アメリカの保育サービスの問題点は「高すぎる」こと

カリフォルニア州の平均コストは年間1万6000ドル(約178万円)で、夫婦の収入の18.6%だ。
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クリステル・イングランド=キーフさんは、カリフォルニア州ソノマ郡のNPOに所属する紹介スペシャリスト。過去3年間、数百もの家族の保育サービス探しを手助けしてきた。しかし、彼女自身が2人の息子たちの保育サービスを探したら、大変な困難を経験した。

彼女と夫は2人共大卒で、仕事もある。それでも、クリステルさんは子どもたち2人を同時に保育園に入れるには、少なくとも月に2000ドル(約22万円)以上、実際にはそれよりもっとかかるだろうと言う。現在、洗濯乾燥機なし、エアコンなし、寝室2つの、サンタローザの騒々しい道路に面した消防署隣りのアパートの家賃支払いもままならないそうだ。

その場しのぎの対策として、4歳の長男を幼稚園に入れた。そこへ通えば、アパートの中ではできない活動や外遊びなども経験できる。しかし1日中幼稚園に行かせるのは値段が高すぎるので、彼女は出勤時に息子を送り、昼休憩の間に迎えに行って家に連れて帰る。家では夫が2歳の次男を朝から世話をしている。

数時間後、午後4時半ごろ彼女は仕事を終えて夫と交代。夫は夕方からカジノ監査の仕事をしている。彼のシフトは午前2時半までなので、2歳の息子が起きるまで数時間しか眠れずに再びこのサイクルを繰り返さなければならない。

クリステルさんと夫が2人とも休みの日は、順番に睡眠をとって過ごすことが多い。「夫婦というより同居人」と彼女は皮肉る。「家族全員が常にストレスを感じている状態です」

もっと手頃な保育サービスを見つけられれば、毎日少しでも回復する時間が得られるはず、とクリステルさんは言う。そして救命士として訓練を受けていた夫も復学して看護師の免許を取り、給料も今よりずっと上がるかもしれない。「再び家族として夫婦関係に集中したり、経済状況を改善したり、色々できるようになるでしょう」

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 良い保育サービスを見つけるのは、アメリカ中で困難

クリステルさんと同様の状況はアメリカではかなり一般的だ。両親のいる家庭でチャイルドケアの平均コストは、10年以上統計を取り続けている団体、チャイルド・ケア・アウェアによると子ども1人につき収入の10%ほどだ。しかしこの数字は多くの個人差を隠している。このコストは、物価の高いエリアに住み、収入が低い、または1人以上の保育サービスが必要な子どもたちを抱えている家庭にとってはかなりの打撃だ。

例えばミシシッピ州では認可保育サービスの値段は年間5300ドル(約59万円)だ。これは同州に暮らす夫婦の平均収入の約7%。しかしカリフォルニア州の平均コストは年間1万6000ドル(約178万円)で、夫婦の収入の18.6%だ。

シングルペアレントの家庭では、収入が平均よりかなり低いことが多く、負担がより大きい。カリフォルニア州で保育にかかる1万6000ドルは、シングルペアレントの平均収入のなんと60.4%にもなる。しかもこれは子どもが1人の場合だ。

これは、アメリカ独特の問題だ。フランススウェーデンや他のほとんどの経済先進国では、政府が大規模な保育プログラムに予算を提供している。完璧なシステムとは言えないが、現実としてこれらの国々の働く親たちは殆どの場合、高品質の保育サービスを手頃な値段で得られる。

アメリカでは、保育サービスのコスト補助が必要な親は、比較的安価な連邦政府、州や地元の様々な取り組みの補助金を寄せ集めなければならない。一部の親は、子どもの発達に特化した無料プログラムを利用するが、それらは低収入の家庭のみ利用可能で、空きも非常に少ない。

高すぎる保育コストは、多くの場合最終的に育児の全責任を背負うことになりがちな女性にとって特に不条理だ。仕事や昇進をあきらめる女性もいる。これはより給料の高い仕事のためにはより高価な保育が必要となるからだ。また収入が高くなると低所得層をターゲットにした政府の制度が使えなくなる場合もある。

