#三浦春馬のここが好き で盛り上がった「カネ恋」は、「不完全な人の生きざま」を肯定してくれた

【加藤藍子のコレを推したい、第1回】特殊な制作経緯から生まれてしまったメッセージ。「かっこ悪いのが素敵だよ。不完全なままで愛しいよ――。」
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三浦春馬さん(2016年撮影)
Jun Sato via Getty Images

連続ドラマ『おカネの切れ目が恋のはじまり』(通称『カネ恋』、TBS系・毎週火曜放送)が2020年10月6日、たった4話で最終回を迎える。

本来は全8話の予定だったラブコメディーだ。だが、メインキャストの三浦春馬が7月18日にこの世を去った。その後、台本を大幅に書き変えて全4話の作品として放送されることが決まり、世間からは彼の「遺作」として注目されることになった。

彼はきっと、「遺作」なんて言われるのは不本意だろう。だって、これはささやかで、とても温かいドラマなのだから。

最終回を前にして物語が大きく動いた、9月29日放送の第3話。主演の松岡茉優と彼の演技は大きな話題を呼んだ。Twitterでは、ドラマのハッシュタグがトレンド入り。「かわいすぎてけしからん」「そんな表情するんか…」――。笑ったり泣いたりと賑やかな、たくさんの視聴者たちの投稿で溢れ返った。

確かに、凄いシーンだった。

15年間、片思いし続けた相手に振られたヒロインを、傍らで応援していた青年がなぐさめる。視聴者はちょっぴり切なくなりつつ、新しい恋が生まれる予感にときめきもするという、ラブコメとしてはある種「お約束」な展開だ。

しかし、俳優2人の力のせいだろうか。「胸キュン」の外側、いやもっと深い根っこのほうにあるような感情が、その場から立ち昇っているように映ったのだ。

物語の前提を説明しておこう。主人公は、おもちゃメーカーの経理部で働く九鬼玲子(松岡茉優)。欲望に振り回されないよう細心の注意を払い、選りすぐったお気に入りのモノだけに囲まれて、つつましく心豊かに生きることを信条とする「清貧女子」だ。対する猿渡慶太(三浦春馬)は、そのおもちゃメーカー社長の御曹司で「浪費男子」。人懐っこく、傷ついた顔をしている人がいればすぐに気づいて声をかける優しさの持ち主だが、金使いに関してはタガが外れている。

「お金の使い方は人となりを表す」などとよくいわれる。それが本当なら、玲子と慶太はまさに水と油。それなのに、2人の距離はなぜか徐々に縮まっていくというストーリーだ。

第3話の、そのシーン。想い続けた早乙女健(三浦翔平)に手ひどく振られ、泣きじゃくりながら落ち込む玲子は、健気で愛おしいのに、同時に鬼気迫っていた。

「だって…だって、だって! 朝起きてきたら早乙女さんがいるであろう方角におはようございますって」「お寺に行ったら、早乙女さんの長生きと健康をお祈りしていたし」

「遠くで見てるだけで幸せって思ってたけど、でも、でも…つい想像しちゃってたし。もしいつか、おじいちゃんとおばあちゃんになって…」

感情を爆発させながら、過大な妄想をしていたことをぶちまける玲子のこんな台詞に、思わずクスッとさせられる。慶太も「強い…思いが強すぎる」と、優しく微笑んで応じる。そして、止まらない玲子の言葉にただうなずく慶太の瞳から、ぽつりと一粒、落ちる涙。

かっこ悪いのが素敵だよ。不完全なままで愛しいよ――。一粒の涙で、作品を貫くそんなメッセージを伝えきった。「受け」に徹した三浦春馬の無言の演技には、凄みがあった。

ラブコメを観ているはずなのに、2人の演技は「恋愛」の枠を超えていたのだ。もっと普遍的な「かっこ悪く、不完全な人の生きざま」への肯定を伝えているように感じた。 

一方で、その「枠を超えている感じ」は、このドラマが私たちに届くまでの特殊な経緯から、否応なく生まれてしまった部分があるのも確かだ。

三浦が撮影期間中に急逝したため、一時放送されるかどうかも含めて注目されていたこのドラマ。

7月末にTBSは、東仲恵吾プロデューサーのコメントとして「ドラマを完結させるべく、 一部台本を書き直して撮影を進めていく予定です」と発表。8話の予定だったドラマは4話完結となった。

