国連気候変動フィジー会議(COP23)始まる

3つの注目点とは

南太平洋の島国フィジーが初めてホスト国を担う、国連気候変動会議COP23が、2017年11月6日から17日の日程で開催されます。フィジーがホスト国ですが、フィジーには大きな国際会議場はないため、開催場所はドイツ・ボンとなります。今回の会議の焦点は「パリ協定のルール作りの進展」と「パリ協定の各国目標引き上げのための対話(2018年実施予定)」です。また、パリ協定の離脱を発表したアメリカの動向にも注目が集まります。

パリ協定のルール作り

気候変動による影響を抑制するため、世界全体の脱炭素化の方向性を打ち出したパリ協定。これは、世界的な平均気温の上昇を、産業革命以前に比べて2度より低く抑え、できる限り1.5度に抑えることを目指す、温暖化防止のための世界の新しい約束です。

2015年12月のCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)における採択の後、多国間条約としては異例のスピードで各国が批准をしたことにより、わずか1年で同協定は発効(国際法として効力を持つ)しました。現時点までの批准をした国の数は169か国になります(2017年10月25日現在)。

パリ協定発効を受け、2016年11月にモロッコ・マラケシュで開催されたCOP22では、2018年までに、同協定を実施していくにあたっての細則、通称「ルールブック」の策定が目指されることが決まりました。

そのため、2017年11月6日から17日の日程で開催される、今回の国連気候変動会議COP23では、このルールブック策定に向けた交渉を進展させていかねばなりません。

COP23の正式名称

  • 国連気候変動枠組条約第23回締約国会議(COP23)
  • 京都議定書第13回締約国会議(CMP13)
  • パリ協定第1回締約国会合第2セッション(CMA1.2)
  • 第47回補助機関会合(SB47(SBSTA47&SBI47))
  • パリ協定特別作業部会第1回会合第4セッション(APA1.4)

この中で今回注目が集まるのは、APAとSBです。

加えて、2018年には、「2018年促進的対話(FacilitativeDialoguein2018)」と呼ばれる、大事なイベントが予定されており、この準備はCOP23で完了する必要があります(後述)。

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WWFジャパン

3つの注目点

1.ルール作りの進展

京都議定書よりもはるかに複雑なパリ協定のルールは、現在条約事務局が提示している項目だけでも60項目を超えており、これをすべて2018年のCOP24までに策定し終えることは簡単ではありません。

ルール策定の交渉とは、つまりは各国の言い分を紙に落としながら、ルールブックの文書にしていく作業です。

どんな項目が必要かを検討(章立て)

項目ごとに各国の意見を回収して、お互いに理解を深め、議論していく

項目ごとに、各国の意見で似ているところ(convergence)、相反するところ(divergence)を整理し、項目ごとに対立する意見を並列させながら、一つの下書き文書にしていく

事務官レベルで可能なところまで交渉した後に、政治的判断が必要な箇所は大臣や首脳レベルで最終交渉を行なう

前回(2017年5月のSB46)までの交渉では、概念的な議論から、分野によっては、ルールブックの「章立て」に相当するものの議論がされ始めました。ルールブックに関するCOP23の成果としては、「章立て」だけでなく、「本文」に相当する部分の下書きを議論する段階にたどり着けるかどうかが鍵となります。重要な分野で下書き(Draft)が姿を現すようであれば、それは大きな前進と言えるのです。

実質的には今回のCOP23を含めても、2018年COP24終了のルール策定期限までの会期は合わせて6週間しかありません。無為な対立を避けて、可能な限りルール作りを進展させなければなりません。

2.先進国・途上国の歴史的な対立を乗り越えられるか

ルール策定の交渉には、あちこちに、以前からの先進国対途上国の歴史的な排出責任をめぐる対立が顔を出します。

すべての国を対象とするパリ協定が成立したのですが、詳細なルールに落とし込んでいく段階で、まだまだ先進国と途上国の間に差異を設けた仕組みにするか、すべての国に同じ仕組みとするか、という深刻な対立が続いています。

この対立はそこかしこに見られますが、典型的には、パリ協定の肝である「透明性」の議論に表れています。「透明性」の議論とは、各国が自らの削減目標をきちんと達成しているかを国際的に報告し、検証を受ける制度のことを言います。

削減目標の達成が義務ではないパリ協定においては、この「透明性」の仕組みが、各国に対し削減に向けたプレッシャーをかける仕組みとなります。したがって、いかに報告と検証の制度を有効なものに作っていくかが、パリ協定がうまく機能するかどうかを分けるカギとなると言っても過言ではありません。