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Weedezign via Getty Images

「政府の援助が得られる家族にとっては、時給20セント(約20円)ほどの昇給でも収入制限を超えてしまい、このようなチャンスを断る結果になってしまう」と、保育サービス支援団体の広報ローレン・ヒップさんはハフポストUS版の取材に答えた。

多くの専門家がアメリカに手頃な保育がないことが1990年代以降働く女性の割合がわずかに減少している理由のひとつだと考えている。カナダやドイツ、日本などではこの割合は上昇している。

「この問題は将来的な仕事のビジョン、キャリア計画と収入ポテンシャルにも影響を与える」と2017年に経済政策研究所から出された主要報告で研究者は結論づけている。「同様に母親のキャリアと収入は家族の収入に影響を与え、経済全体の健全性にも影響を与える」

影響は経済的なことだけではない。子どもたちが質の低い、最悪な場合は危険でさえある環境に置かれている。クリステルさんのような親は複雑でどうしようもない状況におかれ、家族全体の健全性が損なわれる。

政治システムはこの問題に大きな関心を払ってこなかった。少なくとも今までは。

 

チャイルドケアは政府の最優先事項になりつつある

2016年の大統領選挙戦の期間、ヒラリー・クリントンは保育サービスをより安価にし、同時に質を高める提案を発表した。その後、他の女性議員らも、新たな法律の提議や取り組みを発表した。

現在、これらの提案が実際に法律化される可能性は低い。これらの重大な取り組みの実行には新たな予算と新たな法律が必要で、これは両方とも、政府を牛耳る共和党議員たちがこの数年反対してきていることだ。

だが、これらの女性議員は同政策を支援する努力を続けている。また、2020年の大統領選挙へ出馬を表明したエリザベス・ウォーレン議員はこの件を自身のキャンペーンの最優先提案としており、更に注目を集める可能性がある。

  

保育サービスの問題点:コストと質

チャイルドケアを巡る危機はこれが実際に2つの問題であることだ。質とコスト、という2つの問題は、同時に対応するのは非常に難しい。

保育サービスの質に関するはっきりしたデータは見つけづらいが、2006年に行われた連邦政府の研究プロジェクトでは、アメリカの保育サービスの大部分の質は中程度あるいはそれ以下だった。質が高いと評価されたのは全体の10%に過ぎなかった。

両親は「子どもたちにとって安全とは感じられないような保育サービスに甘んじたり、他に選択肢がないために自宅から遠い保育サービスに通ったりしている」と保育サービスを支持する草の根団体UPLANの主催者は言う。「人々はどうにか対応していますが、良い状況ではありません」

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質の高い保育サービスがある地域もある。低所得家庭のために国が提供する保育サービスや、軍人家族の為のサービスだ。

これらのモデルは、細かいカリキュラムを保ち、保育士たちは十分な訓練を受けており、高い質を保っている。

しかし、このようなプログラムの運営には大きなコストがかかる。才能ある保育士を惹きつけ維持するにはお金がかかることもその大きな理由だ。現在、保育士は時給11ドル(約1200円)以下で働いていることが多いことを政府の統計は示す。駐車場の監視係でさえそれよりは時給が高い。

だが、保育サービスのコストは現時点ですでに高いので、質を高めようとしたらますます高くなってしまう。もちろん、政府が大規模な予算を提供したら別だ。

この計画の提唱者たちはこの懸念について明確で確固とした答えを保っている。つまり、この投資には価値があるというのだ。

「お金が足りなくて保育サービスを受けられない多くの人々と話してきました」と提唱者の1人であるマレー議員はハフポストUS版に話した。「彼女たちは仕事に行けず、仕事をやめたり、昇進も諦めたり...あるいはふさわしいケアを受けられない環境に子供を置かざるを得ないのです。こういったこと全てが、家族、地域社会とビジネス、そして国の将来へ悪影響を及ぼすのです」

クリステルさんはこの問題についてよく知っている。自分の人生で実際に起きたからだ。ある時点で彼女は夫と別居することさえ考えた。そうすれば家庭の収入が変わって支援を受けられるようになるからだ。2人は結局それを選択しなかったが、彼女は他のカップルがこの選択肢をとっても驚かないと言う。

「誰もズルしたいとは思っていない」と彼女は付け加える。「ただ、機能するサービスが欲しいだけです」

ハフポストUS版の記事を翻訳、編集しました。

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