日本で「ダメ絶対」な大麻について、佐久間裕美子さんが「真面目」に議論を呼びかける理由

人権、医療、政治問題... アメリカのマリファナ合法化までの歴史を紐解く一冊となっている。
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「真面目にマリファナの話をしよう」のカバー写真
Yuko Funazaki

好奇心をそそるタイトルの本が、8月6日に文藝春秋から発売された。著者はニューヨーク在住の文筆家、佐久間裕美子さんだ。

日本では今年2019年に入ってからも、数人の有名人が大麻を使用し逮捕され、大々的に報道された。

一方海外では、何らかの形(医療用、娯楽用など)の合法化や非犯罪化を実践・推進している国も増加している。アメリカのシリコンバレーの投資家や、ハリウッドセレブなどもマリファナ・ビジネスに参入する動きもあり、巨大市場を築きつつある。

この本には、合法化・非犯罪化に至るまでのアメリカの歴史が凝縮されている。その道のりは、決して容易なものではなかったようだ。

アメリカで約5年に渡ってマリファナの歴史や近年の合法化の動きを取材してきた佐久間さん。出版のタイミングでの来日中に、恵比寿の「ヘンプ・カフェ」で、現地での肌感や、日本との文化の違いなどについて話を聞いた。

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著者の佐久間裕美子さん
Yuko Funazaki

 
ーーなぜマリファナについて取材し、本を書こうと思ったのでしょうか?

2014年に、リーマンショック以降の消費カルチャーのシフトを取材した「ヒップな生活革命」という本を出版しました。その後、次のネタを探していたときに、2014年にコロラド州がマリファナの娯楽使用を合法化した。私はこれはアメリカ史における大きなパラダイム・シフトだと思い、1番に取材する人になりたい、と思ったんです。

そこで、企画をWIRED Japanに売り込み、取材を敢行して2015年に記事化されました。そのときに、これはかなりエポックメイキングな出来事が起きている、と気が付きました。この記事を見た文藝春秋の編集者から本の執筆について声がかかり、取材を始めました。

合法化の波が世界に広がって、多くの国や自治体がマリファナとの向き合い方を再検討しているなかで、日本とのギャップがどんどん大きくなるという状況で、日本では語る事も出来ないタブーになっていることにも違和感がありました。

ーー周りからこの本の執筆に対して何か言われましたか?

心配はされましたね。「(世間から)怒られるんじゃないか」とか「仕事来なくなるんじゃないの?」とか。両親には「これは真面目なルポだから」と話しました。

心配されたときに考えたのは、海外で起きていることを真面目にルポタージュすることで怒られるとしたら、それはそれでおかしなことだな、と。タブーなトピックになっている中で、日本に住んでいると語りづらいテーマかもしれないけれど、自分が暮らしている国で起きている事実を観察して書いた本なので。

ーー「真面目にマリファナの話をしよう」タイトルの意図は?

本当に「真面目」な話をしたかったんです。タイトルを付けるのは得意ではないのですが 、タイトル的なものがないと書き始められないタイプなので。自分の中のプロジェクト名が常にこれだったんです。

マリファナという植物のまわりには、人権、医療、政治問題にかかわる歴史的背景や事情があります。マリファナの「怖いドラッグ」という一面だけでなく、 歴史的な経緯も含め、全体の輪郭を理解できる本を書きたかったんです。

ーー日本ではまだまだネガティブなイメージが強いマリファナ。海外での肌感はどうでしょうか?

アメリカでは60%以上の人が合法化を支持している、という統計も出ているし、合法化された場所でも、それほど大きな変化は起きていない。アメリカでも昔はマリファナに対してヒッピーでクレイジーなイメージをもつ人もいたでしょうが、この10年強の間でだいぶイメージも変わったと思います。


この背景には、もともと個人主義が強い土壌の上に、医療へのアクセスがどんどん難しくなっているという国の事情があります。特に医療的な視点で言うと、治療の選択肢が増えたということだと思います。注意しなければいけないのは、薬と人間の関係は、「カギとカギ穴」の関係で説明されます。がん治療、てんかん、MS、PSTDなどマリファナが効果を持つとされている疾患はいくつもありますが、 マリファナには種類もたくさんあるし、効く人もいれば、合わない人もいます。

ーーしかし合法化までの道のりは長かったんですよね。その過程を取材してどう思いましたか?

