど、その役割は大きいという。韓国で養子の出自に関するデータを国が一元管理するシステムが運用されるようになったのも、当事者の声を反映したものだった。

また、特別養子縁組が成立した後は、支援の対象からはずれがちだ。縁組をあっせんする団体が当事者家族のグループをつくる場合もあるが、個人情報との兼ね合いなどで運営が難しい面もあるという。子ども側の当事者によるグループとなると、さらに少ない。「今後、どう個人情報などの安心・安全と参加しやすい支援を両立させていくかが課題だ」としている。

あっせん法が作られた際には、「養子本人たちの声を聴くことが十分にできていなかった」と白井さんは指摘。

出自を知る権利などについては今後見直しも必要になると考えられ、「養親のためだけの制度設計にならないためにも、養子たちの声や経験を反映していくことが重要になるでしょう」と話している。

(小西和香@freddie_tokyo/ハフポスト日本版)