ハンガリーの同世代から学んだ、「コンフォート・ゾーン」から飛び出すことの大切さ

日本で流れている時間とは「違う時間」に身を晒すことで、感じられるリアリティ。
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私は、空港が好き。

窓ガラス越しに飛行機を見ながら、機内への搭乗を待っている時間が大好きだ。

特に、国際線はワクワクする。「非日常」の世界に行くんだっていう、この感覚。言葉で表せないような、妙な緊張感が心地よい。

初めて飛行機に乗ったのは、生後5ヶ月の時。父の仕事の関係で渡米することになり、4年余りの時間をアメリカで過ごした。

この経験が影響していたのか、海外=アメリカという図式が私の中で出来上がっていた。だから何の迷いも持たずに、アメリカを留学先に選び、アメリカの大学に進学した。

世界中からきた人々と出会い、異文化に触れていく中で、私は「世界」を知った気分になっていた。無意識のうちに、自分が知っている場所だけの「世界」を作っていた。自分にとって居心地のいい「コンフォート・ゾーン」になっていた。

そんな私が、「コンフォート・ゾーン」から飛び出した。きっかけは、2017年の夏。研究のフィールドワークとして、初めて欧州に行った。この春も、欧州に行った。

欧州と、一括りにしていまいがちだが、それぞれの国にそれぞれの個性がある。その中でもハンガリーは特に印象に残っている。

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世界一美しいとして有名なブダペストのマクドナルド
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アサヒビール1瓶が約90円で買える位物価が安い

日本の中にいると、欧州はテロが頻繁に起こり、治安もあまり良いとは言えず、特に最近では、右傾化が進んでいるというニュースに触れることが多い。

確かにここ数年、「反難民」という意識が背景にあることから、欧州の一部の国で右傾化が進んでいることは事実である。

ところが、実際に現地に行ってみると、リベラルで寛容な人々が多く、イメージと違った側面に遭遇した。

私は、 ハンガリーのリベラル系ウェブメディア「Index」の飲み会に、知り合いを介して参加した。

とてもフレンドリーでオープンマインドな彼らは、排他的で右傾化していると世間一般で言われているハンガリーのイメージからは程遠い。

ハンガリー語が話せない、「外国人」の私にも陽気に話しかけてくれる。

「政治」が話題になった時、

「日本はまだマシな方だよ」と彼らは言った。

「ここは、communist dictatorshipそのものだ。」

(これは共産主義による独裁政治体制を意味するが、1989年にハンガリーは社会主義体制を放棄し、民主化している)

ハンガリーでは、4月8日に総選挙が行われ、オルバン・ビクトル首相率いる与党の右派フィデス・ハンガリー市民連盟が圧勝した。オルバン首相は3期目で、長期政権となりつつある。

欧州連合(EU)に懐疑的で、かねて反移民政策を敷いてきたオルバン首相を「独裁者」と非難するハンガリー人も多い。

私がハンガリーの首都・ブダペストを訪れたのは、この総選挙の1ヶ月前。当時は街中が選挙キャンペーン一色だった。

この時すでに、オルバン首相に有利な選挙と言われていた。しかし、この流れを止めようとしている人たちがいる。もちろん、indexのメンバーたちもこの中にいる。

大量の難民が押し寄せてくる、と不安や恐怖心を煽るようなオルバン首相の選挙キャンペーンに対し、失望、怒り、混乱などの感情を抱く有権者。

メディアで反政権寄りな発信をすると、ハンガリーで働けなくなる。実際、オルバン政権を批判し続け、お取り潰しになったメディアもある。

そのため、テレビをはじめとする多くのメディアは、政府のプロパガンダ機関と化してしまったという。

それでも、Indexで働く彼らは、自分たちの信念を曲げずに、オルバン政権と対峙している。

Facebook, Instagram, あらゆるソーシャルメディアを駆使して。

時には、ミームにしてみたり。

ミームは、その時々の流行に合わせて画像・動画・文章などから作るネタのようなもので、ユーモアや皮肉などが込められている。バスるとネットユーザーによって一瞬で広まる。メッセージのやりとりにミームを使うほど、海外では有名だ。

彼らの発信に対して、少しでも多くの人々が興味を持ってもらえるように、様々な工夫をほどこしている。

「自分たちの会社も政府に潰されるかもしれないね」と笑いながら言う彼らからは、最後まで諦めないと言う確固たる意思と覚悟が感じられた。

「大きな変化をすぐ起こせるとは思っていない。」

彼らは、「この国で何が起こっているのかを正しく伝えていきたい」と話す。

投票率が上がるとオルバン首相には不利に働くと言われていたから、Indexのメンバーは投票を呼びかけるため、自らが率先して投票している姿を読者に届けていた。

私は、ハンガリーの選挙がなぜか他人事とは思えなかった。日本に帰国してからずっとその気持ちを抱えていた。

ハンガリー総選挙当日。

私は、慶應義塾大学三田キャンパスの近くにあるハンガリー大使館に行ってみた。

偶然にも、投票を終えて出てきた若いカップルに遭遇した。

どうやら、このカップルは観光旅行で日本を訪れていたようだ。しかし、旅行の真っ最中だろうが、彼らには関係ない。地球の反対側にある自国の民主主義のために、投票するのは当然だ、と言う。

ハンガリーの若者の間には、言葉にできないような複雑な感情が渦巻いている。

それでも、現状を打破したい一心で、自分たちの未来について真剣に考えている。

結婚したいけど、将来が不安だから、家族をもつことは現実的ではない、という言葉を聞いたときは、日本社会を想起せざるを得なかった。

国は違うけれど、抱えている問題は同じなのかもしれない。

選挙結果は、オルバン首相率いる与党が圧勝。

オルバン首相は強い。

けれど、首都ブダペストでは野党側の候補がほとんど勝利し、与党は若年層票の大半を失った。これは、Indexをはじめとする政府に批判的なメディアや活動家たちの成果だろう。

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gellért hegyから見えるブダペストの夜景

出発前は、「非日常」だったハンガリー。でも、いつの間にか「日常」の一部になっていた。

いつでもどこでも、欲しい情報が手に入る。

そして知らず知らずのうちに、なんでも知っている気持ちになる。

だけど、自分の目で見て、自分の肌で感じてみると、新しい何かを発見できるかもしれないし、新たな側面に触れることができるかもしれない。

これからも、自分の「コンフォート・ゾーン」から飛び出し、新しい場所でアタラシイ時間を過ごしていきたい。そしてそれが、自分がこれから歩んで行く人生のヒントになるかもしれない。

日本で流れている時間とは「違う時間」に身を晒すことで、感じられるリアリティ。

かの有名な「トム・ソーヤの冒険」の著者であるマーク・トウェインの名言にもあるように、偏見や偏狭な見方をなくし、自分の心を開くことができるのも、海外に出て「アタラシイ時間」を過ごすことの利点だ。