「今日はアメリカ出張、明日は北京」の会社は潰れる。甘利明議員が描く「アフターLINE問題」の中国ビジネス

“日本殺すにゃミサイルいらぬ、マスク一枚あればいい”経済安全保障に注目が集まるなか、日本は中国市場をどう扱えばいいのか。

「変な話だけど、よかったと思います。日本のKY、空気を読まないことが暴露されたわけですから」。

「よかった」と言いつつも口調は厳しい。自民党の甘利明氏はこれまで「経済安全保障」を提唱してきた議員の一人だ。いわゆる「LINE問題」を受けて自らがトップを務める議員連盟などで対応を急いでいる。

甘利氏は、この問題をきっかけに中国への情報漏洩リスクが洗い出されるだけでなく、日本全体に経済安全保障の考え方が浸透するべきと考える。特に中国と関わる企業は、場合によってはリスク有りと判断されることもありそうだ。

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取材に応じる自民党の甘利明氏
Fumiya Takahashi

■2つの対応策を約束

「LINE問題」とは、無料チャットアプリ「LINE」で、ユーザーの本名や電話番号、それに暗号化されたチャット内容などが中国・大連にいた技術者からアクセス可能だったことを指す。中国では2017年に民間企業や個人などに国の諜報活動への協力を義務付ける「国家情報法」が施行されており、中国当局への漏洩が懸念されている。

この問題をめぐっては、LINEや親会社のZホールディングスに批判が寄せられた。甘利氏によると、両社は2つの対応策を約束したという。

「1つはサイバーセキュリティの防御システムを装備すること。NIST(アメリカ国立標準技術研究所)のSP800-171に準拠するもので、レベルが高い代わりに高額な設備投資を必要とするものです。2つ目はデータ移転。日本と同等の情報保護ルールがある国にしかデータを移転しないということです。中国は国家情報法があるからこの中には入れません」

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質問に回答する出澤社長
LINEの記者会見中継より

個人情報保護法は2022年4月に改正されるが、改正後もここまで厳格な基準を求めていない。それでも「将来の基準を先取りしてやります、と言ってきた。私はこれが個人情報を扱う企業のテンプレートになると思っています」と対応策を高く評価している。

実際に2つ目の「データ保護レベルが日本と同等の国にしか移せない」ルールについては、甘利氏も法整備などを呼びかけていくという。

■「日本殺すにゃミサイルいらぬ」

個人情報を扱うIT企業などにとって、業務委託先に中国企業があることのリスクが高まりそうだ。甘利氏は、個人情報が中国当局の手に渡る恐ろしさは普段は感じにくいという。

「個人情報をAIで解析することで、行動性向や普通の人と違うところまで把握されてしまいます。自分の親や親友にさえ知られたくない秘密を相手が全部握ってしまう。平時は何も感じないけれど、有事の際にはそれを強烈に使われますよ」

政府は各省庁を通じて、所管する業界の中国企業への委託実態を調査している。「LINE問題は氷山の一角」と甘利氏が話すように、中国へ委託している企業は一定数存在するとみられる。

しかし、こうした企業も好き好んで中国を選んだとは言えないはずだ。委託コストなどの「経済合理性」を考慮した結果とみられる。

「一番安く、あるいは早くやってくれる国の企業に処理部分の委託がされるわけです。しかしそれはなんらリスクがないことを前提にしています」と甘利氏。医療用ガウンや使い捨ての医療用品の多くが中国から輸入されていることを挙げ、「コスト優先」の危うさを指摘する。

「平時は問題なく供給されていても、有事でそれが止まった時には医療がストップする恐れもあります。ミサイルを撃たなくても、必須のものを止めればたちまち窒息する。“日本殺すにゃミサイルいらぬ、マスク一枚あればいい”ということです。サプライチェーンを経済合理性で進めていれば国家の存亡に関わります。命を守るのに10円、100円を惜しんでいられますか。経済合理性で動くのが“経済”、国や国民のリスクまで考えるのが“経済安全保障”です」

■繰り返した「日本は能天気」

こうした「中国リスク」が取り沙汰されるたび、ネットで盛り上がるのは「中国とのビジネスはやめよう」といった言説だ。

しかしこれは非現実的だ。中国は日本にとって最大の貿易相手国(2019年)であり、日系企業も世界最多となる3万3050の拠点を中国に置く(2018年10月時点)。甘利氏も「短絡な言葉です。そう簡単じゃない」と切り捨てる。

その上で、経済安全保障を念頭に置きながら中国でビジネスを展開する必要があると説く。

「アメリカとの信頼関係を損なわずに、中国の市場を取る。“今日はアメリカ出張、明日は北京です”なんて言ったら、その会社は潰れますよ。アメリカからは(情報や技術が)漏洩しないけど、日本と共有したらそこから中国に抜けるとなれば、日本も一緒にデカップリング(分割)されます。アメリカとビジネスしている人は、中国関連には触れない。ビジネスのファイヤーウォール(防火壁)を必ず作るべきです」

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イメージ
wenjin chen via Getty Images

また、進出することで日本の技術が漏洩・模倣されるリスクも考慮すべきだとする。

「技術は徹底的に吸収されますよ。中国市場は丸腰で出て行くほうがおかしい、ということです。虎の子の技術を抜かれて、生産力の勝る中国企業に淘汰されればそれは判断ミスですよ。そういう会社を私の地元でもいっぱい見てきました。私は中国を一方的に責めるつもりはない。生き馬の目を抜く世界だと認識して、その上を行くような企業戦略を持てということです」

甘利氏は取材中、幾度となく「日本は能天気だ」と繰り返した。「今回の事件を奇貨に日本全体がデータ駆動型の、信頼を構築できる社会にしたい」と意気込む。なかでも中国との関わり方は、個人情報の移転のみならず、ビジネス上の多くの場面で「能天気」かどうかが企業に問われることになりそうだ。