ボルネオ島の森を守る、パーム油の小規模農家支援

生産国と輸入・消費国、どちらもパーム油の生産と熱帯林の開発問題の共に責任を負っている。

世界一消費されている植物油、パーム油。東南アジアでは今、その原料となるアブラヤシの生産量の拡大に伴う熱帯林の破壊が問題視されています。特にボルネオ島の西カリマンタン州では、近年アブラヤシ農園の開発がブームとなり、さらなる森林破壊が危ぶまれています。森の環境に配慮しながら、地域が持続可能なパーム油の生産に取り組めるよう、WWFジャパンはボルネオ島での小規模農家への支援を開始しています。これまでの支援活動の進捗を報告します。

パーム油をめぐる森林破壊の問題

パーム油は、「植物油」「植物油脂」「加工油脂」「ショートニング」「マーガリン」といった原材料名で表記され、現在、世界で最も広く使用されている油です。

ポテトチップス、カップ麺、お惣菜やコンビニの揚げ物、パンなど、8割が加工食品に使われる一方、洗剤や化粧品、バイオマス発電の燃料にも使われており、日本での生活ですべての人が使っている油、といっても過言ではありません。

しかし、このパーム油の原料となるアブラヤシの主な生産地は、インドネシアとマレーシア。東南アジアの貴重な熱帯林が広がる地域です。

このため、この2カ国ではパームの生産の飛躍的な拡大に伴い、熱帯林が大規模に開発され、アブラヤシ農園(プランテーション)に転換される問題が生じてきました。

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しかしこの問題は、「それなら、パーム油を使わなければ良い」という考え方では解決できません。

パーム油の使用をやめると、さらなる森林破壊が引き起こされる可能性があるからです。

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その理由は、パーム油の高い生産効率にあります。

他の「植物」と比較すると、大豆油は1ヘクタールあたり0.36トン採れますが、パーム油は3.8トン採ることが出来ます。菜種油やヒマワリ油といった、他の植物油と比べても、土地面積あたりの生産効率は、現状ではパーム油が最も高いのです。

仮に、パーム油を他の植物油に切り替えた場合、今よりも広大な農地が必要になる可能性があり、それがさらなる森などの開発につながる恐れがあるのです。

解決のカギを握る小規模農家

そこでWWFは、パーム油の生産方法を森林に配慮したものに変えていていくことが大切だと考え、2004年に「RSPO(持続可能なパーム油の円卓会議)」を設立しました。

これは、森林保全や地域住民の暮らし、労働環境などに配慮した「持続可能なパーム油」の認証と生産を推進する非営利組織です。

これまで、パーム油を生産/利用する大企業を中心にRSPOへの参画が広がってきました。これにより2018年には、世界のパーム油の生産量の19%がRSPOの認証油で占められるまでになりました。

しかし一方で、世界のパーム油の生産量の約4割をまかなっている「小規模農家」と呼ばれる生産者の間では、まだRSPOへの参加や認証の取得が進んでいません。

小規模農家とは、家族経営で通常約2ヘクタール前後(最大でも50ヘクタール)の大きさの農園を運営しているアブラヤシの専業農家を指します。

特定の企業にも搾油所にも属さない多くの小規模農家の場合、どこで良い苗を買えばいいのか、いつ収穫すればいいのか、といったアブラヤシを栽培の基本情報や知識も不足しがちです。

そして、少ない収益に悩む中で、なんとか収穫量をあげようと、農園を拡大しようとします。

実際、多くの小規模農家には「合法性」や「持続可能性」に配慮するという認識もないため、これが新たな森林破壊を引き起すケースが生じているのです。

また、RSPOの認証を取得するには審査などのコストがかかるため、家族経営などによる小規模な農家では、取得が難しいのです。

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そこでWWFジャパンはWWFインドネシアと協力し、小規模農家が森林破壊を引き起こすことなく、持続可能なパーム油が生産できるよう、小規模農家を支援するプロジェクトに取り組んでいます。

ボルネオ島 西カリマンタン州での取り組み

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かつて島全体が原生林に覆われていたボルネオ島。島の西端に位置する西カリマンタン州では、近年アブラヤシ農園の開発ブームが起きています。ここでも、オランウータンなどの野生生物にとってすみかとなる、生物多様性が豊かな原生林が、急速にアブラヤシ農園に切り替えられてしまう問題が生じてきました。

シンタン県の農家の人々

2014年からWWFインドネシアは、ボルネオ島西カリマンタン州シンタン県において、105人の小規模農家と協力し、あわせて170ヘクタールのアブラヤシ農園での管理を改善する取り組みを続けてきました。

トレーニングは主に、WWFの支援によって設営された、RSPOの持続可能な農法を普及するためのラーニングセンターで実施されています。

この取り組みでは、まず小規模農家の人々を集めた「生産組合」を結成。

これによって、良質な苗木や肥料、除草剤などを、まとめて購入できるようになりました。

さらに、ラーニングセンターでは、デモプロットを設け、栽培条件を少しずつ変えながら研修を継続。その結果、2013年~2015年にかけて生産性が30%上昇し、更に2017年までに50%も上昇しています。そして、この結果を見た組合の他のメンバーが、同様の取り組みを自分の農園でも実践し始めており、島外からも、関心を持つ関係者が訪れています。

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また、この取り組みでは、アブラヤシのみに頼らない農業の推進も支援してきました。

アブラヤシ栽培に生計を依存すると、パーム油の国際価格が変動した時、収入が不安定になる恐れがあります。さらに、雨が続く雨季の洪水で道が冠水し、農園から搾油工場までのアクセスが断絶すると、収入源が絶たれてしまう恐れもあります。

そこで組合では、トウガラシやスイカ、パイナップル、サトウキビなど他の作物を育て、収入方法を分散させる取り組みも実施してきました。

今後は、2020年末に向けてRSPO認証が取得できるよう、WWFインドネシアは引き続きこの生産組合を支援していく予定です。

現地からのコメント

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メラウィ県の農家の人々

メラウィ県は、シンタン県に隣接する、ブキ・バカ・ブキ・ラヤ国立公園をはじめとした山間地域に残された天然の森が広がる地域です。

しかしここでも、収益の低さに悩む小規模農家による、アブラヤシ農園の拡大が進みつつあります。

ここでの生産性の低さは、取り組みの進んだリンバハラパン組合のデータと比べても歴然としています。

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WWFでは2018年9月、メラウィ県全体の小規模農家でもこの取り組みを推進するべく、支援すべき農家の選定を進めています。

対象となった農家は、メラウィ県内での取り組みのモデルケースとなり、最終的にはこれを県全体に広げていくことを目指しています。

またメラウィ県政府は、小規模農家の数や増加傾向、分布情報も持ち合わせていない状況にあるため、このプログラムでは政府への情報提供にも協力しています。

農家に対しては、シンタン県での取り組みのように、持続可能性というコンセプトを共有するところから始め、保護すべき森林の特定方法をトレーニングし、生産組合を設立する予定です。

また県政府に関しては、土地利用計画の策定を支援、農業指導員に対してもトレーニングを実施し、政府が主体となる小規模農家への生産支援が実施できるよう、取り組みを進めてゆきます。

現地からのコメント

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生産国も、輸入・消費国も、双方が共に責任を負っている、パーム油の生産と、熱帯林の開発問題。

WWFはこれからも、それぞれの国、地域において、問題の解決につながる働きかけを続けてゆきます。

関連情報:詳細はこちら