吉村理事長は新専門医制度施行を延期すべき

吉村氏に願う。今一度、制度を白紙に戻し、多様性のある自由度の高い新専門医制度の設計を、現場や若手医師を入れて議論をするべきだ。
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日本専門医機構が新専門医制度の平成30年度(平成29年4月)施行を強行しようとしている。3月15日に厚労省説明会があり、17日の理事会では「パブコメを集めたのち23日の社員総会で最終決定」することが決まったという。

しかしパブコメ募集開始はなんと21日の夜であった。ほぼ一日で細則を読み込み、コメントを書き込めとは、随分と人を喰った話と言わざるを得ない。パブコメなど端から無視するスタンスだったのか、と邪推されても仕方のない対応だ。

吉村理事長は、理事会後の記者会見で、新専門医制度に対する理解が十分でない現状があるとし、専門医制度をめぐる歴史的経緯、制度の意義、新制度の概要などについて、パワーポイントを使用して説明(m3 comの記事(1))したそうだ。

この吉村氏の「新専門医制度に対する理解が十分でない」という発言も真意が伝わってこない。

対象者は一般市民なのか?だとしたら、あらゆるメディアに対し、誠心誠意この制度の仕組みを丁寧に説明してくるべきだったろう。

たまに記者会見を開き、web 上に都合のいい文言を載せるだけの「情報公開」など論外である。

ただ、文脈からの推測だが、「理解が不十分な」者とは、現場の医師を指しているように思える。そしてむしろ「理解が深いがために、制度に反対をしている医師」を念頭においている可能性が高い。

しかしながら「理解不足」の医師がいるのであれば、「理解」して貰うための説明責任がある筈だ。

幸い、説明に用いた吉村氏の資料は厚労省のホームページで閲覧できる。作成には相当な努力の跡が見られ、また吉村氏は懇切丁寧に説明した事であろう。ところが資料を読み込むと、あちこちに綻びや、未解決の重大な問題が垣間見えてくる。

一例として「専門医の研修と地域医療について」と題されたスライド39をあげたい。

まず19の基本領域に加え、内科、外科のサブスペ領域も合わせた数は34領域、一方、後期研修に進む医師は年間8500人とある。

その後の論考がなんともお粗末だ。後期研修医を各領域均等割り(!)すると1領域あたり250人になる。それを都道府県に均等に割振ると、各自治体あたり一領域5.2人になるという。当たり前である。小学生の算数だ。これで地域医療問題について何を言いたいのか?

その次に、各領域250人の後期研修医を、都道府県の人口比で配分すれば東京都25人、人口百万人の県2人、になると大真面目に(多分)書いている。

このような数字をあげる感覚の鈍さには驚かざるを得ない。

つまり、「人口57万人の鳥取県は各領域1.3人ずつの後期研修医しかとれない」という話を平然としている、ということなのだ。

この説明スライドを素直に読むと、鳥取県には例えば産婦人科、整形外科、小児科、精神科といった重要な診療科の3-5年目研修医が学年ごとにたった「1.3人」しかいない時代が来てしまう。

はたして鳥取大の教授達は3-5年目の医師が医局に3-4人しかいないという事態を受け止められるのか?逆に、大学教授達もある意味、騙されてきたともいえる。

それはそれとして、現場やその地方の状況を知らない人間が、机の上の数勘定で専攻医数を決めるとこのような噴飯物の「専門医の研修と地域医療について」とのスライドが出来上がる。

さらに、図らずも「医師の計画配置、強制配置」を企んでいる腹の中までみせてしまった、ということだ。

吉村氏の資料を読み込み、この制度や地方医療問題に対する機構の議論が如何に杜撰であるかが、一層深く「理解」できた。確かに自分は「理解不足」だったのだろう。

それにしてもこの制度は問題がありすぎる。施行されたら最後、日本医療は大混乱に陥るだろう。吉村氏に願う。今一度、制度を白紙に戻し、多様性のある自由度の高い新専門医制度の設計を、現場や若手医師を入れて議論をするべきだ。

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この拙文を読んで下さったみなさま方、ありがとうございました。

実は、新専門医29年度施行反対署名サイトがございます(3)。要望書の内容や、呼びかけ人に首をかしげてしまう方もいらっしゃるかもしれません。ただ、制度が始まると取り返しがつかないことになると思います。

小事にこだわり大事を損なうことがないよう、ぜひ、署名をお願いいたします!

多数のみなさまのご協力が必要なのです!よろしくお願いします。

(3)新専門医29年度施行反対署名サイト

(2017年3月23日「MRIC by 医療ガバナンス」より転載)