アジアのLGBT問題を議論する国際会議「ILGA ASIA CONFERENCE 2019」開催。アジア各国から300人以上が参加。

アジアのLGBTコミュニティに必要なリーダー像は、「代表者」ではないのかもしれない。

アジアにおけるLGBTイシューを考える「ILGA ASIA CONFERENCE 2019」が韓国のソウル市で開催され、アジア各国から300人以上のアクティビストや研究者等が集まった。

今回で第8回目の開催となるカンファレンスのテーマは「Building Alliances to Strengthen the Movement(ムーブメントをより強いものにするための、アライアンスの構築)」

いわゆる「LGBTムーブメント」は、これまで主に欧米の動きを中心に世界へと広がってきた。カンファレンスでは、アジア特有の文化や歴史、価値観に照らし合わせて、いかにアジアの中で連帯し、LGBTを取り巻く課題を解決することができるかについて議論が交わされた。

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ILGA ASIA CONFERENCE 2019は、韓国・ソウルの「龍山」で開催された
ILGA ASIAのFacebookページより。

アジアにおけるLGBTの課題を考える5日間

ILGAの正式名称は「The International Lesbian, Gay, Bisexual, Trans and Intersex Association(国際レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー 、インターセックス協会)」。132か国から1,200以上の団体が参加しており、1年おきに世界会議である「ILGA World」と、6つの地域会議(パンアフリカ、アジア、ヨーロッパ、ラテンアメリカ及びカリブ海地域、北アメリカ、オセアニア)を交互に開催し、情報共有等を行なっている。

また、世界におけるLGBTを取り巻く現状を調査し、「性的指向」や「トランスジェンダー」に関する法律状況をまとめた世界地図を制作している。

今回筆者が参加したのは、アジア地域の会議である「ILGA ASIA CONFERENCE 2019」。約300人のアクティビストや研究者等が集まった。 

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5日間の日程で、LGBTと職場・企業、DV、スポーツ、宗教、メンタルヘルス、セックスワーク、HIV/AIDS、学校・教育、若者、難民、軍隊、暴力、薬物使用の性行為、コンバージョンセラピー(同性愛治療)の被害の問題など、多岐にわたるテーマの分科会が行われた。

韓国:労働運動を通じて企業のLGBT施策を後押し

「LGBTと職場」に関するセッションでは、韓国で活動する団体が現状について報告。

韓国では、働く人の約8割が「職場の中にLGBTの社員がいることを想定していない」という。ソウルをはじめ、いくつかの都市ではプライドパレードが開催されているが、キリスト教コミュニティの反発が根強く、企業のLGBTに対する施策も進めづらい現状だ。

一方で、労働組合をはじめ、労働運動を通じてLGBTに関する取り組みは広がりを見せてきているという。

例えば、働くLGBTの当事者の声を集めた教材を作ったり、性的指向や性自認による差別の禁止規定を取り入れる等。また、ある会社でゲイの社員が性的指向を理由に解雇されしまった際、その会社への抗議行動に参加した。近年は、女性やパートタイマーに関する運動と連帯することでその規模を大きくしている。

日本でも同様だが、韓国でも主にLGBTに関する取り組みを進めているのは外資系企業が中心だ。韓国系企業や中小企業へといかに広げていけるかが課題になっている。 

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そもそも韓国では、国家人権委員会法で性的指向による差別は禁止されている。しかし、「(国家人権委員会に)あまり力はない」と民弁(民主社会のための弁護士会)の所属弁護士は話す。

近年でも、ゲイの大学生が同性愛を理由に大学を退学させられたという事例や、キリスト教系の大学で、学生がレインボーフラッグを掲げたところ謹慎処分にされたという事件があり、訴訟に発展した(先月勝訴したという)。

景福宮という城では、韓国の伝統衣装を着ていれば宮殿に無料で入れるが、男性はズボン、女性はスカートと規定されている。民弁の弁護士たちは国家人権委員会へ申し立てをし、現在はガイドラインが改訂された。

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NGOを中心に、性的指向や性自認だけでなく、様々な差別を禁止する包括的差別禁止法を求める運動が展開され、2007年には政府が差別禁止法を作ろうとした。しかし、キリスト教コミュニティや企業が反対。病歴、出自、家族タイプ、性的指向など7つの項目が削除されてしまったため市民団体と衝突し、結果的に法律は成立しなかった。

現在も120以上のNGOが連帯し、包括的な差別禁止法を求めて運動を広げているという。

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民弁に所属する弁護士
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インド:トランスジェンダーコミュニティの分断と混乱

アジアのトランスジェンダーを取り巻く課題について考えるセッションでは、タイやバングラデシュ、中国、インドネシア、マレーシア、レバノン、インド、パキスタン、韓国、ミャンマーで活動するトランスジェンダーのアクティビストが各国の状況をシェアした。

