稲垣吾郎が考える「これからのエンタメ」。ネットのゆるさは“甘さ”にもなりえる

新しい地図を立ち上げてから感じる、稲垣吾郎さんの「使命感」とは?
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稲垣吾郎さん
豊島望 / Nozomu Toyoshima

テレビからネットへ。「新しい地図」の3人は、日本のエンターテインメントの変革期を象徴するような存在だ。

2017年11月にブログを始めた稲垣吾郎さんは、目をキラキラと輝かせて、インターネットで発信する楽しさを語ってくれた。4月からは、インターネットテレビAbemaTVで生放送のレギュラー番組がはじまる。

それでも、「香取くんのバースデー特番の生放送は、結構ゆるい感じになってしまった」と、少しバツが悪そうに言う。

「締めるところは締めて、研ぎすまされたエンターテインメントを作っていかないと」

稲垣さんはこう話す。やりたいことは、きっと「テレビも、ネットも」なのだ。ハフポスト日本版が、稲垣さんに話を聞いた。

——2017年、注目されたAmebaブログを表彰する「BLOG of the year 2017」の最優秀賞に輝きました。ブログを始めて、変化したことはありますか?

なんとなくで1日が終わらないというか。常に「これを投稿したらおもしろいかな」とか、「これを発信したら読んでくれてる方が喜んでくれるかな」とか、自分の中で考えながら生活するようになって、日々の生活がきちっとしてくる感じがします。

誰でも、なんとなく過ぎちゃう一日ってあるじゃないですか。ブログをやることによって生活にハリが出てきたというか...それは本当にブログのおかげです。忙しい時に「更新しなくちゃな」と多少焦っちゃったりもするんですけど、書くのも楽しいですし、ダイレクトにファンの皆さんが反応してくださる。

今までもファンの方や応援してくださる方との繋がりを大切にして、それを感じながらずっとやってきたつもりなんですけど、SNSがあるとね。よりリアルで。その場でコメントが上がってくるのを見るとすごくおもしろいです。

——ブログ読者の方からは日々、コメントもたくさんついています。

特にブログの読者の方々って文章が上手。結構、時間をかけてコメントしてくれたりするんですよね。Twitterだとスピードが勝負だったりもする場合もあると思うんですけど。

今朝もブログを投稿したんですけど、たぶん皆さん、今頃なにを書こうかって考えて、コメントが増えてくるのかなって。そのキャッチボールみたいなものがすごく楽しいですし、皆さんの言葉がすごく勉強になることもある。

僕がひとつのテーマを決めて書いたとしても、それについて思ったことを書いてくれると、「ああこれ書けばよかったな」とか、「読者の方の言葉がすごくよかったな」となることが多くて。すごく勉強になりますし、お互い勉強し合えている感じもあります。

若い方は子どもの頃からSNSに慣れていると思うんですけど、同世代のファンの方の中には、まだSNSに疎い方もいるはずで。僕もそうだったんですけど。だから同時に、一緒に勉強できてる。香取くんのインスタとか草彅くんのYouTubeもそうだと思うんですけど、すごく楽しんでいますね。

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稲垣吾郎さんのオフィシャルブログより

——「新しい地図」で再スタートを切られてから、多くの人が注目しています。今後専念していきたい領域はなんでしょうか?

4月に映画『クソ野郎と美しき世界』が控えているので、まずはこれを「最初の作品」として世の中に発信していくこと。それは役者としてなので、今までやってきたことと変わらないんですけれども。

その他にもブログで文章を書いていくことはやっていきたいですよね。興味はあるので、いずれ書籍とかそういったものの出版とかできたらおもしろいかなとか考えていますし...いや、もういろいろありますね。香取くんはもう、画家なんでね。アーティスティックな面でなにかコラボレーションとかできたらおもしろいですし、今までできていないことって、まだいっぱいあるんじゃないかなと思います。無限大にありますよね。

——いろんなことにチャレンジしていきたい?

