児童ポルノや恐喝 メールやLINE監視の対象として検討 通信傍受法改正の議論で【争点:安全保障】

児童ポルノや恐喝などの行為を含む電子メールやLINEなどのネットのやりとりが、通信傍受の対象になるかもしれない。国が行っても良いとされる通信傍受の拡大が、法務省で議論されているのだ。
|
Open Image Modal
Getty

児童ポルノや恐喝などの犯罪対策のため、電子メールやLINEなどのネットのやりとりが通信傍受の対象になるかもしれない。国が行っても良いとされる傍受対象の拡大が、法務省で議論されているのだ。

日本では憲法21条が「通信の秘密」を保障しているため、国は国民が行っている通信の内容を見ることはできない。しかし、1999年に成立した「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律(通信傍受法)」によって、一部の通信傍受が認められている。対称となるのは薬物犯罪、銃器犯罪、組織的殺人、集団密航の4つのみだ。

この傍受の対象となる犯罪の拡大について、法務省の法制審議会が議論を行っている。新たに対象として議論されているのは、テロ関連犯罪のほか、不正アクセス行為、コンピュータ・ウイルスに関する犯罪、児童ポルノ関連犯罪、窃盗、恐喝など広範囲に及ぶ。また、これまでは、傍受の際にそのつど記録を裁判所に提出することや、通信事業者等による立会いが必要だったが、これらをなくすかどうかも検討されている。

■通信傍受範囲の拡大は、アメリカなどとの国際連携が背景にあった

通信傍受範囲の拡大が議論される背景には、アメリカとのサイバー防衛連携の強化がある。

9.11のテロを受け、アメリカではテロ対策のために通信傍受を強化してきた。日本に対しても2011年ごろ、アメリカの情報機関である国家安全保障局(NSA)が電子メールや電話などの個人情報の傍受に協力するよう打診していたことがわかっている。

中国の国際光回線をはじめ、アジア太平洋をつなぐ多くの光ケーブルは日本を経由することから、中国情報の収集が狙いだったとみられる。日本側は法的制約や情報要員の不足を理由に要請に応じなかったという。

(47NEWS「米が日本に傍受協力打診 中国情報が狙いか」より。 2013/10/27 02:00)

アメリカではスパイ対策として制定された「外国情報監視法」や「愛国法」に基づき、司法機関などの監視の下で通信の傍受が行われているが、その対象は、国外の企業や団体だけでなく、アメリカ市民にも及んでいたことがエドワード・スノーデン氏によって明らかになっている。

アメリカで起こったこと同様の通信傍受が、日本でも行われるかもしれない。

■国際的なサイバー犯罪拡大防止への協力とプライバシー保護のはざま

日本政府は今月2日、サイバー攻撃を防ぐための技術協力や、人材育成支援の拡大を記した「サイバーセキュリティ国際連携取組方針」を策定した。

サイバー分野で具体的な支援策を公約する戦略文書は世界でも例がなく、攻撃に利用されたコンピューター端末の駆除に共同で乗り出す予定の東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国に加え、中国の影響力が大きいアフリカや南米への支援も明記した。

国名の明示は避けたが、執(しつ)拗(よう)にサイバー攻撃を仕掛ける中国や北朝鮮に対する包囲網の構築が念頭にあり、安倍晋三首相が掲げる「積極的平和主義」を具現化する第1弾となる。

(「サイバー協力 アフリカ・南米とも 政府が国際戦略文書策定」より。 2013/10/2 22:40)

また、10月17日から韓国で開かれていた「サイバー空間に関するソウル会議」において、三ツ矢憲生外務副大臣は、安倍首相が掲げている「積極的平和主義」の方針に沿って、日本がサイバーセキュリティ強化のための国際連携に積極的に取り組んでいくことについて言及している。

このように、国際社会への貢献を理由に、通信傍受法の改正議論も進むと見られる。

一方、通信傍受法にはプライバシーの侵害につながるとする声もある。福島瑞穂・保坂展人両氏は、かつて通信傍受法について次のように指摘していた。

例えば、薬物犯罪の容疑がかけられたAさんが、30日間盗聴されたとします。Aさんの恋人や友人との会話が聞かれることは言うまでありませんが、Aさんの家族にかかってきた電話もまずは盗聴されます。そこには「金銭・財産の話」「企業秘密」「健康上の悩み」など他人に聞かれたくないプライベートな話が多々含まれています。そういう話は、警察官が自主的にスイッチを切るから心配ないというのが法務省の説明です。けれども、これを誰もチェックできません。そして、Aさん宅の盗聴は「成果なし」に終わったとします。しかし、Aさんには無断で「Aさん宅盗聴録音テープ」は5年間、裁判所に保管されます。

