「若い女性は知識がない」「若い女性が悪用するかも」。アフターピルのオンライン診療検討会で出た意見【検討会の経緯まとめ】

4月の検討会で突如「性被害者だけに対象を絞ってはどうか」という議論が噴き出し、大筋で合意した。検討会では、“男女”の性教育ではなく、“女性だけの問題”として矮小化されるような意見も散見された。
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オンライン診療に関する厚労省の検討会
Huffpost japan/Shino Tanaka

性暴力を受けたり、避妊に失敗した際に、性交後に飲んで妊娠の確率を著しく下げる緊急避妊薬(アフターピル)。6月10日に開かれる厚労省のオンライン診療検討会で、内容が決まる見通しだ。

前回5月31日に、緊急避妊薬をオンライン診療で処方できるようにする案が、大筋で合意した。

この案では、緊急避妊薬を処方する要件を「性犯罪に遭った女性に限定する」方針で固まった。

オンライン診療の検討会では、参加した有識者らによって現状とは大きく離れた議論も展開されていた。

構成員らからは「若い女性は知識がない」「若い女性が悪用するかもしれない」など、避妊や性教育は男女ともに重要な課題にもかかわらず、女性だけの問題のように矮小化された文言もしばしば飛び出していた。

なぜ、医療現場が女性を選別し、薬を処方される人間を仕分けるような流れになったのか。

過去5回の検討会の内容から経緯を説明する。

第1回「オンライン診療の課題として取り上
げるのは、時期が早過ぎる」

第1回の検討会では、2016年からオンライン診療を取り入れている外房こどもクリニックの小児科医・黒木春郎氏から、緊急避妊薬については「時期尚早」という意見が出た。

黒木氏は、緊急避妊薬を処方薬ではなく市販薬として買うことができるようにするスイッチOTC(over-the-counter)化の議論に決着がついていないとして、次のように話した。

アフターピルに関しては、確かに望まない妊娠を防ぐという大きなメリットもありますが、それ以外にもまだまだ議論するべき多くの課題が残されている途上だと考えます。

ですから、今すぐにこれをオンライン診療の課題として取り上げるのは、私は時期が早過ぎると考えています。

少なくとも通常の医療の中あるいはOTCとして認められるのかどうか、そこの議論がまだ決着もついていませんので、まずそこから始めるべき問題だろうと考えます。(黒木氏・第1回検討会)

スイッチOTC化については、厚労省の別の検討会で2017年に議論され、否決された。その後、検討会などは開かれていない。

オンライン診療については、第1回検討会では緊急避妊薬について特にこれ以外の言及はなかった。

「若い女性が簡単に緊急避妊薬を手に入れられると思うと、悪用につながる」と意見

 第2回の検討会からは、緊急避妊薬についての議論も活発になった。

ささえあい医療人権センターCOML理事長の山口育子氏が、レイプ被害やデートレイプなどで望まない性行為を強要される場合などを懸念し、オンライン診療で緊急避妊薬の処方が必要であると強調した。

特に、望まない妊娠だけではなくて、例えば、デートレイプと言われるような(性行為を)拒否ができなかった、あるいは一番問題は性的被害に遭ったというような、特に十代の若い女性も被害を受けていることが結構多いです。
そういう中で、きょう、このメンバーの中でオブザーバーの方以外で女性は私しかいないので、敢えて発言させていただきます。

実は性的被害ということを受けたときに、非常に心の傷になってしまって、受診の必要は、私はあると思うのですけれども、受診そのもの自体のハードルが物すごく高いと思っています。
それを、例えば、オンライン診療でまずお話ができて、それでアフターピルということで80何%防げるということからすると、安心感を得たうえで、そして、受診をする必要性をそこで感じて理解した上で受診する。

通常と逆の順番のほうが安心できることが多いのではないかと、このことに関しては、そう思っています。(山口氏・第2回検討会)

国立情報学研究所アーキテクチャ科学研究系教授の高倉弘喜氏は、さらにオンライン診療になるのであれば、性被害に遭った女性が確実に手に入れられるようにするようなシステムが必要だと踏み込んだ。

