被災地に置かれた「風の電話」が映画に。 「亡き人とつながれるという思いが、人に生きる希望を与える」

電話ボックス「風の電話」は岩手県大槌町の丘にひっそりと置かれています

東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県大槌町にある「風の電話」が映画化され、2020年1月に公開される。

電話線のつながっていない電話ボックスで、大切な人に会えなくなった人が受話器に向かって、その思いを伝えてきた。映画を通じて少しでも多くの人に「風の電話」を知ってもらおうと、クラウドファンディングで支援を募っている。

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岩手県大槌町にある「風の電話」
©2020 映画「風の電話」製作委員会

「風の電話」は庭師の佐々木格さんが、自身が管理する庭園「ベルガーディア鯨山」に置いた電話ボックスだ。2009年12月にがんで亡くなったいとこと、その家族を思い、「会えなくなっても、家族をつなぐものを造れないか」と考えたのが風の電話だった。 

震災後に設置されると、家族や友人を失った人たちが各地から訪れるようになった。新聞やテレビでも報道され、これまでに3万人以上が訪れたという。電話ボックスには、書家でもあった亡きいとこが書いた、佐々木さんの詩が掲げられている。

 

あなたは誰と話しますか

風の電話は心でします

風を聞いたなら想い伝えて下さい

想いはきっと伝わるでしょう

 

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電話ボックスの中に掲示されている「風の電話は心でします」と筆書きされた詩=2018年8月、朝日新聞社撮影

 

■会えなくなっても声を聞きたい…

映画「風の電話」を企画・プロデュースする泉英次さん(56)は朝日新聞などの報道で「風の電話」を知って感銘を受け、数年前から映画化の準備を進めてきた。

「震災では行方不明者も多く、電話で『母ちゃん、どこにいるの?』と話している方もいたそうです。今いない人に話しかけることは、心に傷を負った方の癒やしにもつながります。

会えなくなっても声を聞きたい、話したいという相手がいる人は日本中にいるはずです。一人でも多くの人に『風の電話』の存在を知ってもらいたい」(泉さん)

映画は、震災で家族を失い、親族に引き取られた少女ハル(モトーラ世理奈)が、広島から故郷の大槌を目指すロードムービー。『M/OTHER』『ライオンは今夜死ぬ』の諏訪敦彦監督が、日本映画としては18年ぶりにメガホンを握る。

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映画「風の電話」の撮影風景
©2020 映画「風の電話」製作委員会

「『風の電話』は岩手県大槌町の丘にひっそりと置かれています。わかりやすい標識や、案内図はなく、『さあ、自分の力でここまでやっておいで』と私たちを旅に誘っているかのようです。私たちも傷ついた主人公ハルの魂とともに、『風の電話』を目指して旅をしてみようと思います」(諏訪監督)

出演は西島秀俊、三浦友和ら。福島を描く場面では、同県出身の西田敏行も特別出演する。2020年1月24日公開予定。

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震災から8年が経った2019年3月にも、友人を震災で亡くした女性が「風の電話」を訪れていた=朝日新聞社撮影

■「つながれるという思いが、人に生きる希望を与える」

「風の電話」を設置した佐々木さんは映画化について、次のようにコメントしている。

「会えなくなった人に想いを伝える電話『風の電話』。亡き人とつながれるという思いが、人に生きる希望を与えることができます。人は人生において、自分の物語を創出し、それを生きていると考えることができます。最愛の人を失った時、遺された人の悲しみを癒すのは、その人の持つ感性と想像力です。人間には、失ったものを取り戻したいと切望する想いがあります。癒しには、亡き人に再会できる、再びつながれるという想像を通して新しい物語が必要となります。

 

この度、『風の電話』の映画化が決まりましたが、主人公ハルは、旅の途中で様々な人たちの優しさに触れ、少しずつ心を開いていきます。故郷の岩手県大槌町で『風の電話』を訪ね、自問自答する中で、どんな時にも人生には意味があることに気付きます。自分は今『人生から問いかけられている』のだから、たとえ今がどんなに苦しくても、全てを投げ出す必要はないのだと」

 

クラウドファンディングでは、全国100館以上での拡大公開や劇場のない地区でのホール上映を目指すほか、ベルガーディア鯨山の維持・管理への寄付も呼びかけている。

支援の受付は11月28日まで。詳細はこちら

(朝日新聞・伊勢剛)