新国立競技場の建設コンペをめぐる議論について(15)最終回

また「有識者会議」か、今度のメンバーはどういった人選になるのでしょうか「有識者会議は建築家の安藤忠雄氏らで構成」と発表されているのだから、文部科学省主導でなんにも口出しできないから責任はない、とはやはり言えないと思うんだ。
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とりあえず話し合うらしいですね。

国立競技場改築で26日に有識者会議 JSC

2013.11.23 17:53

新国立競技場の完成予想イメージ(日本スポーツ振興センター提供)

・・・日本スポーツ振興センター(JSC)が26日に東京都内で有識 者会議を開き、建築計画案について話し合う見通しであることが23日、関係者の話で分かった。有識者会議は建築家の安藤忠雄氏らで構成されている。

msn 産経ニュース

http://sankei.jp.msn.com/sports/news/131123/oth13112317540007-n1.htm

また「有識者会議」か、

今度のメンバーはどういった人選になるのでしょうか

「有識者会議は建築家の安藤忠雄氏らで構成」と発表されているのだから、

文部科学省主導でなんにも口出しできないから責任はない、とはやはり言えないと思うんだ。

もうひとつ

床面積2割減どまり 新国立競技場 デザイン維持

・・・見直しを進め る日本スポーツ振興センター(JSC)が、最終的な延べ床面積の削減を全体の約二割にとどめる方針であることが、同センターの関係者の話で分かった。

・・・・JSC関係者は「建設費は原則として延べ床面積に応じて決まるため、(建設費を削減するには)面積を減らす必要があった。スケジュールを考えるとデザインの再検討は不可能で、これがギリギリの数字」と述べた。・・・・

東京新聞 11月17日

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013111702000126.html

ふ~む、2割削減でいきなり3000億円→1800億円ってなんかつじつまが合いませんね。

ふつう2割削減なら、3000億円→2400億円ですよね。

2割引きでさらに7掛けでどうだ!ということなら、

じゃあはじめの3000億円はどっから出た数字なんだ?

もしかして、上海万博日本館のときのように曲面のポリゴンを減らす算段なのか。

どんな有識者なんだってことですよ。

彼らが減らすといってる2割の部分なんですけど、おそらくこの部分だと思います。建築物周辺に回してあるビラビラしたところ、人工地盤といわれる空中歩道部分です。

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なので、このビラがあるかないか、は判断に大きな違いをもたらすんです。

ビラがある最初のパースでは何か大地とつながってベタっと大きく広がった印象に見えます。自転車競技用ヘルメットがボテっと置いてある強引な印象が薄れて、何か環境に配慮しているように印象操作されます。

また多くの人たちが指摘する彼女の作品から受ける性的なモチーフは、

広告業界でいうサブリミナル効果を期待しているのかもしれません。

これをビラビラ効果とでも名付けたいと思うのですが、

アゼルバイジャンのときもやっていますね、その手法を。

実はゲソは外されていたわけでなく、

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イカの触手付きだったのです遊歩道として。

強引な建物をなんだか環境になじませる視覚効果がありますよね。

で、今回面積縮小するためにビラは取るらしい。

で、もう少しリアルな完成予想図もありました。

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やっぱり!デカイよ。

地面からいきなり盛り上がっているし。

で、このCGでもまだ100mくらい引きの視点で作成してあるんですから、

実際に人間の目線からは、たぶんこんな感じだと思いますよ。

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この写真は池尻大橋の駅前です。

現実の人的目線ではこの写真以上にアンダーな露出になります。

池尻大橋という場所は延々と246通りに首都高がかぶさっているんですが、

この高さでも15メートルくらいじゃないでしょうか

通り全体に広がるのは首都高がかぶさる逃げ場のない感じです。

都市化するうえで、高度成長期に既存大規模道路の上に高速を設置した事情はわかるんですが、

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同様に、六本木にもなるべく行きたくない。

町田の駅前も空中遊歩道を歩くぶんにはいいんですが、

地上面を歩くとキツイです。

それでも、これらの場所の道路は外苑西通りよりも倍以上広いんですよ。

そして、そこに覆いかぶさる構造物はザハの半分以下でしかない。

それでも、こうなんです。

それと比較してみれば、現在の国立競技場は案外うまく設計してありますよね。

緑の中に円錐形の一部がシャープに展開して人工構造物と樹木の対比もイイ感じです。

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なにより空との境目、スカイラインが磁器杯のふちのように美しいです。

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で、前回より始めていた既存国立競技場は活かせないのか

についてなんですが、

とりあえずサブトラックの場所は見つけました。

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次に8万人入れてみろ!

