なぜ『プリキュア』を農水省が推すのか? 背景には「米の消費量」低下への危機感があった【2022年上半期回顧】

『デリシャスパーティプリキュア』の魅力を語るのは、農林水産省の25歳の職員。国産米の消費量減などが企画の背景といい、「日曜の朝はプリキュアを見ながらデリシャスマイルしませんか」と呼びかけています。【2022年上半期回顧】
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『デリシャスパーティ♡プリキュア』と、農林水産省の白石優生さん
© ABC-A・東映アニメーション / 農林水産省

2022年上半期にハフポスト日本版で反響の大きかった記事をご紹介しています。(初出:5月3日)

◇◇

「日曜日の朝はプリキュアを見ながら国産米を食べて、デリシャスマイルしませんか」

農林水産省が、2022年2月に放送開始した『デリシャスパーティ♡プリキュア』(デパプリ)を推していくことを発表しました。

ごはんがモチーフで、感謝や思いやりの大切さが伝わる、あたたかいストーリーが繰り広げられるデパプリ。

農水省は「みんなで一緒に、おいしい国産米を食べませんか?」と呼びかける動画やツイートを投稿。インターネット上では「国がプリキュア推し?」「政府公認アニメ」といった反響を呼んでいます。

メインで発信する「中の人」は、小学2年生の時からプリキュアシリーズのファンだという白石優生さん(25)。企画の根底にあるのは「国産米を楽しく、もっと食べてもらいたい」との思い。農水省としてデパプリを推す理由や、国産米を取り巻く現状を聞きました。

 

◆『デリシャスパーティ♡プリキュア』とは

『デリシャスパーティ♡プリキュア』(ABCテレビ・テレビ朝日系列・日曜朝8時半〜)は、2004年に始まったプリキュアシリーズの19作目。ごく普通の少女らがさまざまなきっかけから、伝説の戦士などと呼ばれるプリキュアに変身して、強大な敵と戦う変身ヒロインアクションアニメとして人気を集めています。

デパプリのモチーフは「ごはん」で、テーマは「ありがとうの気持ち」「シェアする喜び」、キーワードは「ごはんは笑顔」。

世界中のおいしい料理が集う「おいしーなタウン」を舞台に、3人の女の子がみんなの「おいしい笑顔」を守るためプリキュアに変身し、「怪盗ブンドル団」に立ち向かう姿が描かれています。

登場するプリキュアは、キュアプレシャス(和実ゆい)キュアスパイシー(芙羽ここね)キュアヤムヤム(華満らん)の3人。プレシャスはパートナーであるお米のエナジー妖精・コメコメ、スパイシーはパンの妖精・パムパム、ヤムヤムは麺の妖精・メンメンに力をわけてもらい変身します。

制作する 「東映アニメーション」が第三者による不正アクセスを受け、3月13日から新作エピソードの放送を休止していましたが、4月17日から再開

初めてできた友達と仲良くなりたいという悩みお店で出す料理へのこだわりや熱意など、心の機微が丁寧に描かれたストーリーが好評を博しています。

 

◆デパプリ推しを表明→ツイートや動画を投稿

農水省がデパプリ推しを表明したのは 「プリキュアの日」の2月1日(日本記念日協会認定)

デパプリの放送開始(2月6日)に先駆けて、公式Twitterで「え、次のプリキュアって『ごはん』がモチーフなんですか!?これはもう推さない理由が見つからないッッ!!日曜朝の早起き継続決定です!!!ごはんは笑顔…真理だ…🍙」と投稿。

約7800回のリツイート、1万1000件以上の「いいね」を集め、「政府公認アニメ!?」といった反響が寄せられました。

続く2月7日には農水省のYouTubeチャンネル「BUZZMAFF ばずまふ」で、「デリシャスパーティ♡プリキュアについて」と題した動画を投稿。

 

「日曜日の朝はプリキュアを見ながらデリシャスマイルしませんか」という一言から始まるこの動画。

国産米の消費拡大PRを行う農林水産省が、主人公の和実ゆいがよく使う「デリシャスマイル〜!」を合言葉に、「日曜日の朝は国産米を食べましょう」と呼びかけていくことを発表しました。

企画でメインで話しているのが、動画に出ている白石さん(右)。シリーズ初代の『ふたりはプリキュア』が始まった2004年2月は、小学2年生だったといいます。動画の冒頭では、何年にどのプリキュアシリーズが放映されていたかを答えるという特技を披露しました。

動画では1話のストーリーをもとに、「ごはんに対する感謝の心」の大切さなどについて語り、「今期のプリキュアには、日本の農林水産業を救ってくれる力になってほしい」と期待を込めました。