例えば、十代の若い方が不幸にして被害に遭われたときに、かかりつけ医は、多分ないと思うのです。
そうすると、少なくとも、例えば、医療相談もやっていますけれども、何らかの制度をつくって、そこに電話をかけると紹介してもらえるような体制をとらないと、被害に遭ってから病院を探せというのは、多分むちゃな話だと思うのです。

特に、恐らく被害の大部分は夜間だと思いますので、夜間に地下鉄に乗って広告を探すかという話にもならないと思うのです。

アフターピルの話をするのであれば、どうすれば、被害を受けた方が確実に
オンライン診療を受けられるかというところまで踏み込まないと、何となくお薬を出せばいいではないかという話になっている気がしてならない、ちょっと心配になります。(高倉氏・第2回検討会)

一方、千葉大学名誉教授で内科医の高林克日己氏はレイプ被害について「救いがないのは困るというのもよく分かる」として「若い女性の悪用」について言及し、緊急避妊薬のオンライン診療での処方に否定的な考えを示した。

逆に言うと、これが悪用されて、安易にいくらでも出せるよという形になったら、本当に簡単に若い女性が、ここでもらえるという感じでやられたら、これは非常に悪用になってしまうし、あるいは転売などという話も出てくるかもしれないし、ここはよほど限定的に、極めて厳格に運用ができる形が少なくともないと、まずいかなと思う。(高林氏・第2回検討会)

3週間後の受診はなぜ必要?オンライン診療のハードルがどんどん高く…

第3回、4回では特に服薬の3週間後に産婦人科での対面受診ができるかどうかに論点が向いた。 

日本産婦人科医会の資料によると、緊急避妊薬を処方した479例のうち、性交後すでに月経が来ていた場合など不必要だった場合は2例、すでに妊娠していた場合が1例あった。

これについて日本産婦人科医会の前田津紀夫氏は、こうした例をもとに「(緊急避妊薬の処方は)高度な内分泌系の知識を持った人間が判断しないとできない」と警告。

また、妊娠している可能性を診断するために3週間後の受診の必要性について、受診した女性に、かんで含めて言い聞かせて受診を促していると説明。

私どものところで、大体年間数十人ぐらいの女性に処方している。(3週間後の受診を)かんで含めて言い聞かせて、それで受診される方が大体7~8割ぐらい。

緊急避妊は決して避妊ではありませんので、緊急避妊で失敗を何とか回避できた方に次のちゃんとした避妊を教えるのが、医師としての重大な役目だと思っています。(前田氏・第3回検討会)

検討会では、この後「3週間後の対面受診が必要で、産婦人科医はすべてその指針に従っている」という趣旨の内容で話が進んでいった。

前田氏は第4回検討会では、さらに産婦人科医以外が処方する可能性に苦言を呈した。

緊急避妊ピルを出すときの責任というのは非常に重いものがあるわけです。

付け焼刃の研修ではなかなかそれが会得できるものではございませんので、もし産婦人科の医師だけに委ねていただけないとするならば、かなりハードルの高いしっかりした研修をお願いしないと難しい。

最終的に、非常に難しいハードルを課していただかないと、産婦人科の専門以外の人間にこの緊急避妊という診断をゆだねるのはなかなか難しいと思います。(前田氏・第4会検討会)

ただ、世界では76カ国で処方箋がなくても薬剤師の服薬説明のもとで緊急避妊薬を購入でき、19カ国では薬局で市販されている。すでに安全性が担保されており医師の説明がなくとも、女性が簡単に手にできる薬とされている。市販薬を飲んだ後に、産婦人科への受診の義務もない。

これらの発言を受け、産婦人科有志が5月20~26日にアンケートを実施。

20~70代の産婦人科医559人中、3週間後の対面受診が必要だと思うか問われ68%が「非常にそう思わない」「そう思わない」と回答。

緊急避妊法の適正使用に関する指針(2016年改訂版)にも、3週間後の対面受診を積極的に進める記載はなかった。

性の知識がないのは“若い女性”だけ?