(「盗聴法の影響は、一般市民に及ぶのでしょうか?また報道機関への影響はありますか?」より。)

通信傍受法改正の議論の際には、不適正な通信傍受を防止する方法が、どこまで盛り込まれるかという点も注目だ。

通信傍受法の改正について、あなたはどう考えますか。ご意見をお寄せください。

関連記事

写真で見る安倍政権の動き 2013年10月
2013年10月28日衆院国家安全保障特別委員会で日本版NSCの審議開始(01 of18)
Open Image Modal
政府は10月28日から、外交・安全保障政策の司令塔となる「国家安全保障会議(日本版NSC)」を設立するための法案を、衆議院に新たに設置された「国家安全保障に関する特別委員会」で審議開始する。\n続きを読む\n\n衆院国家安全保障特別委員会で答弁する菅義偉官房長官(中央右)=28日午前、東京・国会内 (credit:時事通信社)
2013年10月25日 特定秘密保護法案を国会提出(02 of18)
Open Image Modal
安倍内閣は25日、国の機密情報を漏らした公務員らへの罰則を強化する特定秘密保護法案を閣議決定し、国会に提出した。\n\n首相官邸前で横断幕を掲げ、特定秘密保護法案に反対する市民グループ=22日夜、東京・永田町 (credit:時事通信社)
2013年10月21日 核兵器不使用共同声明、ついに日本が参加 最多125カ国が署名(03 of18)
Open Image Modal
核兵器の非人道的なものだとして、いかなる状況でも使用すべきでないとする協同声明を、提案国のニュージーランドなど日本を含む125カ国の代表が、ニューヨークの国連総会で発表した。日本の参加は初めてとなる。\n続きを読む\n\n\nHIROSHIMA, JAPAN - AUGUST 06: The Atomic Bomb Dome is seen in the Hiroshima Peace Memorial Park on the day of the 68th anniversary of the atomic bombing of Hiroshima on August 6, 2013 in Hiroshima, Japan. Japan marks the 68th anniversary of the first atomic bomb that was dropped on Hiroshima by the United States on August 6, 1945, killing an estimated 70,000 people instantly with many thousands more dying over the following years from the effects of radiation. Three days later another atomic bomb was dropped on Nagasaki, ending World War II. (Photo by Buddhika Weerasinghe/Getty Images) (credit:Getty Images)
2013年10月18日 政府が解雇特区を見送った背景とは?(04 of18)
Open Image Modal
甘利明経済再生相は18日の閣議後会見で、雇用特区について「一部のマスコミが『解雇特区』や『ブラック特区』と書いたが、もとより(それらを)つくる予定はない」とし、「柔軟な雇用制度がなければ生まれない仕事・投資を生み出していく」との意向を示した。\n\n続きはこちら\n\n10月18日、甘利経済再生相は、同日の日本経済再生本部(本部長・安倍晋三首相)で決めた国家戦略特区の規制緩和案を公表した。都内で2月撮影(2013年 ロイター/Issei Kato) | Reuters (credit:ロイター/Issei Kato)
2013年10月18日 「賃上げの春」来るか 一部だけしか恩恵ないとの見方も(05 of18)
Open Image Modal
大手企業が来春の賃上げに積極的に応じる姿勢を示した。しかし、賃金アップは一部に留まるのではないかという見方がある。どのような状況なのか。\n\n続きはこちら (credit:時事通信社)
2013年10月17日 東京国際映画祭/安倍首相と栗山さん (06 of18)
Open Image Modal
第26回東京国際映画祭が開幕し、オープニングイベントに栗山千明さん(左)とともに登場した安倍晋三首相=17日午後、東京都港区の六本木ヒルズ (credit:時事通信社)
2013年10月17日 非正規雇用から正社員になる上限、5年から10年に延長へ(07 of18)
Open Image Modal
アルバイトや契約社員などの非正規雇用で10年間は労働者を雇うことができるようにする法改正を、政府が進めていることが分かった。今年4月に改正労働契約法が施行されて、非正規社員が5年を超えて継続した場合、本人が希望すれば正社員になることが可能になったばかり。正社員になるまでの期間が2倍に伸びることになり、波紋を呼んでいる。\n\n続きはこちら (credit:時事通信社)
2013年10月16日 トーチを受け取り笑顔の安倍首相(08 of18)
Open Image Modal
英国のヘイグ外相(左)からロンドン五輪の聖火リレーで使用されたトーチを受け取り、笑顔の安倍晋三首相=16日午後、東京・首相官邸 (credit:時事通信社)
2013年10月15日安倍首相「成長戦略の実行が問われる国会です」力強く所信表明(09 of18)
Open Image Modal