動画は10万回以上再生され、「政府の方が真面目にプリキュアの話をしてるの、なんかすごい」、「食が細い娘が今回のプリキュアを見て、私もおにぎり食べる!とモリモリ食べだした時はびっくりしました。ご飯をテーマにしたプリキュア、本当にありがたいです」といったコメントが寄せられています。

3月9日には「上司とプリキュアを語ってみた」との動画を投稿。

上記の動画に寄せられたコメントへの返信をした上で、「プリキュアあるある」やデパプリの感想について語っています。

 

◆農林水産省がプリキュアを推す理由

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農林水産省がデパプリを推す理由を語る、広報室の白石さん
農林水産省

ハフポスト日本版は、白石さんに話を聞きました。

農水省が「デパプリ推し」を表明するのは、国産米をたくさん食べてほしいとの思いがきっかけ。今回の企画は広報室長から「ごはんがモチーフのプリキュアに合わせて、PRできないか」と提案があったといいます。

小さい頃からプリキュアファンだという白石さん。「どうせならプリキュアを好きな人がやってこそ、ファンも国民も楽しめるのでは」と思い、動画で話したいと立候補しました。

これまでは機会がなく、プリキュアを好きなことを周囲には話していなかったそうですが、「プリキュアから、好きなものは好きだと胸を張って良いと学んだからこそ、胸を張って楽しく話すことができました」と振り返ります。

「単に国産のお米を食べてくださいと言うよりも、『プリキュアを見ながら一緒に食べましょう』と誘うことで、みんな楽しくご飯を食べられるのではと思っています」

◆農林水産省はなぜ、国産米を食べてほしいの?

なぜ、農水省は国産米を食べてほしいのでしょうか。

そこには、国産米の消費量の減少がありました。日本の農林水産業や食文化を守りたいという思い、食料自給率の低下への危機感などもあるといいます。

2020年の食料自給率はカロリーベースで37%。1965年の73%に比べ、おおよそ半減となっています。

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日本の食料自給率の推移
農林水産省ホームページ

国民1人あたりの1年間の米の消費量は、1962年度の118.3kgピークに減少傾向にあり、2020年度は50.7 kgまで減っています

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国民1人・1年あたりの米の消費量
農林水産省ホームページ

理由として挙げられるのが、食文化の多様化。洋食や中華料理などが身近になり、パンや麺を食べる機会が、昔に比べて増えているといいます。白石さんは「パンや麺、キュアスパイシーやキュアヤムヤムを否定しているわけではなく、お米も美味しいよと発信し続けたいですね」と話します。

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国民1人・1日当たりの供給熱量の構成の推移
農林水産省「食料需給表」令和元年度確報

生活水準が上がり、1食あたりのおかずの量が増えたことで、相対的にご飯が減ったことも理由の1つ。白石さんは「昔は日の丸弁当が主流だったと考えると、わかりやすいかもしれません」と補足します。たんぱく質、脂質、炭水化物のバランスが理想的だったと言われる昭和50年代に比べ、脂質が多すぎるという問題も指摘されているといいます。

また昔に比べて単身世帯や共働き世帯が増え、家でごはんを炊く人も減っている そう。コンビニや外食を利用する割合は1985年度の15.2%に対し、2019年度は2倍以上の32.7%に増えているようです。

 

◆お米の魅力は?

農水省によると、お米は脳を働かせるブドウ糖のほか、血や筋肉などの身体形成に必要なたんぱく質、ビタミン・ミネラルも多く含まれており、栄養バランスの良い食べ物だといいます。

白石さんは「ごはんは太るというイメージを持たれがちですが、粒でできており、ゆっくりと消化されるため腹持ちが良く、食べ過ぎを防ぐ効果があります」と話します。

またごはんは、肥満を引き起こす原因になりやすい脂質をあまり含んでいないのも魅力だといいます。油を使った料理を減らすなど、おかずの選び方に気をつけることで、お米を食べてもカロリーを抑えることができるそうです。

「日本のお米は品種改良を重ね、世界一美味しいと言う人も多い日本の宝です。健康面の視点でも、より多くの人がご飯を食べてくれるようになれば」

 

◆「プリキュアは大切なことを教えてくれる作品」

最後に、白石さんにプリキュアシリーズへの思いを聞きました。

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プリキュアへの思いを語る白石さん
農林水産省

ーープリキュアを好きになったきっかけを教えてください。

小学2年生の時に始まった「ふたりはプリキュア」を、なんとなく見始めたことがきっかけです。高学年になり、5歳下のいとこもプリキュアを見るようになり、語り合うのが楽しくて、どんどんハマっていきました。当時は「Yes!プリキュア5GoGo!」が放送されていて、アイドルとして活動する春日野うらら(キュアレモネード)のきらきらした様子が大好きで、毎週釘付けでした。

