数字の「9」は縁起の悪い数字なのかそれとも縁起の良い数字なのか-国によっても捉えられ方は異なっている:研究員の眼

日本における数字の「9」の印象は?

はじめに

数字の「9」について、皆さんはどんな印象を持っておられるだろうか。人それぞれ感じ方は異なっているものと思われる。

今回は、この数字の「9」の捉えられ方を巡る状況について紹介したい。

日本における数字の「9」の印象は?

日本において、数字の「9」というと、その発音が「苦(く)」を連想させることから、一般的にはそれほど好まれる数字ではない。

今ではあまり一般的ではないかもしれないが、ホテルやマンション、病院等では、「死(し)」を連想させる数字の「4」とともに、「9」という数字が一桁につく部屋番号を避ける傾向がある。

「49」という数字は、「死苦」「始終苦」「轢く」を連想させて縁起が悪いことから、車のナンバープレートの下2桁に通常は使用されない。さらには、「四苦八苦」を語呂合わせで「4989」と記載することもあり、「9」という数字にマイナスのイメージを有している方も多いものと思われる。

ところが、実際には数字の「9」は縁起の良い数字であるとする一面も見られる。

皆さん、「馬九行久」あるいは「馬九行駆」という言葉をご存知だろうか。これは、「うまくいく」と読む。その意味は、そのままで「万事何事も上手くいく」ということになる。

漢字表記が意味するところは、文字通り「9頭の馬が行く」ということであるが、昔から、9頭馬は「勝負運、金運、出世運、家庭運、愛情運、健康運、商売繁盛、豊漁豊作、受験合格」と、九つの運気をあらわすといわれ、縁起がよいとされてきた、ことに由来している。

なお、漢字表記としては、その他に「馬九行九」、「馬九行」等いろいろあるようだが、同じ意味を有している。

なお、「馬九行久」の縁起物の馬のデザインはほとんどが左向きの題材であるが、これは、古来より「左馬」に勝るものなし、と言われ、左馬は「右に出るものがいない」ということから、勝負運を上げるといわれていることによっている。

中国における数字の「9」は縁起の良い数字

中国では、「九」は「永遠」等を連想させる「久」と発音が同じ「ジュー(jiǔ) 」である(*1)ことから、縁起の良い数字として好まれている。

さらに、中国では、偶数を陰数、奇数を陽数として、その奇数が重なる日を祝う習慣があり、奇数(陽数)が重なる日を「重陽」と読んでいた。

奇数の中で最も大きな数である「9」が古代から特に好まれてきており、「9月9日(旧暦)は重陽の節句」として、縁起の良い日とされている。この日は高所に登って菊酒を飲み,長寿を願い災難を払う風習があった、とされている。

現代の中国における数字の「9」は、特に恋愛、結婚、友情等における場面において好まれており、女性の間で人気があるようである。

(*1)「苦」の中国語(北京語)の発音は、日本語と同様な「クー(kǔ)」である。因みに、韓国語でも「九(구、gu)」と「苦(고、go)」は発音が異なっており、数字の「9」が忌み数になっているわけではない。

個人的な趣味から-クラシック音楽の世界における数字の「9」

クラシック音楽ファンの間では、数字の「9」は一種特別な意味を有しているといえるかもしれない。

クラシック音楽で「第9」と言えば、どなたもご存知な「ベートーヴェン交響曲第9番「合唱付き」」のことを指している。これは、ベートーヴェンの最後の交響曲であり、日本では毎年年末に演奏されることで有名だが、世界でも各種の記念行事の機会に演奏される。

第4楽章の「歓喜」の主題は欧州評議会において「欧州の歌」として欧州全体を称える歌として採択されているほか、欧州連合においても連合における統一性を象徴するものとして採択されている。

このように、「第9」自体は、「古典派以前の音楽の集大成といえるような総合性を備えた作品であると同時に、その後のロマン派音楽の道標となった記念碑的な大作」として評価され、大変人気のある作品である。

ところが、この「第9」には、「第9の呪い」と呼ばれているものがある。これは、作曲家は「交響曲第9番を作曲すると死ぬ」というジンクスのことを言う。

ベートーヴェンが交響曲第9番を完成させた後、交響曲第10番を完成することなく死去したことに端を発している。

マーラーは、「第9の呪い」を恐れて、交響曲第8番の次の交響曲を「大地の歌」と名づけた。その後マーラーは交響曲第9番を作曲したが、交響曲第10番は未完のままで終わっている。

ブルックナーも交響曲第9番を作曲した後亡くなっているが、番号のないものを含めると、10曲以上の交響曲を完成させている。

その意味で、クラシック音楽の世界における数字の「9」は、神秘的な意味合いを帯びているといえるかもしれない。

その他の数字の「9」の使われ方

その他に、数字の「9」が使われている例を挙げると、例えば以下の通りである。

①野球は、1チームのスタメンが9人、打順も守備位置も9人、試合回数も9回である。さらに1回は3アウト、1アウトは3ストライクとなっており、基本的には9個のストライクをとれば1回が終わるということになっている。

②サッカーは、1チームのレギュラーは11人であるが、9番はフォワードのエースナンバーで、ゴールゲッターを意味するストライカーの背番号となる。さらには、試合時間はハーフ45(=9×5)分で、全後半合わせて90分の試合時間となっている。

③ゴルフは ハーフが9ホールで、1ラウンドは18ホールとなっている。

④将棋は、9×9の盤面上で争われる。数独も9×9の盤面に1~9の数字を入れて遊ばれる。

⑤九星(きゅうせい)は、古代中国から伝わる民間信仰で、一白・二黒・三碧・四緑・五黄・六白・七赤・八白・九紫の9つを意味している。

⑥九重は宮中を意味し、九軍は近衛兵のことを指している。

⑦漢字の「九」は強いという意味を有し、九陽は太陽を意味し、九頭竜という形での使われ方もされている。

これらのケースで数字の「9」が使用されているのには、それぞれの由来があったりするが、ここではそれについては詳しくは触れない。

ただし、日本以外の国では、一般的に数字の「9」は「忌み数(いみかず)」とは考えられておらず、先に述べた中国に加えて、西洋でも、「3」と言う数字が「三位一体」等「完全」を示す数字として好まれていることから、それを繰り返すという意味において、「9(=3×3)」という数字が、いくつかのケースで使用されてきているようである。

最後に

今回は数字の「9」について、その日本と中国における捉えられ方等について、報告してきた。

「9」は1桁の数字で最大のものであり、究極を極めて、完結・完成を意味する、最高のものとの意味も有している。その意味では、クラシック音楽の世界での「第9の呪い」なるものも、そうしたことと結び付けられることになるのかもしれない。

一方で、「9」については、その読まれ方によって、国によっては縁起の良い数字であるとも、縁起の悪い数字であるとも認識されることになる。

同じような数字であっても、国によって、その印象や捉えられ方が異なっているというのは、興味深い話である。外国の文化と接する際には、こうした点も認識しておくことで、日常のコミュニケーションにおける何気ない事柄に対する反応等の意味を理解することもできるようになる。

たかが数字、されど数字であり、数字の文化は結構深い意味合いを有している。

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(2018年4月3日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

常務取締役 保険研究部 研究理事