そうですね。お店とかね?(笑)

何か商品を作るとか、うん。今までできなかったことも結構多いと思うので、いろいろとやっていきたいですよね。例えば、僕だったら趣味でいえば、「ワインを作りたい」とかね。

できることは本当に無限大にあるし、そういうことを今話してるのがすごく楽しいです。

レギュラー番組も始まるので。7.2時間なので...ちょっとフル回転してやっていかないといけないなと思います。この間は香取くんのバースデー特番がありましたけど、まだまだインターネットテレビも実験的なところがあると思うので、ちゃんと作っていきたいですね。この間の韓国での生放送は結構ゆるい感じにもなってしまって。

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『72Hunもうちょっとテレビ 〜香取慎吾バースデー特番〜』より。2018年1月30日夜11時から、72分間にわたって韓国から生放送された。
(C)AbemaTV
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(C)AbemaTV

——突然終わってしまいましたよね。

そうそう。(笑)

そうなんですよね...ちょっとバタバタしてて。企画自体がサプライズだったから、許してもらえた感じももしかしたらあるのかもしれないですけど。

「ゆるい」ところはゆるくていいと思うんですけど、ちゃんと締めるところは締めて、「研ぎすまされたエンターテインメント」を作っていかなきゃいけないとも思います。だから4月からは楽しみですね。

——「研ぎすまされたエンターテインメント」とは...?

やっぱり、エンターテインメントってある程度の「ゆるさ」も必要だけど、締めるところは締めないといけないと思っています。緩急が大事というか。

ネット特有のゆるさというのはあって、少しぐだぐだしていたり、見ている方が行間を埋めないといけなかったりする。

地上波のテレビだと、テロップの使い方や番組の作り方にしろ、視聴者に対して「こうです」と説明する要素が多くて。飽きさせちゃいけない。チャンネルを替えられたくない。いろいろなことがあると思うんですけど。

ネットの場合は、そういったスキマとか余白みたいなものも楽しめるので、「自由だなぁ」と思っています。それがまた魅力でもあって。じゃなかったら、『72時間ホンネテレビ』のおもしろさも出なかったかもしれない。

——なるほど。確かに、ゆるい感じは「ネットの生放送」っぽくて、臨場感もありました。

でも、「ゆるさ」というのは、言い方を変えると「甘さ」になってしまうこともある。そのバランスを取りながらやっていくのが、何十年とエンターテインメントの世界にいる僕らのこれからの役割なのかな、って。ちょっと豪語してしまいましたけど...。

——「ゆるさ」がありつつも、テレビのようにしっかり作り込まれたエンターテインメントをAbemaTVで見せていく。

そうですね。もちろん、インターネットテレビだけがゆるいというわけではないですし、制作に関わる方々はしっかり作ってくれています。けれど、テレビとインターネットの良さ、両方がうまく合わさっていくといいなぁ...と。

AbemaTVやサイバーエージェントは、デジタルの最先端にあるものじゃないですか。そのデジタルの最先端にいる方々に支えられながらも、やっぱり従来のアナログなものも大切にしていきたいなと思います。

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(C)AbemaTV

——「研ぎすまされたエンターテインメント」を作っていくために、新しいものをどんどん取り入れていくんですね。

そうですね。でも、やっぱり、これまであり続けているものも大切にしたいので...。古いものにも、すごくいいものがある。

エンターテインメントの世界では、新しいものだけがすべてではないので。書籍にしろ音楽にしろ、なんでもそうですが、やっぱり古いものの魅力ってあるじゃないですか。不便なものの魅力とか。

——確かに、アナログだからこそ感じられる魅力や趣はありますよね。

それはやっぱり、今まで自分たちが誇りを持ってやってきたことなので、なくしたくはないですよね。だから何か「改革を起こしたい」ということを、すごく考えているわけじゃないですね。

時代が変わるとともに、今までやってきたことも多少は絶対に変わってくる。だから、やることはやっぱり、今までのものも引き継いでいきたいと思います。

具体的に言ったら、お芝居をしたりとか、舞台も好きなので。舞台は至ってシンプルで、「芸能の源」じゃないですか。目の前にお客さんがいて、そこで演じて。

『72時間ホンネテレビ』のライブで、お客さんの前でステージに立って歌ったり踊ったりすることには、最新のCGを使ったプロモーションビデオにはない魅力があるじゃないですか。そういったものをやっぱり大切にしたいですね。

バラエティだったら、コントとかもさ。最近減ってきちゃっているので、昔からやってる、バカバカしいコントみたいなものも見たいじゃないですか。その気持ちを大切にしていきたいと思っています。

——「地上波テレビには自由がなくなった」「窮屈になった」という声もあります。「テレビでできないこと」をやれるのが、インターネットの強みのひとつと思うのですが、どう感じていますか?