インドで活動するアクティビストによると、トランスジェンダーコミュニティの中でも「ノンバイナリー(男女二元論にあてはまらないと自認している人)」など、アイデンティティはより細分化してきているという。
一方で、これまでも第3の性として認識されてきた「ヒジュラ」コミュニティと、「トランスジェンダー」コミュニティの分断や、非当事者層も含め名付けの細分化が混乱を招いていると話した。

パキスタンでは、トランスジェンダーの就労が困難であるため、セックスワーカーとして働く特にトランスジェンダー女性が多い。そのため、「暴力やハラスメントの被害にあうことも多く、警察や弁護士等への啓発が重要」と話した。

セックスワークについて、ミャンマーではコンドームを所持していることが売春行為を疑われ逮捕されてしまうため、セックスワークを通じてHIVの感染に繋がってしまうという。セックスワークの法的保護やHIV/エイズ予防について課題を提起した。

自身のパスポートの性別欄が空欄の状態だというマレーシアのアクティビストは、今回ILGA ASIAに参加するため韓国に入国しようとした際、入国審査でパスポートに不備があると別室に連れて行かれた。「国によって理解や制度にギャップがあるため、国際的な啓発や政策提言をする組織が必要ではないか」と語った。

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アジア各国のLGBTを取り巻く現状についての資料や、さまざまな団体のパンフレットが配られた。
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イラン:海外のプライドパレードに参加し、自国のアライを見つける

ILGAが出している性的指向に関する世界地図によると、約130の国で性的指向による差別を法的に禁止している一方、約70の国では同性愛行為が違法とされている。このように国や地域によってLGBTを取り巻く環境のギャップは大きい。 

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ILGAが作成した性的指向に関する各国の法的な状況をまとめた世界地図。
ILGA

しかし、ILGA ASIAなどの国際会議で浮き彫りになってくることは、上述したマレーシアのアクティビストが直面した課題のように、LGBTを取り巻く課題は国内だけでなく、国境を超えて解決していく必要性があるということだ。

LGBTと難民に関するセッションでは、タイのアクティビストがトランスジェンダーの難民支援の必要性について言及。

「タイはトランスジェンダーにとって住みやすい国だと思われているため難民申請が増えているが、そもそもタイは難民条約を批准しておらず、難民への対応が整っていないため困難な状況に陥ってしまう」と語った。

イランからトルコへ毎年多くの難民が移っているが、その中にLGBTの難民も含まれている。

トルコに移ったLGBTの難民は、コミュニティを形成し、トルコのプライドパレードでフロートを出しているという。ちなみにトルコのイスタンブールでは、プライドパレードの開催が禁止されているが、今年もプライドパレードが開催され、警察と衝突を起こしている。このようにトルコもLGBTを取り巻く現状が必ずしも良いという訳ではない。

しかし、イランからの難民コミュニティは、イラン国内でLGBTについて語ることが難しいため、トルコのパレードにフロートを出し、イランからの旅行者に対してイラン国内のLGBTを取り巻く現状について知ってもらうためにアピールをしているという。

イランからの旅行者の中には、トルコで一緒にプライドパレードを歩いてくれた人もいたそう。イランの海外で、自分の国のアライを見つけているのだ。

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台湾と日本の婚姻平等に関するキャンペーンをシェアするセッションも行われ、日本からは「Marriage For All Japan – 結婚の自由をすべての人に」の加藤丈晴弁護士、「同性パートナーシップ・ネット」共同代表の池田宏さんが登壇した。
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LGBTコミュニティに必要なリーダーシップとは

アジアでどのように連帯し、LGBTを取り巻く課題の解決を進めていけるだろうか。

今年5月に同性婚の法制化を実現した台湾では、キャンペーンの中で、「平等」という言葉より、「尊重」や「調和」という言葉の方が一般の人たちに響いたという。

このメッセージを元にキャンペーンを設計した。一番反響がよかった動画は、自分の孫が同性愛者だと知った祖母が孫を受け入れ、結婚を応援しているということを話すメッセージ動画だった。 

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「アジアにはもっとリーダーシップが必要だ」と、ILGA ASIAではLGBTコミュニティのリーダーシップのあり方についても議論された。

セッションでは、コミュニティのリーダーは「代表者」ではなく、様々な当事者の声を保障し、議論をリードしていくインクルーシブな姿勢が必要だという意見が目立った。

イランのアクティビストは、「特にパターナル(父権的)にならないよう、全ての人にオーナーシップを持ってもらう必要がある」とし、「組織や意思決定がなるべく階層的にならないよう、リーダーはバランス力を持ってファシリテートする必要がある。議論に時間はかかるが、忍耐強くなければならない」と述べた。

また、LGBTを取り巻く環境が特に厳しい国では、そもそもLGBTコミュニティ内で安全に意見を述べることができ、当事者の声が排除されない場づくりが重要だという。

課題を前に進めるためにはどうすれば良いかだけでなく、バックラッシュが起こることを想定し、後ろに戻らないように(政府等を)どう注視していくかという体制の構築も重要だ。

