なぜ広告の炎上は起こるのか?報ステCMなどを題材に、専門家と広告関係者が考えた

ジャーナリストの治部れんげさんが講師をつとめ「内部でおかしいと思っている人はいるのに、その方たちの知見が生かされていない」などと指摘した
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講義をする治部れんげさん
オンラインで公開された講義より

テレビ朝日の報道番組『報道ステーション』のCMや五輪開会式の演出案、アツギのタイツPRー。広告や表現に関する「炎上」は何度も繰り返されてきた。

構造や事例を学ぶことで広告やメディアに関わる人のモラルを向上させるための講義が、3月30日にオンラインで行われた。

ジェンダーやメディアの問題について詳しいジャーナリストの治部れんげさんが講師をつとめ、内部に違和感を持つ人がいても生かせていないことなどを指摘した。

 

無意識下での見方や捉え方の偏りが差別的な表現まねく

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オンラインで行われた講義
オンラインで行われた講義より

講座を主催したのはクリエイター教育プログラム「THE CREATIVE ACADEMY」を運営する広告・事業開発会社「The Breakthrough Company GO」。「広告の炎上事例に学ぶ、新しい表現モラルのあり方」と題し、代表取締役の三浦崇宏さんが聞き手をつとめた。

三浦さんは冒頭、広告などに対する批判やSNSでの炎上について「いずれも人権意識、社会課題に関する無知・不勉強、そして想像力の不足が要因だと考えている」とコメント。自らも過去の発言や表現で反省すべきところがあると振り返り、特定の企業などを批判するためではなく「今一度表現やコンテンツに関わる人間としてモラルをあらためていく必要がある」と開催の意図を説明した。

講座では前提として、性別や容姿、年齢、人種などにもとづく差別が存在し、自分では気付いていない「ものの見方や捉え方の歪みや偏り=アンコンシャスバイアス」があるため、差別しようと思っていなかったとしても差別的な表現が生まれてしまうことがあると説明。

さらに、固定観念に基づいて男女などの役割を表現する「ステレオタイプ」も広告で多用されてきたと指摘した。

10年以上広告業界に身を置く三浦さんは、「例えばテレビCM15秒で洗濯機の価値を証明しようというとき、つい簡単なもので描きたくなってしまう」とする。

ステレオタイプを利用することがマーケティングに有効だったため、「結果として社会のステレオタイプ、女性はなるべく家にいるもの、男性は働くもの、などの記号性、思いこみを強めてきたのは間違いない」と構造を分析した。

 

「内部の知見、生かせていない」

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聞き手をつとめた三浦崇宏さん
オンラインで行われた講義より

問題点を探るためここ数年の炎上事例を振り返る中で、治部さんはこうした企業や団体の中にも差別や社会問題に関する知識やモラルがある人はいたはずだと指摘。

「問題は、内部でおかしいと思っている人はいるのに、その方たちの知見が生かされずに出てしまったこと」とし、内部で知見のある人材を発掘すること、しっかりと意見を拾える体制をつくることが重要だと述べた。

さらに、差別に関する問題について取り上げるのであれば「最低でも本を3冊くらい読んでから取り組んでほしい」とした上で、こう説明した。

「悪気がなかったというのは分かるが、莫大な影響力がある人が何も勉強せずに発信するというのはそれだけで暴力的。時間がないなら発信しないでほしいですし、勉強してからにしてください」

こうした指摘を受け、三浦さんは「ひとりひとりが学ぶことも大事だが、気付いたことを言える環境づくりって大事で、経営者や組織のリーダーの責任だと思う。結果的にそれが組織やブランドを強くする」と経営者の立場からもコメントした。

 

「表現で人々の可能性広げることもできるのでは」

講義では、ポジティブな事例も紹介。

イギリス発のコスメメーカー・LUSH(ラッシュ)が、性別や人種、年齢などの多様性に配慮して一部の商品名を変更したことなどを取り上げ、表現方法をよりよい方向に変えられるよう模索したことを公表したことが重要だとした。

三浦さんは「表現や映像、デザインによってステレオタイプを助長して人々の可能性を狭めてきたという歴史があるならば、表現で人々の可能性を広げていくことも我々の仕事でできるのではないか」と呼びかけた。

講座には広告やメディア関係者などおよそ1200人が申し込んだといい、関心の高さを伺わせた。