テレビ業界にいる方々はプロフェッショナル中のプロフェッショナルだと思っていますし、きっとプライドも高く持っている。そう言われていたとしても、やっぱり、これからもっともっと盛り返してくると思います。

常日頃そういう言葉は耳に入っているだろうし、その上で頑張ってくださっている、と思っています。僕はテレビで育ってきている人間なので、そこは絶対に揺らがないですね。

すべてがネットだけではないと思うので、ネットと地上波テレビ、両方の要素を持っていきたいなと。もちろん、今後もテレビの仕事もやっていきたいですし。それに加えて、新しい、インターネットやSNSというものもやっていく。そうやって、両方のいいところを取り込んでいくことが「新しいエンターテインメント」なんじゃないかな。捨てていくだけではなくて。

——そういう使命感を持たれていたんですね。

いやいや、そんな、あれですけどね。(笑)

——ブログではプライベートなことを書かれていますが、エッセイを書かれていた時と比べると、稲垣さんの世界観が少し抑えられている気がするのですが...。

本当ですか?エッセイ読んでくれたんですか?嬉しいですね...ずいぶん昔なので。『馬耳東風』という。最初「週刊プレイボーイ」でやってて、その後「コスモポリタン」でやって...。23、4歳の頃から。「週プレ」で連載をやっていたっておもしろくないですか?(笑)

——かなり渋すぎますよね。(笑)すごく知的で。

結構渋かったかもしれない。(笑)

知的ではないんだけど、すごくアンダーグラウンドな世界に入り込んでいて、夜遊びとかも当時はしていたので、クラブの話をしたりとか...。結構ね、そういうことを平気で書いていたんですよね。

——ネットは世界中の誰でも見られる空間なので、そこで「どこまで自分の思いや意見を書くか」ということに葛藤などもあるのかな、と思ったのですが...。

僕は、自分の意見を押し出したいとは思っていないです。まったく。そこは、エンターテインメントとして。求められれば書くかもしれないけれど、時事ネタを僕が発信したとして、聞きたい人はいるのかな、と。中にはいるかもしれないけど。

もちろん社会的なことを何も考えていないわけではないですけど、自分たちの立場から言って、発信すべきことと、発信しなくてもいいことがあると思っていて。ブログだからと言って、生活を赤裸々に紹介して切り売りするようなことは僕はしたくない。

見せたくないところは見せたくないし、ファンの方の中には、見たくないところは見たくないと思っている方もいるでしょうし...。そこはヴェールに包んであげなきゃいけない。それがエンターテインメントの使命だと僕は思うので。なんでもかんでも「語ればいい」というわけではないと思っています。

それは、今後の課題だなとも思いますけど、僕はそれをずっとやってきたつもりです。エッセイの時とかも。実態がちょっとわからないようにしたりとか、ミステリアスなものを残す言葉の方が僕は好きです。あんまり生々しさがありすぎてもね。

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豊島望 / Nozomu Toyoshima

——稲垣さんの言葉の影響力は凄まじいと思います。最近は、香取慎吾さんが「歩きスマホ」についてツイートして話題になりました。

あれ、言うんだなって思って。僕はあんまりそういうことを言わなかったので。

でもやっぱりそれは、いいことだと思いますよ。影響力があって、それによってみんなが「歩きスマホ」のようなことに目を向けるようになって...みんなわかっててもやっちゃうことって多いし、僕だってある。

そういうのをみんなで戒め合うというか、注意しあったりとかっていうのは、全然いいと思います。香取くんが言うとさらっとしてるから。僕も草彅くんもそうだけど、説教がましく言う人でもないし...でも、あれはどうしても伝えたかったんじゃないのかなぁ。

——芸能人の中には社会的なことを発信する方も増えてきていますが、稲垣さんの「語らない」スタンスも素敵だと思います。

今は、発信しやすい場があるので。

僕は、語ることから逃げているわけではないですけど、そんなにダイレクトな言葉で伝えるものではないのかな、と思ったり...。「歩きスマホ、ダメだよぉ?」って言うのは全然いいけど、それくらいはね。(笑)

自分たちの役割って言うものがあるのかなって思っているので。もちろん今後それは一社会人として、日本人としてやっぱり言葉にしなくちゃいけないこともくるでしょうし、それはこれからですね。

——「新しい地図」のイメージ動画にそういったところが詰まっているのかな、と思いました。

うん。そういったものに詰めればいいわけであって、それは長々とツイートすることでもない。見てる方もそれを求めていると思うので、作品にメッセージを込めるというのが、やっぱりエンターテインメントの役割だと思っているので。

あんまり多くは語らなくてもいい。そういう人間になりたいなって。それでも歴史を変えてきた人は多いし、それで救われた人もいる。そういうことの方が大切かなって思います。