「死神とのレース」逆走は当たり前。過酷すぎるフードデリバリーの実態を告発、中国の運営企業に批判殺到

配送員の時間を確保するため、注文時に「あと5分/10分長く待てます」という選択肢を実装すると発表した企業も

フードデリバリーの配送員とは、死神とレースし、警察と戦い、赤信号と友達になることだー。

スマホから注文するだけで自宅やオフィスに食べ物を届けてくれる「フードデリバリー」が一般化した中国で、配送員のあまりに過酷な労働環境を告発した文章が反響を呼んでいる。

配送員はAIによって定められた配達時間に縛られ、赤信号の無視や逆走といった危険な運転を強いられているという。反響の大きさに、サービスを提供する運営元は大急ぎで待遇の改善を打ち出した。

■ナビが逆走を指示

話題を呼んだのは、中国の雑誌「人物」がウェブで発表した「システムに縛られた配送員」と題された記事。配送員や学者などへの取材をもとに、過酷な労働環境に問題提起している。

もともと、中国ではフードデリバリーが盛んだ。スマホから簡単に注文でき、日本よりもはるかに普及しているキャッシュレス決済の残高から支払える。特に黄色い制服が特徴の「美団(メイトゥアン)」と青い制服の「餓了麼(ウーラマ)」のシェアが大きい。

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「美団」の配送員 REUTERS/Aly Song
Aly Song / Reuters

記事では、配送員が時間に縛られ、次第に危険な運転への感覚が麻痺していく過程を描いている。

注文が入ると、配送員のスマホには食べ物を受け取る店と配送先の住所、そして配送の目安となる時間が表示される。この時間よりも遅れることは許されない。時間オーバーはすなわち、ユーザーからの低評価につながり、配送員の給料がマイナスされてしまうからだ。

さらに配送に許される時間も減っている。記事では、もともと50分必要だった距離を35分で届けるよう要求されたケースなどが紹介されている。さらに、大雨や台風でも厳しい時間制限が課され、時間オーバーによる減収が頻発しているという。

時間を計算し、示すのはAIだ。配送員の位置やルートなどを考慮して決めているという。各社ともにユーザーを囲い込むため、より短い時間で届けられるように常にAIを進化させている。

しかしそれも完全ではないようだ。複数の配送員が道路の逆走や、ひどい時にはバイクで歩道橋を渡るよう、AIの示すナビに指示されたという。

こうした要因が重なり、配送員は収入の確保のために時間に追われるようになる。一部の地域では、配送員の死傷する事故も増えているという。

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雨の中配送する 餓了麼(ウーラマ)の配送員。青い制服が特徴。餓了麼は中国語で「お腹すいた?」という意味 (Photo by Yang Zheng/VCG via Getty Images)
VCG via Getty Images

■「あと5分待てます」オプション実装へ

この記事は各メディアやプラットフォームが転載したこともあり拡散され、中国のネット空間で大きな話題を呼んでいる。

読者の批判の矛先は、配送員に厳しい待遇を強いているとされたデリバリーサービスの運営元の企業だ。「一番忙しく、収入が少なく、リスクを負っているはずの人間が、一番発言権を与えられていない」などといったコメントが相次いでいる。

これを受けて、企業側は大急ぎで対策に乗り出している。記事がアップされた翌日にはプラットフォームの「餓了麼(ウーラマ)」が声明を発表

 「システムには命はありませんが、人には命があります」と配送員の安全を優先する姿勢を強調したうえで、注文時に「あと5分/10分長く待てます」というオプションを実装すると発表。「もしお急ぎでなければ、このボタンを押して配送員に少しの猶予を与えてください」と呼びかけた。

同じく大手の「美団(メイトゥアン)」も文章を出し、配送員に8分間の猶予を新たに持たせるほか、悪天候での配送時間に見直しや注文取消しなども検討するとした。

フードデリバリーの配送員は、専念すれば大卒初任給を超える収入が得られるなどといった噂もあり人気を集めていた。一方で、労働環境の悪さも指摘されていて、今回は記事をきっかけに改めて批判が集中し、運営元が動いた形だ。

ただ、「ユーザーの待ち時間を増やすことだけでは解決にならない」などといった意見もネットにはあり、今後どのような改善策が実行されるかが注目される。