第5回検討会では、次のような意見もあった。

他の国々が緊急避妊薬を薬局で簡単に手に入れられるといっても、若い女性が性に対して知識がない中で、責任が持てない。 

日本産婦人科医会の前田氏からは、“一般の女性”の性の知識についての欠如が人工妊娠中絶の要因になっているという趣旨の話が持ち出された。

日本で16万人の人工妊娠中絶が行われていて、それを緊急避妊薬でのアクセスが良くなることで、減らすことができるのか。

その確率よりもですね、まずは性の知識を“一般の女性”に普及する方が、圧倒的に効率の良い社会がつくれると思う。

医療の原則は対面診療だと思うし、いかに他の国々が緊急避妊薬、それから低用量ピルを薬局で簡単に入手できるといっても、それぞれの国の事情と、それぞれの国の文化がある。

日本でこれだけ“若い女性”が性に対して知識がない状況で、それはできないし、責任が持てない。「ずっとダメ」ではないですが、時期が早いのではないか。(前田氏・第5回検討会)

 性教育については次のように苦言を呈した。

現実に今、こうして厚生労働省の方が緊急避妊薬へのアクセスを良くしようとしてくださっている一方で、文部科学省の学習指導要領によりますと、中学生や高校生の教育において例えば「性交」という言葉を使ってはいけない、「避妊」の教育をしたら叱られてしまう。そういうような教育が行われていて、これでは中高生に正しい性の知識は普及しない。

出口のところで緊急避妊薬を早く手に入れるようにしてあげるだけじゃとても解決できる問題ではない。(前田氏・第5回検討会) 

日本医師会副会長の今村聡氏からは、避妊に対する知識の欠如について次のような言及もあった。

避妊ということの安易なアフターピルの利用につながってはいけないとは思っていまして、今、日本でも、すごく梅毒若い患者さんが増えている。

性病患者がすごく増えているということは、少なくとも今の若い人たちの中にそういった避妊に対する十分な知識が啓発されていない。

だから基本的に環境的な整備はどうやって啓発するのか、そういうことが今の若い人たちに伝わりにくい。(今村氏・第3回検討会)

近年、増え続けている梅毒については、国立感染症研究所のホームページに傾向をまとめた調査が掲載されている

増加傾向にあった2017年に岡山市保健所が実施。前年と比較して男性は約4.9倍、女性も約3.3倍も増えたタイミングだった。

2010~2017年の状況を調査した結果、20~30代が中心だった男性患者の年齢は40~50代と高年齢化。患者数が急増した2017年の調査では男性患者の71.2%が性風俗店を利用していた。

一方で女性患者は4人に1人がコマーシャルセックスワーカーとして性風俗業で働いていた。2017年には20代の女性患者が急増。

また女性は63.0%で特定のパートナーがおり、特定のパートナーから感染した届け出が多かった。

これらの背景から、風俗を利用する中高年の男性や、そこに勤める20代の女性などから感染が広がっているとみられる。

梅毒の現状からも分かるように、男女ともに年齢関係なく、正しい性の知識を持つ必要があることが分かる。

「望まない妊娠」でも守られるのは性犯罪の被害者だけにした理由

 緊急避妊薬を初診でオンライン診療処方できるようになる案では、望まない妊娠を防ぎたい女性の中でも「性犯罪の被害者」に限られた。

対象者を限る案は、第4回検討会で突如出てきた議論だった。

 日本医師会副会長で内科・麻酔科医の今村聡氏が、地域医療の確保ができていない中で、緊急避妊薬をオンライン診療の対象とするのは「順番が逆ではないか」と疑問を呈し、次のように語った。

犯罪であるとか、性暴力に遭った方たちというのは本当に緊急性が高いので、今すぐにでも何らかの対応を取らなければいけないと思うのですけれども、そうではない方たちに、オンラインで(処方が)できるのだったら、そもそも地域で他の診療科の先生が同じ研修を受けて、困っている方たちにきちんとお応えできるシステムを地域に作ることができるはず。

それをしないで、(地域のシステムが)できないからオンラインだというのは、何か違う。(今村氏・第4回検討会)