なのですが、果たして入るのか

これもですね、入りそうなんです8万人

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前回のオリンピック時には7万2000人入れたみたいですが、

その後は一人一人の座席を広げる改修により5万339人だそうです。

改修により収容人員はどれくらい増やせるのか

現在の国立競技場の平面計画がありました。

実は、前回のオリンピック時に増設して以来国立競技場は片側に膨らんだ変形の楕円をしているんですね。

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この偏心した楕円を対称形にしてみたらどうなんだろう。

とやってみたのがこれです。

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なんか、よさそうなんですけど。

これで席数どれだけ増えるのか、、

嵐コンサートの座席表がありました。

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席数を数えてみるために35番と32番部分をチェックしてみると

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こんな感じなので、35番-2000席、34番-1700、33番-1400、32番-1200、

31番-1000、そのあと徐々に細くなるまで1400席、

で片側8700席くらいなので、17400席くらいは追加できそうなんですね。

この偏心解消工事で、6万8000席くらいにはなるんではないか

さらに、全体の構造補強も含めて最頂部にリング状の構造を構築すると、

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8万人収容は軽くクリアできてしまう勢いなんです。

断面計画はこのようになります。

なんか今より5メートルくらい高くすれば済みそうなんですが、、

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サッカーやラグビーファンに不評のフィールドへの距離も可動席で解決できるんじゃないでしょうか

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なんか、これでいいんじゃないでしょうか。

これで解決なんじゃないですかね。

古いスタジアムを改修デザインによって現代的によみがえらせた具体的ケースとしてイギリスの建築家マイケル・ホプキンスという人の事例なんかもあります。

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この人は、古い技術と最新の技術を組み合わせて元あった建物をそれ以上の価値あるものに生まれ変わらせる仕事で建築のツウ好みの人です。

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参考:マイケル・ホプキンスとは

実は、この既存国立競技場を改修してバージョンアップすることは、

今回オリンピックのためだけじゃないのです。

日本の建築土木産業においても、

国家の経済政策においても非常にプラスの効果があるのです。

それは!既存建築土木構築物のストック活用の指針づくりにつながるからです。

僕が、あえてリファインという言葉を使っているのは、

青木茂さんの活動を念頭に置いているからなのです。

既存建物の改修によるストック活用というのは最近よく聞くと思うのですが、

それを妨げているのは実は技術論ではありません。

首都高速とか橋梁の耐震改修を見ていればわかると思うのですが、

築50年くらいを経ていても、劣化したコンクリート構造物の増強や耐震化というのは技術的には、さまざまな方法論がすでに確立されています。

それを妨げているのは、建築行政の政策的な問題からくる経済問題なんです。

建築物の価値というのは、新築時から徐々に償却されていくように設定されています。また、建築物の技術的評価や価値状況を把握するのがその建物のスペック といいますか耐用年数なんですね。それが、時代的変遷によって現時点での要求仕様に追いついていない古い建物が数多くあります。

全国で公共施設1万5000棟が震度6強で倒壊の恐れがあるともいわれております。

全国の自治体庁舎やマンションなど大型建物の耐震化が遅れている。

会計検査院は9日、自治体所有の公共施設のうち、国の耐震基準を満たさず、

震度6強の地震で倒壊する懸念のある建物が1万5479棟に上るとの調査を公表した

http://www.nikkei.com/article/DGXNASGC09013_Z01C13A0EA1000/

直せばいいじゃん。

と簡単に考えがちなのですが、そうもいかない。

なぜなら、その建物がどれくらい状況悪くてどれくらいの治療が必要か

について技術的には評価できますが、そこにおける資産評価ができないから、

投資が不可能というのが実情なんです。

特に、建築物の新築時の元データの根拠となる建築確認申請ですが、

これが、過去数十年実にいいかげんだったからなんです。

確認時と完成時で食い違っている建物が多い、完成検査を受けていない建物も多い、さらには当時の建築確認申請書とか設計図書が残っていない。

それが実情です。

だから、建築関係者は古い建物を触りたくないんです。

たとえば、どこのだれが設計し施工したかわからない建物を、今自分がある程度の状況判断をしてそれへの対応を考えてしまうと、元の見立てが違っていたときに、過去の見ず知らずの人間のミスや欠陥も背負ってしまうことになるからです。

だから、誰も既存ストック活用はしたくない、見ず知らずの過去の人間の仕業のことまで責任取りたくない。

新築でかっこよくやりたい、96%の設計者はそんな考えをしています。

それに敢然と挑んでいるのが青木茂先生なんです。

最近はTVや雑誌等でも取り上げられるようになって知名度も上がってきましたが、僕は元新建築編集長の石堂威さんから紹介いただいて、もう10年以上前から青木先生と懇意にしていただいていて、ずっと先生の活動に触れさせてもらっていました。

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特に青木先生が凄いのは、建築確認申請もない、元の設計図もない、なんの根拠もない昔の建物を再調査して、図面を復元し、その図面を行政に認めさせ、

認めさせたうえで、現状の欠陥とその改善方法を再設計し、再度確認申請を取り直し、金融機関から融資を引き出す、という離れ業をやってのけているのです。

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日本の建築行政は新築中心に組み上げられているため、そのような対応窓口も対応の部門もないにもかかわらずです。

