「変化に対応するには人材の多様性が重要」って、どういうことなんだろう。

現代において、企業が変化に対応し生き残っていくには人材の多様性が重要...というけれど、「それって本当?」と思っている人も少なくないと思います。
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最近よく耳にする「人材の多様化推進」「ダイバーシティ」という言葉。社会の変化が激しい現代において、企業が変化に対応し生き残っていくには人材の多様性が重要...というけれど、「それって本当?」と思っている人も少なくないと思います。私もその一人でした。

ところが先日「ああ、『変化に対応するには人材の多様性が重要』ってこういうことなんだな」という実感を得る体験をしました。初めて「ダイアローグ・イン・ザ・ダーク」に参加したのです。ご存知の方も多いかと思いますが、「ダイアローグ・イン・ザ・ダーク」は、暗闇のエキスパートであるアテンド(視覚障害者)のサポートのもと、真っ暗闇の中をグループで探検し、対話をするアトラクションです。視覚以外の感覚や、コミュニケーションの大切さに気付く体験ができるとして、企業研修などにも多く利用されています。

暗闇の中では、視覚障害者と健常者の立場が完全に逆転します。普段「見えている人」は初めて体験する暗闇の中で、どこに何があるかも、誰がいるかもわからず、不安で足がすくんでしまうのです。そんな中、暗闇の中をまるで「見えている」かのように動き回り、何不自由なくふるまうアテンドは頼みの綱でした。グループのみんながアテンドを頼り、あれこれと質問し、アテンドの能力に驚き、賞賛します。そのとき間違いなく、アテンドは私たちの頼れるリーダーでした。リーダーの声に耳を傾けながら、メンバーどうし声をかけ合い、ときには手をとったり肩に触れたりしながら暗闇を進みました。

プログラムが終わって再び光のある空間に戻ったときは心底ホッとし、不自由から解放されて本来の力を手にしたような気がしました。そこで私と、同じグループの7人のメンバーに、「暗闇での体験を絵に描く」という課題が与えられました。テーブルの上には、紙と、カラーペンやクレヨン、色鉛筆など様々な画材。参加者の一人がアテンドに質問しました。「暗闇での体験だけど、色を使って描いてもいいんですか?」。アテンドは答えます「いいですよ。感じたまま自由に描いてください」。

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「あれ、緑が使いたいんだけど、緑はどこかなあ・・」参加者の一人がつぶやきました。

「そこのカゴの中に緑色の色鉛筆があると思いますよ」アテンドが答えます。そして、ボソッと付け加えます。「私たちには、色はいつも想像の世界でしかないんですけどね」

そこで私はハッとしました。私たちの頼れるリーダーは、「色」のない世界で生きている。私たちが当たり前のものだと思っている「色」を知らない。私たちが描いた絵を見ることもできない。でもその一方で、私たちが持ち合わせていない、豊かな感覚を持っている。暗闇を自由に歩き回る能力を持っている。

昼間の町中を早足で歩く人たちの中で、白杖をついて歩く視覚障害者は「助けが必要な人」「ハンデがある人」と見られています。でももし大停電が起こって、夜が本当の真っ暗闇になったとしたら。その中でどうしてもどこかに移動をしなければならないとしたら。私は迷いなく視覚障害者の方に頼るだろう、とその時考えました。立ちすくむ大多数の健常者の中、普段と変わらずに動き回れる能力を持っているから。暗闇の中では、みんなに頼られ、羨ましがられる能力を持っているから。

そして、「変化に対応するためには多様性が大切、というのはつまりそういうことなのだ」と気付いたのです。世の中が真っ暗闇になる、というのは極端すぎる例えかもしれませんが、世の中が変わったら、必要とされる能力も変わるのは事実です。

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「目が見える」ということは、光の中では重要な能力ですが、暗闇では必要とされません。それと同じように、もし仮に今あなたが職場で「能力がある」と評価されていても、それは「たまたま今必要とされている能力がある」というだけであって、世の中が変わったり、職を変えたりすれば、必要とされない能力かもしれないのです。逆に、今活躍できていない人でも、世の中が変わったり、転職したりすれば必要とされる能力を持っているかもしれません。

変化に対応し、直面する困難を打破するためには、できるだけ多様な能力、多様な価値観を持った人が集まっていた方がいい。未来が予測不可能な上、社会がめまぐるしい変化の中にあるからこそ、人材の多様性は必要なのです。「必要とされる能力は、環境によって変わる」「自分の能力は絶対的なものではない」と知ることは、異なる価値観や背景を持つ仲間を受け入れ、リスペクトし合う第1歩になるかもしれません。

Text by 瀬尾真理子

Sofia コラムより転載