 

ーープリキュアシリーズの好きなところは。

たくさんあるのですが、まずはいきいきとしたキャラと、キラキラした世界観ですかね。そして何よりも、友情や夢、勇気など、大切なことを長年にわたって教え続けてくれるところです。

プリキュアシリーズは毎年違うテーマで、ストーリーが描かれています。だからこそ楽しいのですが、それと同時に、諦めない心の大切さなど、普遍的に描かれているメッセージもあると思っています。シリーズが18年以上続いていることで、いつ見ても誰かを励ましてくれる作品になっていると思います。

また、自分の成長を感じさせてくれる面もあると思います。例えば私が小学生だった頃に放送されていた「Yes!プリキュア5」。当時はストーリーの面白さに惹かれ、毎週プリキュアを応援していました。

大人になって改めて見ると、主人公の夢原のぞみちゃんが不器用ながらにも周りを引っ張っていく姿のすごさに改めて気付かされ、「自分も頑張ろう」と励ましてもらえています。プリキュアが、大切なことを教えてくれるプリキュアで居続けてくれるからこそ、多くの人が人生の中でふと戻ってこられる、原点のような作品になっているのだと思ってます。

 

ーー好きなシリーズ、好きなプリキュアを教えてください。

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白石さんの胸元には、1番好きだというキュアマリンの姿が
農林水産省

 

どのシリーズも好きなのですが、あえて1つ挙げるのなら『ハートキャッチ!プリキュア』(2010年)です。主人公の花咲つぼみが、友人との出会いやファッションなどを通して変わっていく姿を描きつつ、明堂院いつきの本当はかわいいものが好きという葛藤を通し、「そのままでも良いんだよ」と教えてくれました。変わることとそのままでいること、両方の良さを伝えてくれたのがとても良かったです。月影ゆりは大変重い過去がありながらも前を向く強さがあり、憧れました。

特に好きなのは、来海えりか(キュアマリン)です。とにかく明るくて、少し強引なところもあるけれど、みんなを引っ張っていくところが好きで、元気をもらえます。

モデルのお姉ちゃんにコンプレックスを抱いてきた部分もあるからなのか、人の気持ちも考えられる優しさも持ち合わせていて、彼女のような人間になりたいと思っています(※『ハートキャッチ!プリキュア』のキャラ紹介はこちらから)。

 

また『スター☆トゥインクルプリキュア』(2019年)のキュアミルキーも、大好きです。彼女は惑星サマーン出身の宇宙人なのですが、学校に通うんですよね。一生懸命勉強したり、楽しみながら人間世界で色んなことを学んでいく健気さには、心を打たれますし、学校に馴染めなくて悩み葛藤する姿は、応援したくなります。40話の「バレちゃった!?2年3組の宇宙人☆」は涙なしでは見れませんし、全話を通して自分らしくいていいのだと思わせてくれるプリキュアだなと感じます。

 

ーーデパプリの感想を教えてください。また、これからもデパプリ推しの発信はしていく予定でしょうか。

デパプリはとにかくごはんが美味しそうで、 食欲がわく作品だなと感じています。1話のとんかつを食べる描写を始め、食べ物がとにかくリアルで、みていて楽しいです。主人公のゆいちゃんも前向きで、ザ・主人公という感じで推せるなあと思います。

また、みんなで食卓を囲んでいるシーンも印象に残りました。新型コロナウイルス禍で、個食や黙食が推奨される中、友達とワイワイ楽しくご飯を食べたことのない子もいると思います。「食事は楽しいことなんだよ」と子どもたちに伝えてくれていて、ファンとしてだけでなく農水省の職員としても嬉しいなと思います。

今後については具体的には決まっていませんが、これからも何かできればという思いはあります。例えば、ファンの皆さんと一緒に、デパプリの世界観や今後のストーリーを真面目に考察できたら楽しいんじゃないかなあとか。

今はまず毎週楽しくデパプリを見て、視聴者の方々と一緒に盛り上がっていける発信を考えていきたいです。私たちも「ごはんは笑顔」と伝えていければ。

 

◆プリキュアスタッフからも、ありがたいねと話題

東映アニメーションの広報担当者は「農林水産省がデパプリを推してくださっていることは把握しております。デパプリだけでなく、(プリキュアシリーズの生みの親と呼ばれる)鷲尾天さんをはじめとするプリキュアシリーズのスタッフ同士でも、『ありがたい』『嬉しいね』と話題になることもありました」と話しています。

 

〈取材・文=佐藤雄( @takeruc10 )/ハフポスト日本版〉