その流れや仕組みは、今まで誰もやったことがなかったので、既存法規の再解釈を慎重に進めながら、すべて経験と話し合いと説得によって正攻法で粘り強く築きあげられたものです。

青木先生はこの手続きの流れや対応方法もすべて公開されているのですが、追随者がなかなか現れず、今のところ、青木先生だけの特殊解にとどまっているのです。

新築じゃないと建築のデザイン賞がもらえないから、大変だからみんなやらないんです。

それを、今回、「改修じゃ無理なんで新築します~」とか言っている国立競技場で、国の物件で取組むことができれば、リファインへの法整備や行政手続きの合理化が進むはずなんです。

特に、公共物件でリファインが進みにくい理由のひとつに、当時の設計者が行政マンであったこともあります。役所で設計して役所で工事監理をしていたため、古い建物の調査過程で、強度不足や鉄筋量の不足、欠陥工事が発覚するのを恐れているからです。

もし、40年前の鉄筋抜き取りがバレたら、、工事現場に見にも行ってなかったことがバレたら、安い海砂を使っていたことがバレたら、当時の担当者はとうに引退しているにもかかわらず、現在の担当者はモメごとがイヤなのです。

それでも、一部の地方公共団体の建築課の職員さんの中からは、徐々に意識改革が起きていて、青木先生にレクチャーを受けたいといった動きもあります。

それを、後押しできるのが、今回、オリンピックに合わせて国立競技場を改修して生まれ変わらせることで、制度と評価の整備をおこない、既存不適格について適切に処置するならば当時の担当者を追い込まないように、国からお墨付きを出すことなんです。

そうすれば、各地方の建物にかかわる設計士の方々にも個人的冒険心を必要としなくなり、1万5000棟の改修工事も進み、古い建物を活かしながら再活用する動きが活発化します。

特に、日本という国は建築士がいっぱいいるんです。

これは諸外国に比べて強烈な強みなんです。

北海道から沖縄まで、建築や土木の技術者があまねく遍在しているんです。

だから!東北大震災の後だってすぐ道路が通ったり、堤防が治ったりしているんです。そんな建築・土木系の技術者をもっともっと活用しましょうよ。

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国土強靭化政策というのは、日本全土でおこなわなければならないんですよ。

南北に長く海岸線をもち諸島までくまなくインフラでつなぎ、日本全土ほとんどのエリアで情報も流通も同じ条件にできたのは、高度成長期に活躍した建築・土木のおっちゃんたちのおかげなんですよ。

都心で首都高速だけ強くすればいいってもんではないんです。

もちろん、民間の建築にもその効果は作用します。

既存不適格建物で減価償却されている建築物は価値ゼロなわけですから、

それを再生できるなら、ほとんどのケースで投資効果はあります。

しかも、リファイン建築なら工期も施工費用も新築の半分から7割くらいで抑えられるでしょう。全然あわてる必要もない。

特に、今回の国立競技場をリファインでおこなうなら、オリンピックイヤーまでずっと、国立競技場を使用しながら施工できます。

費用も元々新築で1000億とかいっていたわけですから、700億円で済みます。

オリンピックイヤーまであと7年ありますが、その間稼働を続ければ毎年20億の売り上げがあるわけですから、新築とリファインなら雲泥の差が出ることでしょう。

しかも、この青木茂先生の活動を真っ先に評価していたのが石堂威さんと、建築評論家で歴史家で今回新国立競技場の審査員に名を連ねていらっしゃる鈴木博之先生なんです。

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僕は知っています。鈴木先生は、全国に存在する高度成長期に建設されたなんの変哲もない建築をよみがえらせる青木先生の活動がこれからの日本の建築文化には不可欠の存在として、10年以上前から陰に日向に応援されていました。そんな立派な先生なんです。

だから、今回の新国立競技場のコンペでどういう経緯で鈴木先生や内藤先生がこのような事態に巻き込まれてしまっているのか、さっぱり解せないんです。

なぜそうなっていて、なんの発言もできなくなってしまっているのか

見直しましょうよ。

今回のコンペの始まりもプロセスも結果もまっ黒すぎますよ。

で、あらたに声を上げましょう。

たとえば、青木先生を監修アドバイザーにして、リファイン前提のコンペを今度は全世界からフリーに応募してもらったらどうなんでしょう。

審査員もマイケル・ホプキンスさんも呼びましょうよ。

で、今回来ていないロジャースもフォスターもこのままぼったくりさせておくんじゃなくて、今度こそ審査してもらいましょうよ。

ザハにはもう賞金払ったんだから、リニアモーターカーの駅でも頼んでおけばいいじゃないですか。

それで、もし、誰も知らないまったくの新人がなんのバックボーンもないまま登場し素晴らしいアイデアを出してくれれば、きっとその提案は建築文化の歴史に刻まれることは間違いないんです。

終わり

(2013年11月24日「建築エコノミスト 森山のブログ」より転載)

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