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5日間に渡って開催された「ILGA ASIA CONFERENCE 2019」。制度から文化まで、どのような戦略で、どんなメッセージで、どんな組織やムーブメントを作り、社会を変えていくか。アジア各国の取り組みから学べることが多かった。同時に、LGBTに関する活動がアジアでこれだけ広がっていることを知り、エンパワーされるカンファレンスだった。

韓国のLGBTユース支援センター「DDingDong」視察報告

カンファレンス後に、韓国でLGBTユースを支援するセンター「DDingDong」を視察することができた。

DDingDongは、2013年に性的マイノリティの学生が自殺してしまった事件をきっかけに設立された支援センターで、5名の常勤スタッフと15名ほどのボランティアが、相談事業や、LGBTユースのためのこども食堂、自立支援、教材開発などの事業を運営している。 

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センターの様子。写真の右側のキッズスペースや、手前のテーブルでご飯を食べたり交流をしている。
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相談事業では、2015年から2018年の間に1000件以上の相談を受けており、年々相談件数は増加しているという。電話だけでなく、カカオトークを通じての相談や、訪問での相談も行なっている。

2014年に韓国の国家人権委員会が行った調査によると、約8割のLGBTの児童生徒が、学校で先生から差別的な言動などを受けたことがあると回答しており、同じ児童生徒からの被害の場合はその割合は約9割にのぼるという。

このように、LGBTユースの多くはセクシュアリティに関する悩みを誰かに打ち明けることが難しい現状がある。 

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相談スペース
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DDingDongに寄せられる相談の内容は、主に自傷や自殺、メンタルヘルス、家族との関係、学校などについて。韓国にはDDingDong以外にLGBTユースのためのセンターがないため、結果的に全国から相談を受け付けている。

日本では、厚生労働省管轄の相談事業「よりそいホットライン」で、セクシュアルマイノリティラインを設けており、24時間365日相談することができる。しかし、DDingDongは、一部の企業や個人寄付をもとに市民団体が運営しているため、24時間電話を受け付けることができない。

現状は、スタッフが持ち回りで携帯を持ち、時間外にかかってくる電話にも対応しているが、このままでは継続することが厳しい状況だという。

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支援企業。DDingDongはソウル市内にあるが、以前、保守的なキリスト教コミュニティや地域住民の反発があり、場所は公開せず、看板等も出していない。
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センターでは家出をしたLGBTの子どもたちを一時的に保護することもある。シャワーや洗濯も利用可能で、必要な生活用品の提供を受けることができる。しかし、DDingDongはシェルターとしての許可はとっていないため、一時保護のあとは外部の団体に繋げることになっている。

他にも、相談者が別の専門的な相談を受ける際にDDingDongが費用を負担したり、HIVに関する相談や検査のために一緒に病院へ連れ添ったり、DDingDongに常駐する弁護士が法律相談も行なっているという。

アウトリーチや自立支援など、活動は多岐にわたる

相談事業以外では、「ポチャ」と呼ばれる屋台を月に1回、ソウルのいわゆるゲイタウンで開き、主にゲイやバイセクシュアル男性の若者にアウトリーチをしている。

LGBTユースは、主に匿名のTwitterアカウントを利用しオンライン上のコミュニティを形成しているが、オフラインで集まる場所がなかなか少ない。

そこで、DDingDongが場所を提供し、こども食堂のような形で食事会を定期的に行なっているという。全国で開催してほしいという要望が集まっており、今年は釜山や済州でも行う予定だ。

「Rainbow Navigation」と名付けられたプログラムでは、家出をしたLGBTユースと一緒に住む場所を探したり、ご飯の作り方やお金の稼ぎ方などを教えたり、自立支援を行なっている。

今年からは、特にトランスジェンダーのユースを対象に、性別移行に関する医療や法律に関する情報を提供したり、一緒に着たい服を買いに行くといったプログラムを行なっていく予定だ。

韓国では、保守的なキリスト教コミュニティがHIVに関する不適切な情報によるネガティブキャンペーンを展開しているという。そのため、まだまだHIVやエイズに関する適切な知識が広がっておらず、差別や偏見も根強い。DDingDongでは、HIV陽性者への支援や予防、検査に関する啓発等を行なっている。

この他にも学校で性的マイノリティに関する適切な情報を学べるよう、学校向けのガイドブックを作成するなど、活動は多岐に渡っている。

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常勤スタッフの方によると、こうしたインフラが全てソウルに集まってしまっているため、ソウルと他の地方でLGBTユースの生きやすさが大きく異なるという。都市間の格差を埋めることも今後の課題だ。

本来は学校での教材開発等を進め、LGBTユースがDDingDongに直接繋がらなくてもサポートを受けられるようにしていきたいが、目先で必要な支援が多く、結果的に事業の幅が広がっているというスタッフの言葉が印象的だった。

日本とも共通する課題が多く、DDingDongのLGBTユースへ向けた多岐に渡る活動とその背景や想いを伺い、学びの多い時間だった。

(2019年09月03日fairより転載)