だから、本来はドラマの中の別の人物に向けられているはずの玲子の言葉に、いつのまにか自分の心の叫びを重ねてしまった視聴者は多かった。

「私だって、春馬くんの長生きと健康をお祈りしていたのに」とか。
「人生の半分以上、大好きだったのに」とか。 

果たして、こんな見守り方でいいのだろうか。感想実況は盛り上がっているけれど、もっと純粋に「玲子と慶太の話」として受け取れなくて、いいんだろうか。笑って観ようと決めていたのに、気持ちがぐちゃぐちゃになってしまった。

生前、インスタグラムに「皆様に9月から、より笑って頂きたく撮影に励んでおります!」と投稿していた彼。それは、彼と私たちとの大切な約束のように思えていたから、放送決行が発表されてからずっと、「絶対に笑って観てやるんだ」と心を決めていた。

「死にたいと思いながら演じてたの?」「つらそう、かわいそう」――。世間の憐れみや好奇の目に抗うように、私たちファンはやれ「上目遣いがかわいくてしんどい」だの、「猿くん(=慶太)尊すぎてお金あげたい」だの、いつも通りの他愛ない言葉でTwitterのタイムラインを埋め尽くした。だって、彼がそういうふうに、演じているから。第3話の放送直前には「三浦春馬のここが好き」というハッシュタグがトレンド入りしていた。

だがここまで書いて、三浦春馬に一言だけいいたい。

いっぱい笑って観ているよ。だけど、君が生きている世界線の『カネ恋』が、すごくすごく、観たかったよ。

4話完結のドラマが、「本当は8話あったはずのものだ」と知りながら観るのは、どう頑張っても寂しい。完璧な彼のパフォーマンスに「最高だ、最高だ」とはしゃいだ次の瞬間、副作用みたいに「ではなぜこの先はないのだろう」という悔しさが襲ってくる。

彼はこんなかっこ悪いファンでも、許してくれるだろうか。「かっこ悪いのが素敵だよ」と語りかけるその笑顔は「猿渡慶太」のものだけど、それを「三浦春馬」が私たちへ向けてくれていることにして、元気をもらう日があってもいいのだろうか。

ファンは、これからずっとずっと、このやりきれなさと付き合っていくしかない。今は苦さや痛みを伴うけれど、そんな中でも私たちを救ってくれるのは、彼が心血を注いで残してくれた作品の数々なのだと改めて実感させられている。

主演の松岡は、このドラマの放送決行が発表された後、自身のラジオ番組で噛み締めるようにこう語った。

「私のとても個人的な気持ちとして、1カ月と少し、近くで、相手役としてお芝居を受けていた身として、あの素晴らしい猿渡慶太という人物を、皆様に見てほしいと思いました」

心を込めて一緒に作品をつくり上げてきた相手を突然失った痛みは、想像を絶する。そんな中、届ける決意をしてくれた、松岡茉優さん。本当にありがとうございます。

正直今はまだ、慶太の向こうについ「三浦春馬」を見出してしまう人が多い気がする。みんな、彼に会いたくてたまらないから。役を通して、その体温を感じたいから。

でも、時間とともにきっと、違う見方だってできるようになる。TBSの決定には賛否両論あるけれど、「お蔵入り」になって、その希望まで絶たれなくてよかったと、ファンの一人として思っている。

最終回は、この温かなドラマづくりにかかわった全ての人たちへの感謝に胸をふくらませながら、楽しみたい。

(取材・文:加藤藍子@aikowork521 編集:泉谷由梨子@IzutaniYuriko