10月15日に召集された第185臨時国会の冒頭、安倍晋三首相は衆参両院の本会議で所信表明演説を行った。安倍首相は「失敗を恐れて何もしないのは最低」とホンダ創業者の故・本田宗一郎氏の言葉を引いて、起業の重要性を説いた上で、「実行なくして成長なし。この国会は成長戦略の実行が問われる国会です」と話して、企業の競争力強化によって経済の好循環を実現する考えを表明した。\n\n続きはこちら (credit:niconico)
2013年10月15日 豪外相と握手する安倍首相(10 of18)
Open Image Modal
オーストラリアのビショップ外相(左)と握手する安倍晋三首相=15日午後、首相官邸 (credit:時事通信社)
2013年10月13日 麻生大臣、G20に出席(11 of18)
Open Image Modal
「米国は緊急の行動をとる必要がある」――。主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は11日、米国を名指しして「政府債務(借金)の上限引き上げ問題」の早期解決を求める異例の声明を採択し、閉幕した。米国が万一、債務不履行(デフォルト)に陥れば、世界経済は大混乱になりかねないからだ。\n\n続きはこちら\n\n (credit:Bloomberg via Getty Images )
2013/10/12 秘密保護法案「知る権利」明記へ (12 of18)
Open Image Modal
臨時国会で提出される、特定秘密保護法案について、「知る権利」への配慮を明記する方針を固めた。\n\n首相官邸に入る安倍晋三首相=2013年10月11日午前、東京・永田町\n\n (credit:時事通信社)
2013/10/09 中国・南シナ海での動きを日米ASEAN各国(13 of18)
Open Image Modal
安倍首相は10月9日、日本とASEAN加盟10カ国による日・ASEAN首脳会議に出席。経済、環境問題などの幅広い分野において、各国と連携を図ることを表明。\n続きはこちら\n\nepa03902760 Japanese Prime Minister Shinzo Abe attends the 16th ASEAN - Japan summit in Bandar Seri Begawan, Brunei Darussalam, 09 October 2013. Brunei is hosting the summit of 10-member ASEAN nations, a meeting between ASEAN member countries and its three dialogue partners of China, Japan and South Korea also a meeting of the East Asia Summit (EAS) forum aimed to strengthen political, cultural and discuss the solution of global economic. EPA/LUONG THAI LINH (credit:EPA時事)
2013/10/09 東北地方に医学部新設について安倍首相が検討指示(14 of18)
Open Image Modal
被災地の医療を支える人材を育成するために、東北地方に医学部を新設される可能性が出てきた。安倍晋三首相が10月4日、下村博文文部科学相に、新設を検討するように指示した\n続きはこちら\n\n東日本大震災2年半・仮設住宅で行われる診療/仮設住宅の集会所で住民を診察する医師(奧)ら=2013年9月1日、宮城県気仙沼市 (credit:時事通信社)
2013/10/08 麻生財相 消費税の10% 来年12月までに判断(15 of18)
Open Image Modal
10月8日、麻生太郎副総理兼財務大臣が会見で、消費税の10%への引き上げについて来年12月までに判断するのが望ましいと語った。\n続きはこちら\n\n財政制度等審議会の財政制度分科会に臨む、麻生太郎副総理兼財務・金融相(中央)=10月7日午後、財務省 (credit:時事通信社)
2013/10/08 陸上自衛隊と米海兵隊による日米共同訓練開始(16 of18)
Open Image Modal
10月8日、陸上自衛隊と米海兵隊による日米共同訓練が、滋賀県高島市の陸自饗庭野(あいばの)演習場で始まった。この訓練で、アメリカの新型輸送機「オスプレイ」が日本国内で初めて使われる。\n続きはこちら\n\n追加配備のため、米軍岩国基地から米軍普天間飛行場に飛来した米海兵隊の新型輸送機MV22オスプレイ=2013年08月12日午後、沖縄県宜野湾市上空 (credit:時事通信社)
2013/10/03 日米2プラス2会合(17 of18)
Open Image Modal
10月3日、東京都内で日米の外務・防衛閣僚が会合を開き、日米同盟における防衛の方針を見直すことで合意した。\n続きはこちら\n\n会談前に手を合わせる(左から)米国のヘーゲル国防長官、ケリー国務長官、安倍晋三首相、岸田文雄外相、小野寺五典防衛相=3日午後、東京・首相官邸 (credit:時事通信社)
2013/10/01 安倍首相「消費税率アップ」表明(18 of18)
Open Image Modal
安倍晋三首相は、10月1日発表の日銀短観で景気動向を最終確認した後、同日夕方の記者会見で、消費税を来年4月から8%に引き上げることを表明する。\n続きはこちら\n\n消費税率引き上げなどについての記者会見に臨む安倍晋三首相=2013年10月01日午後、東京・首相官邸 (credit:時事通信社)