コロナ禍で客席に生まれた意外な変化とは? 『いないいないばあっ!』制作統括に聞いた

中村裕子チーフ・プロデューサーは「今後はほぼ『ウィズコロナ』なので、その中で作れるものを模索していくことが大事」と話します。
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『いないいないばあっ!』に登場する「ワンワン」(左)とNHKエデュケーショナルの中村裕子チーフ・プロデューサー
NHK広報局提供/安藤健二

全国の赤ちゃんに愛されて26年。NHK Eテレで放送される『いないいないばあっ!』の連続インタビュー。「世界初」の赤ちゃん向け番組が始まった経緯を聞いた前編に引き続き、制作スタッフへのインタビュー後編をお届けします。

2020年以降の新型コロナ感染拡大は、番組制作にどんな影響があったのでしょうか。特にステージ公演「ワンワンわんだーらんど」ではコロナ禍になって保護者の反応が如実に変わったそうです。その意外な変化とは?番組制作を統括するNHKエデュケーショナルの中村裕子チーフ・プロデューサーに聞きました。

 

■コロナ禍の舞台公演、客席に思わぬ変化が

――2020年春の新型コロナの感染拡大から2年が経ちましたが、『いないいないばあっ!』の撮影をめぐってどのような変化がありましたか?

映像を収録するのも難しい時期もあったんですが、現在はNHKのルールに則りながら、収録に関してはソーシャルディスタンスを取りながら撮影しています。「ピカピカブ~!」のコーナーでは、赤ちゃんたちをスタジオに呼んでワンワンと一緒に遊ぶというシーンがありましたが、コロナ禍で呼べなくなりました。でも、「赤ちゃんは赤ちゃんが好き」というか、赤ちゃんが画面上で一緒に体を動かすことで、観ている子も楽しくゆるやかに後押しされるということがあるので、コロナ禍になる以前に撮った映像素材を使い続けています。

 

――番組の内容自体も変わりましたか?

番組で言うと、コロナ禍でなかなか外に出られない時期には、おうちでできる工作遊びを多めに入れたり、ワンワンのお散歩映像を入れて、季節感を感じるものを多めに入れたりしたことがありましたね。

 

――各地方を回る舞台公演「ワンワンわんだーらんど」は、2021年6月まで約1年4カ月にわたって休止していましたが、再開してからはどんな変化があったでしょうか?

会場の客席も定員の何割かに限定し、あとは声を出さないようにしてもらう。声を出す代わりに、決めポーズを一緒にやってもらったりとか。以前は、会場が一体になるような客席を巻き込んだ「大玉転がし」のような遊びをやっていましたが、今はできないので、それに代わるものをみんなで開発していきました。今後はほぼ「ウィズコロナ」なので、その中で作れるものを模索していくことが大事だと思っています。

 

――「ワンワンわんだーらんど」では、客席の変化はありましたか?

『いないいないばあっ!』は保護者の方が赤ちゃんと一緒に見る「随伴試聴」をオススメしているんです。コロナ禍で在宅時間が増えたことで、「随伴視聴」するパパ、ママも増えたのかな、って思うことがあります。

コロナ禍でテレワークなどが進み、おうちにいる時間が増えたことで、今まではなかなか赤ちゃんと一緒に見られなかったパパやママたちが一緒に番組を見られるようになったのかもしれません。その影響で、イベントを再開してから、パパやママの盛り上がりの熱量が違うように感じるんですよ。

お子さんと一緒に歌を歌われたり、振り付けをしてくれたりとか。むしろ、お子さんがポカンとするぐらい、保護者の方がノリノリで完璧に振りを覚えてるみたいな方も中にはいらっしゃいます。でも、パパやママが楽しそうにしているのをみるのも、お子さんは大好きなので、少しずつですが、親子一緒に楽しい時間が過ごせるようなってきて良かったなって思っています。

 

■子どもの心をつかめるのは「チョーさんと一緒に番組を作っているから」

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『いないいないばあっ!』に登場するワンワン
NHK広報局提供

――「親が安心して子どもに見せられる番組」というコンセプトはスタート時から一貫していると思いますが、それを維持するために気をつけていることは何でしょうか?

最初のコンセプトからぶれないことが大事だと思っています。やっぱり26年もやってると、奇をてらいたくなってしまいがちですよね。『いないいないばあっ!』の場合はチョーさん以外にも、ディレクター、カメラマンさん、照明さん、音響さん、振付さん、作曲家さんなど本当にたくさんのスタッフさんが、長く支えてくださっています。「赤ちゃんのために」っていうことをものすごく大事に作ってくださる方ばかりで、カメラワーク一つにしてもすごく特殊な撮り方をしています。

 

―― 26年間も番組が続いた背景にはワンワンの存在が大きいと思います。一貫してワンワンを演じ続けてきたチョーさんにはどんな思いがありますか?

 チョーさんもおっしゃっていたけど、やっぱり「一緒に番組を作っている」ところはありますよね。「スーパーワン」とか「パクパクさん」みたいなチョーさん発案で生まれたキャラクターもありますし、最近だとダンボールンジャーっていうキャラクターも生まれました。今はネット通販を活用している方が多くて、赤ちゃんグッズを購入するなどして、段ボールがあふれているご家庭が多いんですよね。

 

――我が家もコロナ禍でなかなか買い出しに行けないんでAmazonや楽天などの通販サイトで買うことが多くて、段ボールがどんどん貯まります。

そうなんですよね。なので、それを有効活用した新しいキャラクターということでした。いつものようにチョーさんが「どうかな?」って急に言い出して、スタッフが「え、何ですか?ダンボールンジャーって」とびっくりする感じです。

そのように一緒に参加して、一緒に面白がってくださるのは非常に有り難いです。チョーさんは子ども心を忘れてないですよね。リハーサルのときに「3人でこういうゲームをしよう」という脚本に沿って進めるにしても、どの制作スタッフよりも楽しんでくれて、「こうやったらもっと面白いのに」って、すごい子ども心を発揮していろいろなアレンジを加えてくださるんです。

 実際の収録でさらに思いついちゃって、さらにアドリブを入れてきたりしますね。やっぱり子ども心を常に忘れないチョーさんと一緒に番組を作ってきたからこそ、子どもの心をがっちりつかんだものが出来たんだろうなと思います。

 

■中村裕子さんのプロフィール

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NHKエデュケーショナルの中村裕子チーフ・プロデューサー
撮影:安藤健二

NHKエデュケーショナル・コンテンツ制作開発センター・こども幼児グループ所属。こども・幼児向けの番組を中心にディレクターを経て、現在はチーフプロデューサー。番組全体を取りまとめる。