Netflixは、やっぱり新しい。「メッセージ性を強くすることはそこまで考えない」作り手が明かした矜持とは

Netflixでは、安全な制作現場を作るためにスタッフやキャストが「ハラスメント講習」も受けるそう。Netflixのディレクターにインタビューしました。
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左上:「クィア・アイ in Japan!」、左下:「愛なき森で叫べ」、右:「全裸監督」
Netflix

「作品の中に、『今の社会にはこういうものが必要だ』とメッセージ性を強くすることは、そこまで考えていない」

そう話すのは、Netflix Japanでオリジナル作品の制作に携わるコンテンツ・アクイジション部門のディレクター、坂本和隆さんだ。

同社は6月25日、今後配信予定のオリジナル作品を一挙に紹介するイベント「Netflixオリジナル作品祭」を都内で開催。Netflix初参加の園子温監督や蜷川実花監督らスタッフ・キャストが勢ぞろいし、撮影現場の様子や作品に込めた思いについて語り合った。

社会性の強いオリジナル作品を次々と発表し、多くのファンを獲得しているNetflixだが、人の心を掴むヒット作を生む“秘密”は何なのだろうか。坂本さんに聞いた。

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コンテンツ・アクイジション部門のディレクター、坂本和隆さん
HuffPost Japan

「クリエイティヴで自由度が高い作品が集まっている」

Netflixは2015年9月に日本進出した。これまでに、ピース・又吉直樹原作の「火花」や、永井豪の名作「デビルマン」を現代風にアニメ化した「DEVILMAN crybaby」など、話題作を手がけてきた。

リアリティーショー「テラスハウス」(制作はフジテレビとイースト・エンタテインメント)などは海外でも大きな反響を巻き起こしている。

2019年以降に配信される“日本発”のオリジナル作品は、より独自性が高いラインナップが並ぶ。園子温監督の「愛なき森で叫べ」(2019年秋配信)や蜷川実花監督の「Followers」(2020年初頭配信)は完全オリジナル脚本だ。

Netflixオリジナルの中でも、クリエイターの皆さんが非常にドライブしている企画である、ということは特徴的かもしれません」。坂本さんはそう話す。

「『全裸監督』は原作がありますが、それを元にかなりストーリーを膨らませています。業界ではなかなかオリジナルストーリーを作るのが難しいと言われる中、クリエイティヴで自由度が高い作品が集まっていると言えると思います」

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8月8日に配信される「全裸監督」より
Netflix

安全な制作現場を作るための「ハラスメント講習」も

日本進出時は映像業界の「黒船」と言われたNetflixだが、制作現場での取り組みも新しい。

2019年8月配信の「全裸監督」を手がけた武正晴監督が、トークセッションの場で驚きをもって明かしたのが、撮影前に実施されたという「ハラスメント・トレーニング(講習)」の存在だ。

Netflixによると、このハラスメント・トレーニングは、制作現場での「安全な環境」をつくることを大きな目的にグローバルで実施。オリジナル作品のスタッフ・キャスト全員が講習を受ける決まりになっているという。

「全裸監督」は“AVの帝王”と呼ばれた村西とおるさんを題材にしており、アダルトビデオ業界を描いている。村西監督作品に出演し、かつて一世を風靡したAV女優・黒木香さん役を演じた森田望智さんは、セックスシーンにも挑戦したという。

武監督はこの講習で「特に女性に対して、とにかくリスペクトを忘れない。そこを気をつけながらやること」を学んだ、と振り返っていた。

映像業界においては、過酷な労働環境やハラスメントなどが問題視されているが、スタッフやキャストが安全に仕事ができる現場を作っていこうとするNetflixの努力が垣間見えるエピソードだ。今後も参加者の反応を見て、学びながらトレーニングの表現や内容を調整していくという。

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「全裸監督」でメガホンを取った武正晴監督
Netflix

「メッセージ性」はそこまで深く意識しない

時代の雰囲気を汲み取り、社会性の強いエンターテインメント作品を多く生み出してきたNetflix。

4月に配信された「リラックマとカオルさん」では、リラックマの愛くるしさだけではなく、現代社会にもまれ、人間関係に翻弄されながら生きるアラサー女性・カオルさんのリアルな毎日も描き、大きな反響を呼んだ。

Netflixの坂本さんは、あくまでも、その作品にあったベストなアプローチを探求している」と話す。

「『リラックマとカオルさん』は私も参加した作品なんですが、2Dなのか、実写がいいのか、ストップモーションがいいのか。議論をする中で、もともとリラックマが持っている癒し”や“ふわふわさ”とか、色々な要素を考えると、ストップモーションアニメで13分という尺がベストだという話になって。さらに、どういう物語を紡ぎ出すかという議論の中で、『カオルさん』の視点を切り取りながら作っていこうと決めました」

「あまり説教がましい企画意義というのは、我々はそこまで話さないというか...作品を通してこうしてほしい、と深くは議論しません。そうなってしまうと、オーディエンスが逆に“気づいてしまう”というか。感情移入がちょっと崩れてしまうかもしれませんし、大上段に『今の社会にはこういうものが必要なんだ』とメッセージ性を強くすることは、そこまで考えていません」

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HuffPost Japan

世界に届く「普遍的」なストーリーを

一方で、世界で通用するコンテンツを作るために、作品に「普遍性」を持たせることは意識しているという。

例えば、『全裸監督』だ。一見すると、「テレビでは放送できない」ような奇抜さを意識した企画にも感じるかもしれない。しかし、描きたいものはAV業界の黎明期を駆け抜けていった村西とおるさんの生き様や、周囲の人のストーリーだという。

「私自身が一番興味を持ったのは『村西とおるさんのような方々が日本にいたんだ』、ということです。リーダーシップというものが少し見失われている中で、こうやって突き進んでいる人がいたんだな、と」

「黒木香さんは、わずか数本の出演作でこれまでアダルトビデオに出ていた女優さん達の立ち位置をも含めて覆していった。そして村西さんをメインストリームに持ち上げていった裏の立役者です。こんなにすごい人がいたんだという思いと、男女の人間関係があって物語ができたということに意義を感じました。そういう意味では、これは普遍的な物語で、全世界で楽しめる物語なんじゃないかなと思います」

矜持を持って作品づくりを続けているNetflix。挑戦的な企画で、日本のエンターテインメント界をさらに盛り上げてほしい。

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「Netflixオリジナル作品祭」登壇者。
Netflix