これに対し、ささえあい医療人権センターCOML理事長の山口育子氏が、犯罪被害者に限ることへの懸念を示した。

先ほど性的被害の人には必要だということをおっしゃっていたのですけれども、デートレイプのように非常にグレーというか、御本人は望んだわけではないのに性交渉することになってしまったという方もいらっしゃると、性的被害ということだけに限定をするのは非常に難しいと思うのです。

ですので、避妊に失敗しちゃったからというような方は、安易にアプローチするハードルを作ったほうがいいと思うのですけれども、望んでもいない性行為だったという方のために残しておく余地が私は必要ではないかなと思います。(山口氏・第4回検討会)

日本医療ベンチャー協会理事で弁護士の落合孝文氏は、山口氏の意見に対しさらに「性犯罪」の特定の難しさに言及し、性犯罪に限ることで現実的に利用不可能になる場合があると指摘した。

犯罪の被害者だけに限定するかということについて言いますと、山口構成員がおっしゃられたように、犯罪の被害者だけではなく、望まない妊娠に対して考えるべき問題としてもともと提起されていたように思いますので、それはその範囲の方々にとって、どういう手助けができるかという方向で考えるべきではないかと思います。

また、仮に犯罪というふうにいった場合に、私は弁護士でもありますので、最初の1日、2日のときに本当に犯罪とわかることが、警察でも恐らくわからない場合もあると思います。このため、犯罪被害者に限るといった要件にしてしまいますと、現実的に利用不能となる場合もあるのではないかとも思われますので、そういう意味では犯罪被害というふうにしてしまうのは少し難しいのではないかと思っております。(落合氏・第4回検討会)

裁判などでも、性暴力や性的虐待があったと認められても「性犯罪」に該当せず無罪になることがあり、犯罪の線引きは非常に難しい。

さらに板橋区役所前診療所院長の島田潔氏は、産業医の立場として、犯罪だけではなくメンタル不調だった場合に避妊についての判断力がないまま、妊娠してしまう危険性について語り、犯罪に限るべきではないと話した。

どうしてもメンタル不調とかで投げやりになってそういうこと(避妊のない性行為・妊娠)に及んでしまうケースなどもある。

犯罪と別に、今これだけメンタル不調者も増えているところでいうと、そういうことによる望まない妊娠もあるでしょうから、やはり犯罪だけに限らないほうがいいかなと思いました。(島田氏・第4回検討会)

ただ、これらの意見に対し、犯罪被害に限ることを提起した今村氏は次のように反論した。

これ(緊急避妊薬)を求めて来られる方は全て妊娠を望まない方なので、その理由が犯罪であろうが、先ほどあったメンタルであろうが、いろいろあっても結局全てくくれるのは、みんな望んでいない妊娠なのですね。

だから、望んでいない妊娠をターゲットにするということは、全ての人ということに結局はなってしまうので、そこをどのように整理するのかという問題がある。(今村氏・第4回検討会)

さらに、外房こどもクリニックの小児科医・黒木春郎氏は、オンライン診療では処方箋を受け取るまでの時間がかかるため、緊急避妊には向かないとしたうえで、以前山口氏が「性被害を受けた女性は、心理的に産婦人科へ行き、さらに対面で局部を見せる診察をするハードルが高い」という意見についても、疑問を呈した。

オンライン診療を緊急避妊に使うとして、精神的負担がある方にという話だったが、この前提としてオンライン診療の受診には精神的負担が軽減されるという風に聞こえる。

だが、オンライン診療だからと言って、精神的負担が軽減されることはない。診療ですから、あり得ない。

これらの発言を受け、第5回検討会で厚労省側が出してきた今後の取り組み案には、「地理的な要因のほか、性犯罪による対人恐怖がある場合に限って産婦人科医や研修を受けた医師によるオンライン診療を実施」と書かれていた。

第5回検討会では、その取り組み案をもとに話が進み、大筋で合意した。

次回、6月10日の検討会では、オンライン診療で緊急避妊薬を受け取れる女性を「性犯罪に限る」案が覆る可能性は低いとみられる。