この「透明性」において、先進国と途上国の拭いがたい対立が表れているのです。

途上国側の主張は、「歴史的な排出責任を負う先進国に対しては、透明性のルールは厳格であるべきだ。しかし途上国に対しては先進国とは異なる柔軟なルールでいいはずだ」。一方、先進国側は、本議論が実質的には中国などの新興国に削減を達成させるためのカギとなるため、「先進国と途上国の双方は基本的に同じ仕組みのルールであるべきだ」と主張しています。

これは、先進国と途上国の扱いに差異を設けるべきとする「二分論」と、すべての国を対象とするパリ協定なのだから、すべての国に基本的に同じ仕組みをとする「全体論」との根深い対立ポイントと言えるでしょう。

実際には、途上国グループの中にも様々な考えを持つ国々があるため、交渉はさながら複雑な連立方程式を解くがごとくの様相を呈しています。

いかにこういった政治的な対立をも乗り越えながら、ルール作りの交渉を進めていけるかが問われています。

3.2018年促進的対話への準備

パリ協定は2020年以降の温暖化対策の国際協定ですが、その実施に向けて、関連する仕事はその前から発生します。

特に2020年の前には、各国がパリ協定に掲げている目標を改めて提出することになっています。

その際に2025年目標を掲げている国は、2030年目標を新たに提出し、日本のように2030年目標を最初から掲げている国は、再提出、あるいは更新(update)することになります。

その再提出に向けて、2018年には、その時点の各国の目標を足し合わせた全体目標が、パリ協定の目標である2度未満に気温上昇を抑えることに沿っているかどうかを科学的に確認し、目標の促進を議論するプロセス(2018年促進的対話と呼ばれる)が行われることになっています。

またこれに合わせて、2018年にはIPCCから「1.5度報告書」が発表される予定です。

パリ協定においては2018年以降も5年ごとに目標を提出していくことになっているため、その初回となる2018年促進的対話は、パリ協定の取り決めをパイロット的に試行する形になるため、その成功が重視されるところです。どのように促進的対話を進めていくか、このCOP23で決める必要があるのです。

番外編:トランプ大統領就任後初めてのCOP、新しいアメリカ政府代表団のお目見え

アメリカのトランプ大統領は、2017年6月にパリ協定離脱を表明し、8月4日にはUNFCCCにその旨の書面を提出しました。

しかしアメリカはすでにオバマ大統領下でパリ協定を批准しており、その後パリ協定は2016年11月4日に発効しています。

そのため締約国であるアメリカは、協定の規定で3年間は脱退できず、しかも脱退の意思を正式に通告してから1年後以降に脱退できると定められているため、脱退が可能となるのは、最短でも2020年11月4日以降となります。

この日は次の大統領選挙投票日の翌日であるため、選挙次第で脱退が現実になるかどうかは不透明です。

一方で、アメリカは、気候変動枠組条約には引き続き参加するとしており、パリ協定のルール作りにも参画することになっています。

COP23には、トランプ政権下の新しいアメリカ政府代表団が参加するため、どのような交渉姿勢で臨むのか注目されます。

新アメリカ代表団は、オバマ政権下で、パリ協定成立に力を尽くしたアメリカ政府代表団の副特使が引き続き代表を務めることになっています。

トランプ政権下においても、政治的にはともかく、実際の議論に携わる技術的観点から見ると、アメリカはルール作りに注力しうる態勢にあるようには見えます。果たしてアメリカの姿勢がどうであるかも、一つの隠れた注目点でしょう。

また、トランプの離脱表明に対抗して、アメリカ国内の州政府、都市、大学、企業(以下、非国家アクター)がパリ協定の約束を守っていくとする「我々はパリ協定の中にいる(WeAreStillIn)」に参加しており、10月23日現在でその数は既に2300を超え、さらに増え続けています。

パリ協定はもともとこうした非国家アクターたちの積極的な活動が後押ししたこともあって、成立しました。これらの非国家アクターたちの活動も、COP23において活発に展開されることになっています。特に今年は、トランプ大統領に対抗するアメリカ国内の非国家アクターたちの動きも注目されます。

日本の果たすべき役割は?

パリ協定の成立に尽力してきたアメリカのリーダーシップが表立っては望めない中、日本の果たすべき役割は増加しています。

ルール策定の過程で、特に緩和や透明性の項目において、すべての国を対象としながらも、きちんと温室効果ガス削減や抑制が進んでいるかをチェックする機能などが効果的に策定されていくかに、今まで以上に関与を深めていく必要があります。

その際には、当然ですが、先進国としての責任を自覚して実施してくことが前提となります。近年の国際交渉においては、残念ながら日本は交渉の進展の主要なプレーヤーではなくなっており、むしろ国内における石炭火力への傾倒や海外の石炭火力へ国際融資の姿勢などで非難を浴びることが目立っていました。

こういった姿勢を改め、真にパリ協定の有効な実施に向けて貢献していくことが求められます。

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