1970年に制定された規制物質法によって、今も続く形での連邦政府によるマリファナの取り締まりが始まるとほぼ同時に、様々な形での抵抗運動が始まりました。以来、ずっと州と政府、市民、裁判所の間で様々な攻防が繰り広げられてきました。そもそも、アメリカは宗主国への反抗でできた国なので、権力が絶対ではない、という精神が浸透していると思います。アメリカの歴史はほぼ抵抗運動の歴史でもあって。だから市民が政府に声を上げるのが当たり前だし、法律は自分たちが決めるものだという当事者意識が高い。これまでの州ごとの合法化も、9割以上が住民投票によって民意で決められています。

ーーマリファナに対する日本の現状をどう思いますか?

日本は島国ということもあり、海外の潮流と隔離されている傾向がありますよね。とはいえ鎖国ではありませんし、 日本で「ダメ、絶対」と言われているものが今、海外でどのように認識されているかというギャップに気がついている人も少なくないだろうと思います。道を歩けばマリファナの匂いがするし、店や広告は嫌でも目に入ってきますから。 それが、日本では逮捕の対象になる罪である、ということは不思議に感じます。


また、全体的に、社会的コストのバランスが悪い。取り締まるためのコストも、仕事を失うなど、逮捕された人たちの人生に発生するコストも小さくない。それでも今の状況を続けていけるのを見ると、日本は余裕のある国だなとも感じています。これまでマリファナの合法化・非犯罪化を決めた自治体には、財政赤字やコストの問題を理由のひとつとして上げているところも多いんです。

メディアの報道を見ても、海外の潮流をほとんど伝えずに、芸能人逮捕の話題ばかりに偏っている。数年前に膵臓がんを患ったシェフの山本正光さんという方が、行政にマリファナの使用を嘆願したり、自らのマリファナ所持逮捕の無罪を、生存権を根拠に裁判所で争っていたことはあまり報じられなかった。 バランスが悪いと思います。


もっとバランス良く報道されるべきですよね。法律上違法となっているから、「ダメなことをしている人たちがいる」というところをグルグル回り続けているというか。せめてバランスの取れた正しい情報をもとに判断できるようにしてほしいと思います。

一方で、社会に明らかに見える形で存在するアルコールの乱用がほとんど問題にならず、メンタルヘルスの必要性についての議論が十分になされていないことにもバランスの悪さを感じます。

ーー日本でも今後マリファナは合法化されるでしょうか?
どうでしょうね、私にはわかりません。ただひとつ言えることは、これをすでにビジネスチャンスと見ている人もいるだろうということです。日本は、今のところ、医療へのアクセスがいいですよね。でも、この少子高齢化で、このシステムはいつまで続くのでしょうか? そのような時、マリファナを使った医療が選択肢のひとつになってもいいのではないかと思います。

てんかん、アルツハイマー、末期ガン・がん治療の副作用と戦うことができる、など、医療界で確立された研究結果が大量にあります。

合法化のシナリオは多数考えられますが、韓国のような解禁の仕方(承認された大麻成分を含む医薬に限る)ならそれほど難しくないかもしれません。

いずれにしても、文化的な考え方の違いのすり合わせや、整備を整える必要があります。現在それを取り締まる為の人たちの雇用はどうするかという問題もあります。アメリカでも、少しずつ時間をかけて変革が行われてきたわけですから。

ーー読者に伝えたいことは?
オープンマインドで手にとってほしいと思います。今、「マリファナなんてけしからん」と思っている人にも、読んでほしいです。

この本は、ただ「合法化すべき!」というだけの本ではありません。世の中には、マリファナを奇跡の薬だと見る人もいれば、堕落の象徴だと考える人もいる。そもそも、どうしてそんなに正反対の意見が存在するのでしょう? そういうことを紐解くつもりで書きました。マリファナも、アルコールや処方箋薬と同じように、使い方によって効果を発揮することもあるし、良くない結果を生み出すこともある。そういう情報を「真面目に」伝えたいと思ったのです。

そしていいの?悪いの?と自分で考えて、判断してほしいと思います。